鈴原良子、アラサー独身です
「ごめん。良子、別れよう」
四年つき合って、そのうち二年同棲していた二つ年下の彼氏に突然フラれました。しかも明日は私の誕生日。鈴原良子、二十七歳です。アラサーです。現在、実家へ行くために電車に乗っています。
「ただいま」彼氏にフラれたことがショックですっかり連絡することを忘れていたから母は突然帰ってきた娘に心底驚いていた。
「良子? こんな時間にどうしたのよ」
「あー、彼氏と別れちゃって家出てきた」そう言うと哀れそうに見られながら涙を浮かべる母。いやいや泣きたいのは私の方だから。とりあえず家に入り、真っ先にお風呂へ入ることにした。湯船につかると未だに信じられない別れの言葉を思い出し、泣けてくる。貴重な二十代。もうすぐ結婚かなとさえ思っていたのに、まさか終わりを告げられるなんて思いもしなかった。帰る家はないし、このまま実家に戻ろうかな。会社へは一時間あれば着くし。まあ三十前の娘を置いてくれるなら、だけどね。色々考えているうちに気づけば一時間以上お風呂に入っていたらしい。どうりでのぼせてきたなと思った。私はお風呂から上がり、父と母に別れたこと、家を出たことを話し、実家に置いてほしいと頼んだ。お父さんは「いい歳して結婚もせずにいるからこうなったんだ」と厳しい言葉を残し、承諾してくれた。
「疲れた」家を出た六年前と何一つ変わらない部屋のベッドへ倒れこんだ。明日が会社休みで良かった。かばんの中からスマホを取り出して一応確認。(元彼からの連絡がないか)だけど当たり前のように心配すらされてないらしく、何も連絡はなかった。まあそれが普通だよね。持っていたスマホをベッドへ投げ出し、壁にかかっている時計を見ると0時を過ぎていた。
「二十八になっちゃった」
これからどうしよう。このまま好きな人も彼氏もできないまま年だけとって、気づいたら独り身? いやいや、そんな恐ろしいこと……。でもこれから誰かを好きになって、つき合って、うまくいけば結婚? この年で好きな人とかどうやって探せばいいのよ。めんどくさい。友達が一人二人と結婚し、子供が生まれたりする中、一人になるとか本当ありえない。私の二十代を返せっての。『良子の方が稼ぎいいし、しっかりしてるし、俺なんかと別れても良子なら大丈夫だよ』って何なのよ!? 結婚もせずに働いてれば稼ぎだって良くなるし、私が何のために働いてたと思ってんのよ? いつ結婚してもいいように資金貯めるためだよ。それをあっさり振りやがって……。「寝よ」考えてたら余計に腹が立つ。寝て忘れられたらいいのに。そう思いながら眠りについた。
「……ちゃん、良ちゃん。朝だよ」
「ん……ゆうくん? おはよ」
目を覚ますと、目の前にいたのは知らないイケメン。というか、どこかで見た覚えのある人。
「えっ? 誰?」
少しでも元彼と間違えた自分が腹立たしい。
「えっ? 覚えてないの? ショック!」
そう言って泣きマネをする。ホント、誰?
「まあ、覚えてないなら、『ゆうくん』でいいけど」
「はあ? ふざけんな」
笑顔で冗談を言う目の前の男を全力で突き飛ばした。
「ご、ごめん。でも本当におれのこと覚えてないの?」
「見たことはあるけど、思い出せない」
そう言うと盛大なため息をつきながら見上げるようにして言う。
「春斗だけど」
「えっ? 春斗!?」
「思い出した?」
そう言って嬉しそうに言うところは思い出せば十一年前と一緒。