昔から変わってない!
春斗は一人の人物の前に立っていた。その人は私が最も苦手とする大嫌いなやつ。
「やっぱり! 藤崎先生じゃないですか、こんなとこで何やってるんですか?」
ほんの少し明るい短髪で袴姿の男、藤崎修二が春斗に気付く。
「誰かと思ったら上田かよ。ここ俺の実家。休みの日だけ手伝ってるんだよ」
そう言うと私にも気付いたのか小さい頃よりも更に意地悪さが増した笑みで春斗を見る。
「そーゆうお前こそ、年増のばばあ連れて何やってんの?」
と、年増!? あんたより二つも下ですが?
「春斗、どーいうことよ。こいつも教師なの?」
「さっき話途中だったけど、おれと同じ高校で化学教えてるんだよ」
「へー、性格悪いあんたがよく教師になんてなれたわね」
「おい、ばばあ。俺は学校じゃそこそこ人気あるんだよ」
「えっと、あれ? 二人って知り合いなの?」
驚いたように言う春斗。そりゃそうだ。中学のときはお互い学年違うし、話すことすらなかったから。しかも同じ高校だってことを知ったのは修二が卒業前だったし。
「幼馴染。私、こいつにイジメられた経験しかないから」
「お前、三十前にもなってまだ根に持ってんのかよ。外見ばばあで中身がクソガキとかって最悪だな」
「良ちゃん、おれのことは忘れてたのに藤崎先輩のことは覚えてるんだ」
「はあ? あんたは見た目が変わりすぎててわからなかったの。こいつは見た目変わろうが、私に対する悪意のオーラがダダ漏れだからすぐわかる」
「良子だって年くってばばあになっても中身がガキだからすぐわかるな」
「ばばあ、ばばあって私はまだ二十八よ! あんたよりも二つ下なんだからね」
そう言ったところで一人の神主さんが現れた。
「はい。そこまで。子供じゃないんだから大きな声で喧嘩しないの」
美しすぎる爽やかなこの神主さんって、まさか。
「浩ちゃん!?」
私の初恋の人で小さい頃から大好きな人。バカ修二のお兄さん、藤崎浩一。
「久しぶりだね、良子ちゃん。修二も喧嘩は終わりにして祈祷の時間だから行くよ」
修二は浩ちゃんに引き連れられるようにして去って行った。
「良ちゃんって藤崎先輩と仲良いんだね」
隣にいる春斗がぽつりとつぶやくように言う。
「はあ? やめてよ、さっきも言ったけど、私はあいつのこと大嫌いなの」
「そのわりには仲良くない?」
そう言って、すねる姿は高校生の頃から変わってなくてほんの少し可愛いとか思ってしまった。いやいや、春斗が可愛いとかありえないって。
「ほら、行くよ」
私がすたすたと急ぎ足で向かうと「待ってよ」という声と同時に手を握られた。もう三十前のいい大人だし、当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、十年も会ってなかったのにすごく自然に手を繋いでくるから、一瞬だけドキっとした。元彼とは最近、恋人っぽいことなかったし。それを隠したくて思わず出た本音。
「あんたさ、やっぱ女慣れしてるよね」
「えっ!?」
とっさに逸らす目。思い当たる節でもあるんだろうか。
「ま、春斗らしくて安心したよ」
「おれらしいって何!?」
「女好きなとこ」
「良ちゃん、ひどいっ」
そんな話をしながら駅前のショッピングモールを覗きながら歩いていた。久々にゲーセンでゲームをしたり、ケーキバイキングに行ったりと昔から変わらないノリで楽しく過ごした。暗くなり始めて、家へと向かって歩いていると春斗が小さな紙袋を差し出した。
「え? 何?」
「良ちゃんへの誕生日プレゼント」
それはさっき私が立ち止まっていたお店のもの。さっそく中を開けると、春らしい可愛いシュシュだった。
「良ちゃんがどんなもの欲しいかわからなかったけど、たしか高校生の頃は髪イジルの好きだったなって思って」
照れたように言う春斗が可愛くて。きっと世の女はこういう春斗を放っておかないんだろうなと思った。
「ありがとう」
素直にお礼を言うと、照れながら笑う。
それからまた他愛もない話をしながら歩いていると、春斗のスマホへメールがきた。
「良ちゃん、これ」
見せられたメール画面をよんでいくと、春斗のお母さんからだった。
『今日は良子ちゃん一家と夕飯食べるから春斗たちもそのまま良子ちゃんの家に来てね』
「春斗の家族に会うのも久しぶりだよね」
私たちは家へと向かった。