姉弟も騒がしい
引っ越してから今日で3日になる。
都会の雰囲気にはまだ慣れない。
それどころか家の雰囲気にもまだ慣れない。
なぜなら神様たちが居座っているから。
朝起きて、散歩に行って、帰ってきたらぐーたらしている神様たちが目に入ってくる。
「あ、クーピーの先が丸くなってきた。姉さんそこから削るやつ取ってください」
「めんどくさいから自分で取って」
「姉さんの目と鼻の先なのに……」
我が物顔でテーブルを囲んでいる二人。
神様はどうやら仕事がないらしくただのニートみたいなものになっている。
「ちょっと!削りカスこっちに飛んでくるんだけど!」
「ごめん」
俺は神様たちを横目で見ながら複雑な気持ちでソファーに座る。
「おい光助!私は腹が減ったぞ」
「じゃあ冷蔵庫の中に入っているアイス食べていいのでおとなしくしててください」
「アイス!!さっそく取りに行かなければ!」
さっきまでテーブルに突っ伏していたのに勢いよく起き上がりドタバタと台所にかけていく。
「姉さんはアイスの時には全力をだす……メモしておこう」
「おい!光助!このアイス抹茶味しかないじゃないか!しかも5個くらいストックがあるとは!なんでストロベリー味がないんだ!」
「文句があるなら俺が食べるので置いといてください」
「いや自分が持ってきたもの食われるのもしゃくに障るから抹茶味嫌いだけど食べる」
そんな理由で嫌いなもの食えるのかよ。
こんな感じでいるから未だに慣れない。
▼ ▼ ▼
「そういえば光助の家族は今どこにいるんだ?」
神様が口直しにイチゴ牛乳を飲みながら聞いてくる。
「今はまだ父方の実家にいる。もともとは親の家がでかくて二世帯でも住める家だったんだが親父が転勤させられてこっちに来た」
「じゃあいずれはこっちに来るのか……」
「ああ、あと4日、5日したら来るんじゃないか?」
「その時まで何とかしてここに居座る理由を作っとかなければ……」
神様が真剣に悩んでいると家のチャイムが鳴った。
「誰か来たみたいだな……二人は静かにしてろよ」
「私は犬か!」
「似たようなものだろ」
「姉さんは犬と似たようなもの……メモしておこう」
「んなもんメモしなくてもいいわ!」
早く出ろと言わんばかりにチャイムが連打されているので即座に玄関に行きドアを開けた。
「どちら様で……」
「おっす、光助!」
そこにいたのは兄の雷助だった
「おかえりください」
即座にドアを閉める。
「ちょっと!実の兄を忘れたか!!」
「忘れられたらどれだけ楽になれたんでしょうね」
「その扱いひどくない!?俺そんなに嫌われてる!?」
ドアをたたく音がうるさいから仕方なく、仕方なくドアを開ける。
「いやー開けてくれて助かったわ……荷物が重くてな」
すぐさま家に入ってくる。
するともう一人後ろにいた。
「あれ?音姉さんも一緒だったんですか」
「ええ、どうしても雷ちゃんだけだと不安だったから……」
姉弟の中で一番上の音子姉さんも一緒に来ていた。
音姉さんはおっとりしていて面倒見がいい実によくできた姉だ。
そうしてちょっと兄から目を離したらいなくなっていた。
そして居間の扉が開いていた。
「まずいっ!」
俺は居間に急いだ。
居間に広がっていた光景は異様なものだった。
「おお光助!こいつは誰だ?」
「遅かったか……」
居間には神様が四つん這いになった兄に座っていた。
しかも兄は嬉しそうな表情になっていた。
「もう死んでもいい……」
なんか言ってる。
「どうしたの光ちゃん……そんなに慌てて?」
姉さんが居間に入ってくる。
「あ……」
「……」
音姉さんは鞄からスマホを出し無言でシャッターを切って再び鞄にしまった。
「これを使って何をせびってやろうか……」
小声で何かを言っているが音姉さんの表情がやばかったのでかかわらないようにしよう。
「はい光ちゃん……これで電ちゃんをおもいっきりやっちゃって」
鞄からでかいハリセンを取り出して渡してきた。
「神様とりあえずその椅子から降りてください」
「?」
神様が頭から?を出しながら降りた。
俺はとりあえず思いっきり振りかぶって兄の頭を叩いた。
「ハッ!俺は一体何を……」
元に戻った。
「光助俺は今何をしていたんだ……何か幸せだったような気がするが……」
「うるせえ、椅子」
「椅子!?どういうことだ……」
「雷ちゃんこれ何かわかる?」
音姉さんが兄にスマホを向ける。
「何って小さい子が椅子に座っている画像じゃないか」
あ、こいつ遂に自分を椅子と見間違え始めたか。
「この画像がどうかしたの?」
「光ちゃん、110番通報よろしく……私にはできないわ……」
あきれたようにため息をつく音姉さん。
「まあただの椅子ですし、無視しましょう」
さすがに身内から犯罪者を出すのはまずいと思い姉さんを止めた。
「それもそうね……ほら椅子、立ちなさい」
「御意」
椅子って言葉に反応してるし……
▼ ▼ ▼
「それで光ちゃん、この人たちは誰なの?」
ただいまテーブルに向かい合って家族会議中……
「え~っと、なんかこの家の守り神らしいです」
「へぇーそうなんだ……光ちゃん、場合によっては警察に通報しなくもないから正直に言って」
姉さん……もうスマホの画面に110って数字が打ち込まれてるのが見えてるんですが……
「本当なんです……たぶん」
「そう、あなたが言えないのなら本人に直接聞いてみるだけね……」
音姉さんが神様たちに目を向ける。
「単刀直入に聞きますけどあなたたちは誰なんですか?」
「「神です」」
この二人行きぴったり返したな……
音姉さんの顔が引きつっている。
そりゃあ誰だって真顔で神ですなんて言われれば当たり前である。
「じゃあ神である証拠を見せてください!」
証拠なんてないだろ!みたいなどや顔で聞く姉さん。
それに対して神様は、「いいだろう」と軽く承認。
「では、見てろよ……」
そういうと神様はむむむ…と力を入れ始めた。
「な、なにが起こるんだ…!?」
俺はあまりの気迫に一歩後ずさりする。
しかし神様は途中で「あ!」と声を上げた。
「ど、どうした!」
「冷蔵庫半開きになってる!!あいすがああ!」
神様は急いで冷蔵庫に駆け出した。
「な、なんだ……」
ドキッとしたので急に大声を出すのはやめてほしい……。
「光ちゃん……やっぱりあの子……」
音姉さんもやっとわかってくれたらしい。
「そうなんですよ……今の気迫感じましたよ……ね……?」
姉さんの方を振り向くとスマホを耳にかざしていた。
「もしもし警察ですか?弟が家に幼女を連れ込んで……」
「ちょっと音姉さんんんんんんんんん!!」
こうして慌ただしい(誤解のある)生活が始まった。