迷子と英雄
二人のうち片方は見覚えがある人物だった。
そう、この場所に来る直前にぶつかってしまった人なのだ。
「あなた方は……?」
「話は後にしよう、まずはこいつをどうにかしなきゃいけない。お嬢ちゃん、出来る限りで良いから援護をしてくれるかい?」
もう一人の人物が少年の姿がもはやみられない虫に対峙したまま聞いてくる。声的には女性のようだ。
つったってても邪魔になるだけだ、戦場では動かない者ほど足手まといな者は居ない。
白亜のお父さんに昔から叩き込まれた教訓が浮かぶ。まずは動かなきゃ!
「私でよければ援護します!」
「お、すげぇ勇気じゃないか嬢ちゃん。とりあえず俺の事はランシアって呼んでくれ。」
男性の方はランシアさんと言うらしい、確かに名前が分からないまま戦闘を進めるのは難しいから聞けて良かった。
「私はルースです!」
「分かった、ではルースちゃん、私のことはソラと呼んでくれ、細かな指示はない!目標は7大罪幹部、<蟲使いのネラ>だ!」
その掛け声とともに二人はそれぞれ攻撃態勢に入った。
私は邪魔にならない所で二人にエンハンスをかけることにしよう。
「おやおや、こんなところまでご苦労様だねぇ。わざわざ僕の餌になりに来るなんてねぇ!『召喚・クラウモノ』」
ネラの召喚魔法の声とともにネラの周囲に巨大な蟻が大量に出現した。
「ちっ、正々堂々と戦わないとは卑怯だなぁ!こっちも全力で行かせてもらうぞ!」
「先に手を出してくれて本当に助かるよ、私も対処しやすいからな。」
大量の蟻がこちらに迫るなか、二人はその大群をしっかりと見据えていた。
今のうちに魔力と攻撃力をあげておく事にしよう。
正直さっきの恐怖のせいで頭ははっきりとは
動いていない。それでも二人の姿を見ていると何故か勇気が沸いてくるのだ。
「援護します!『第3級魔法・攻撃付与』『第3級魔法・魔力付与』」
それほど魔力消費は無いが、何があるか分からない以上、無駄に使うわけにはいかない。
「ありがとうなルースちゃん、そんじゃマスター、俺が先に行かせてもらうぜ!」
『全てを貫くはサソリの針の如く、穿て【星宝器・アンタレス】』
その言葉が聞こえると同時に天井があるはずの上空から一本の槍が降ってきた。
その槍は蟻を数匹貫き、ランシアさんの手元へとたどり着いた。
「この程度じゃないぜ!『槍奥義・獄炎突き』」
ランシアさんが構えると槍に黒い炎が纏われ、ひと突きするとその延長線上にいた蟻は灰に変わっていた。
「では私も行かせてもらおう。」
ソラさんのほうを見るとソラさんの周囲に青白い光の粒のようなものが大量に漂っていた。
「虫には炎がお似合いだな。『具現化・焔椿』全てを焼き払おう。」
その言葉とともにソラさんの体がひかり輝き、さっきまでのカジュアルな服装から一転して、とても美しい黒と赤を基調とした和服へと変わっていた。
「これはまずいな、残念だが僕は撤退させてもらうよ、後は僕の虫たちと遊んでくれ。」
ネラはそういうと蟻をさらに召喚し、虫の姿のまま逃げようとする。
「させると思うか、『炎獄』『火壁』」
しかしソラさんが二つの魔法を発動させ、周囲が炎で囲まれた。
「ぐ、、愚弄な人間ゴトキガァ!」
怒りに我を忘れたネラがこちらを振り返り睨んできた、ときにはもう遅かった。
「そうやって怒りで我を忘れたことが、お前の敗因だ。『刀奥義・猛龍一閃』」
ソラさんがいつの間にか手にしていた刀の一振りでとてつもない風が巻き起こり、魔法によって囲まれていた範囲に居たネラを含めた蟻達は、跡形もなく消えていた。
「『具現化解除』、ふぅ……こんなもんかな。」
ソラさんが戦闘態勢を解くとまたもや光の粒に覆われ、もとの服装に戻っていた。
「あぶねぇ、久しぶりにマスターの一撃見たけど危うく当たるところだったぞ。」
「まぁまぁ、そこは当たらないようにしてるから安心しなよ。さて、あらためまして……始めまして、ルースちゃん。」