境界へ【ようこそ境界へ】
「実はお前に隠してたことがあるんだ、お父さんはな、実は…」
そこまで言った時、突然父さんに声がかけられた。
「煌夜、どうやら…………おや?君はさっきの……あぁ、もしかして、君が煌夜の息子の白亜君かい?」
なんということだろう、全く整理できないが、なんでウェルギスさんが俺の名前を、そしてさらには親子ということを……
「はい……そうですが、なぜ僕の名前を?しかも父さんの事まで……?」
「おや?もしかして煌夜は白亜君に教えていなかったのかい?」
父がまた戸惑ったようにして答える。
「あぁ……教えては居なかったんだよ、まぁ見られてしまった以上隠せないな……実はな、俺は12星座『水瓶』なんだ、そして、理由はまだ言えないが境界へと召集されたからお前の邪魔にならないように秘密でこの船に乗ってたんだ。」
「え?父さんが…………12星座の……『水瓶』?」
まったく思考が追い付かない、今まで少し魔法が得意な父としか思っていなかったのに、その父が…12星座だと言われても、実感が湧かない。
しかしウェルギスさんとの態度を見る限りどうやら本当らしい。
「そうだ、実感は湧かないかもしれないがな……今まで隠しててすまんな。」
「ん……気にしなくて良いよ、別に悪い気分にはなってないからね。」
すると父さんはほっとしたのかふぅと息をはき、ウェルギスさんの方へ向き直った。
「煌夜、とりあえず話は終わったか?それと、この話は白亜君も聞いていてくれ、後からもう一度説明はするがな。」
「わかりました。」
何をするのだろうか?
「ウェルギス、説明頼むぞ。」
「おう、とりあえずはさっきの爆発は完全に人形の仕業だ、といっても、人形はただそこに隠れていただけだ、『怠惰』が恐らく爆発するように仕掛けていたのだろう、そこで爆発した部位は直りそうにないよって、煌夜、君の出番というわけだ、船の下に水を纏わせて、とにかく落下の衝撃を殺そうと言う訳だ、この作戦はかなりの水が必要になる、普通の人が今いるおよそ70人程度だった場合は上手くいかないかもしれないが、今回は煌夜が居る、その上白亜君も、ということで、煌夜、君には甲板に居るメンバーの指揮を頼みたい、といっても展開するタイミングを指示するだけだ。私は船長のアシストをして、全力でバランスを取る、これが今回の作戦だがオーケーか?」
「そうだな、それが現状一番良い作戦だろう。それじゃあ船長の所へ行くか。白亜もこの作戦では大事な要員だ、全力で頼むぞ。」
珍しく父さんがマジメな気がした、しかし今は本当に一大事なのだ、全力を尽くすのみだ。
「もちろんだよ、父さんこそ焦らないでね。」
「ありがとな……それじゃあ行ってくる。」
そういって甲板にあるステージの方へと行ってしまった、この作戦は失敗してしまえばとてつもない被害が出てしまうだろう、今は気になることが多いがこの作戦に集中すべきだろう。
「甲板に居る方々、まずはお集まりありがとうございます、今回の作戦は……………………とういうことなのでよろしくお願いいたします。」
ステージの上で父とウェルギスさん、そして船長が説明を終える。
すると周りが一斉に父さんの指示にそって行動を始める。
俺も配置に付き、行動の指示を待つ。
「境界門通過します!構え!」
2分もたたないうちにいよいよ作戦の開始だ。
「境界門突破!放て!」
指示とともに作戦通りに魔力を全開にして水を生成する。
「第1級魔法・水創造」
周りでも一斉に水が出来上がり、船の下へと集まっていく、父さんが魔力の一部を水の操作へと割いているのだ。
境界は夜なのか星が煌めいていた。
水は展開出来ているが落下速度は変わらないため、もし船の魔力で船へと固定されていなければ飛んでいってしまっただろう、それにしても、すごい景色だ、魔法を展開していて下はよく見えないが、それでも明かりが広く続いている。
「手を緩めるなよ!」
父さんが全体に聞こえるように叫んだ次の瞬間、目の前の遥か彼方の闇の中から一筋の光が、否、焔の光線が向かってくる、それは父さんが使っていた魔導具に当たり、貫いた。
そのとたん展開されていた水が散り始める。
落ちるまではまだ数十秒は時間があるようだが、今の一撃で父さんの力が落ちてしまっている、このままでは……
そんなことを考えていると父さんの声が響く。
「全員、衝撃に備えろ……」
そこまで言ったとたん、ウェルギスさんが甲板に戻ってきた。
「皆さん、もう大丈夫なようです、今回の作戦の参加ありがとうございました。」
もう大丈夫とはどういうことだろうか?
そう思ったとほぼ同時に、優しい声が響く。
「第9級魔法・エンジェルハグ
ようこそ、境界へ。」