境界へ【七つの大罪の脅威】
突然大きな爆発音が船内に響き渡る。
周囲が一瞬で静まり返り…すぐに困惑と恐怖に包まれる。
チラリとルースとヴァンの方に目を向けると…呆気にとられた様子で周りを見回している。
周りからは警備隊が乗客を落ち着かせようとする声がするが…あきらかに焦っているようだ…
爆発音から約2分後…船内にアナウンスが流れる。
「ただいま発生しました爆発音については特殊部隊が捜査中です。皆様にご迷惑をお掛けしている事を深くお詫びいたします。これから調査のため皆様には船内中央ホールへ移動お願いします。繰り返します。ただいま…」
船長だろうか…そんなアナウンスが繰り返されているなか、警備隊が声をかけ周りが皆動き始める。
座っている俺らが動いてしまうと一番危ないだろうし…なかなか動けそうに無い…そう思ってルースとヴァンに声をかける。
「ルース 、ヴァン、ここは一旦安全を確認してから動こう。このままじゃ邪魔になってしまうだけだ。」
「もちろんだ…ちょうど俺も同じ事を考えていた…」
どうやらヴァンは冷静なようだ。
ルースの方を見ると、目を閉じていた、どうやら周りの状況確認を始めていたようだった。
パニックにならないこの二人は本当に助かる。
「それじゃあヴァンも頼むぞ。」
そう言うとヴァンはうなずき背中の深紅の翼を広げ空中へ離脱する。
俺も魔法を展開する。
「第3級魔法…真実の海…」
そう言うと同時に俺を中心とした広範囲の床に薄い水の膜が出現する。
この水は実際には触れる事は出来ない魔力で形成されたものだ…この水に触れると偽装魔法を使っている場合その魔法を解除し、その場所を把握出来る。
魔法に精神を集中する………
どうやら偽装魔法を使ってる者は居ないらしい…少なくともこの甲板の上には…だが…。
するとヴァンも戻ってきた。
「異常は無しだ…特に変わった動きをしてる奴も居ない。」
その報告を聞いて少しは安心した…
「そうか…なら良かった…」
ヴァンによると警備隊や乗務員が協力して乗客を避難させているらしい。
今はもうほとんどが移動できているようだ。
残る報告はルースだけだが…ルースは獣の第六感を使い…周りに居る者の精神状態を感じとる事が出来る。
この能力は集中力が大切であるそうだ…
そんな事を考えているとルースが目を開き、深く息を吐き出す。
「どうだった?何か…感じたか?」
するとルースは少し困った顔をして答えた。
「この甲板には特に何も感じなかったんだけどね…なんか逃げてる方の反対方向から少し嫌な感じが近付いて来てる気がするの…」
逃げてる方の反対…となると…乗務員や警備隊以外立ち入り禁止のエリアだ…
「そうか…少し警戒はしておいた方が良いかもな。」
二人ともうなずいてくれた…いざという時には二人の協力が不可欠だ。
周りを見回すともう動いても安全そうだ…というより…少し遅れぎみだった。
「よし…動こうか。」
二人も動き始め、俺もそっと立ち上がり、移動をしようとしたそのとき、立ち入り禁止エリアへの扉が突然吹き飛んだ…
扉の破片が逃げている乗客に向かって飛んでいく…だが流石は大勢を乗せる船の警備隊だけはあり…魔法障壁を作り出しそれらを防ぐ。
乗客は皆逃げるのに必死で気付いて居ない様子だが…俺らは気付いた…それは吹き飛ばされた扉があった場所に居た…
警備隊もそれに気付いたようで一人が叫ぶ。
「あれは!何故あれがこの船に居るんだ!」
そう…気付いた者は皆同じ事を考えただろう。
「七つの大罪【怠惰】の人形がなぜここにいるんだ!?」
そう境界で最も危険とされる集団…七つの大罪、強大な力を持つ7人を代表とする犯罪集団だ。
今目の前に居る人形は…七つの大罪の一人…【怠惰】が召喚した兵器だ。
遥か昔に境界で戦争が起きた…その時にあの人形は異常な被害を叩き出しているのである…たった一体の人形で村が3つ破壊されたという…。
気付いている者が皆動けないで居るうちにどうやら避難は完了していたようだ。
警備隊や俺らは恐怖に押し潰されそうになっていた…すると人形が何かを無機質な声で発した。
「ツマラナイセカイナンテ…ケシテシマエバイインダ。」
その言葉と同時に人形が魔法を発言発動しようとする…
俺は限界まで魔力を引き出し、とある魔法を発動する。
『第10級魔法・ワールドロック!』
その魔法発動の瞬間…自分を除いた世界が全て止まる。
この後の動作も考えると止められるのは3秒程度…やるしかない!
この魔法は自分以外の全てを止めるという強大な力を持つ魔法だが…その分魔力の消費も激しい。
時間を止めている間に魔法をさらに発動する。
「第6級魔法・アイシクルウォール」
人形の周囲に氷の壁が生成され…時間が動き出す。だがこれで防げるような魔法では無いだろう。俺はさらに魔法を発動する。
「第7級魔法・マジックロック」
この魔法は本来防御魔法であり、魔法を撃たれた際にその動きを止める事が出来るというものだ。
しかし、弾速が速い魔法や場所を指定して放つ魔法には意味を為さないため俺は別の使い方を考えたのだ。
自分が発動した魔法に使うことでさらに強度を増す事が出来る。
人形の魔力が発動される…自分の魔法を通してかなり威力が高いことが分かる…今まで感じたこともないレベルだ…
周りの警備隊が目の前で起きている事が理解出来ていないようだがルースとヴァンは理解しているようだ…
「ルース!ヴァン!頼む!」
俺は魔力をさらに注ぎ込み強度を増していく。
ルースとヴァンが俺の背中に手を乗せる…
そして二人がほぼ同時にとあるスキルを発動させる。
「我が魔力を白亜へ!」
「私の魔力を白亜に!」
それと同時に二人分の魔力が体に流れてくる。
それによって魔力は尽きる事がなく…どうやら人形の魔法は受け止められたようだった。
警備隊は驚いては居たがしっかりと配置に付き、戦闘の準備をしている。
正直勝てる気がしない…さっきの魔法を連発でもされたら勝ち目など無いだろう。
すると突然展開を止めていなかった氷の壁に亀裂が出来始める。
「なんだ…この力…勝てる訳がない…」
情けない事を言ってしまったが実際にそうだったのだ…三人分の魔力を使ってつくりだした防御が壊されてしまうと…何も打つ手が思い付かない。
そしてついに氷の障壁は砕け散る。
人形は怒っているのかさっきと比べ物にならない魔力で魔法を撃とうとしてきたのだ。
警備隊は魔法障壁を全力で張り巡らせ俺ももう一度魔法を展開しようとする…
「第6級魔法・アイシク……」
途中まで言いかけた所で…人形を一筋の光が貫いた。