第八話 俺と師匠の研究と告白
誤字脱字にはご容赦を
俺も13歳になった。俺の今の課題はスライムの徹底的な研究だ。だが家計をないがしろには出来ないので必要な分の薬の製造は集中して行い、他の全ての時間はスライム研究に費やす。あとはエリナとの夜の戯れが少し。
今日もいつものようにスライムを探して森に入る。結局以前対面した心通うスライムには会えなかった。たぶんスライムにも個性がありたまたま相性が良かった個体だったんだろう。
だけど最弱のスライムだけに、すでに死んでいるのかもしれない。
ものは考えようで全スライムと心が通っていたら罪悪感でスライムの研究は出来なかったかも知れない。だってスライムの解体もやるから、心通うスライムを殺すのは心が痛すぎる。
スライムの研究で分かった事。スライムは地球で言うアメーバの大きくなったやつみたいだ。たぶん単細胞だと思う。中心に核があるが他の魔物の魔石ほど硬くなく攻撃されるとすぐ壊れ、体組織を維持できずドロドロに体が崩れていく。体組織の硬さを自由に変化できるみたいで表面だけを少し硬くして体の形が壊れないようにしている。またスライムの体液は魔力を良く通すのが分かった。
スライム研究の副産物として、魔力が見える力が備わったようだ。スライム観察で集中してみているとスライムの中で放電のような光が走るのが見えるようになった。ぼんやり見ていると見えないが集中してみると見える。これは普通の目で見ても見えないものが見えると思い、自分の手から魔力を出しながら集中して手を見ると白い光が見えたので、魔力と確認出来た。またスライムを殺した時、集中して見ていると青白い靄のような光が拡散するのが見えた、まさかと思い、他の生物の体を注意して見て見るとやはり体に白い光が見える。この光は魔力の光とは違う光に感じる。だからこれは魂の光だと思う。死んだ生物から出る光といえば魂しか思いつかなし、魂になった事のある俺しか理解できない事だろう。
他の実験では目も耳も鼻もないスライムがどうして地面を移動したり獲物を捕食したり出来るのか。スライムの前で物をちらつかせたり、匂いを嗅がせたり、音を鳴らしたり、光を当てたりと色々やったがどれもおもわしい結果がでずスライムが敏感に反応したのは魔力だけだった。その事よりスライムは魔力を感じて行動していると考えられる。
俺はスライムの研究成果が現実にどのような形で利用できるか考えた。
ミスリルのように魔力を通す素材。金属では無く液体の素材。たぶん色んな分野で利用出来そうだ。
「後は?」と考えていて急にいけない方向に考えが行っている気がして怖くなった。従属させたスライムを動物の中に入れて動かす。技術的には可能性はある。だけどそんな事やって許されるのか。と色々考えてしまう。
そう言えば、師匠は俺に自分の研究について何も言ってくれない。知らされてなくても何をやろうとしているのかはなんとなく分かる。たぶん禁忌に触れるような事だろう、だから俺に迷惑がかからないように秘密にしていると思う。師匠は錬金術で生物を作ろうとしている。最終的には人間・・・。
偶然か必然か俺も同じ道を進もうとしている。
人が作った人、ホムンクルス。
人であって人でない者。
たぶん一から人を作るのは不可能だろう。
人の手によって作り変えられた人。
なぜか考えるだけで罪悪感が湧いてきて、「はー。」と一つため息をついてこれ以上考えるのを止めた。
そして何度も何度も、考えては止めて、止めては考えてを繰り返す。そうしているうちに考えが纏まって来る。
神は本当に居るんだろうか、居るとして一々人に干渉するだろうか。神は平等だと昔教えられた気がする。そしたら人の行いに一々干渉しないだろう。一人の人間に神が干渉するならそれは平等な行いでは無く、一人を特別に扱う事になるからだ。
もし神が許さない事象なら最初からその事象はこの世に存在しないだろう。なら実際に禁忌と言われる事象も実行してみて存在すれば神が許す許容範囲内ということになるんじゃないか。禁忌を許さないのは人間の価値観の方じゃないのかと思う。だったら自分の行動を自分で制限せずにやるだけやればいいんじゃないかと考えるようになった。
俺は魂と肉体について考える。おそらく他の誰も理解できないような体験をした俺だから分かる事。肉体と魂は別々に存在する。肉体から魂が抜けても、魂としての意識はある、逆に魂の抜けた肉体に意識は残っていないと思う。脳に記憶は蓄積されるけど記憶の本体は魂側にあるのだろう。なぜなら俺には前世の記憶があるから。
魂とは何か。
人間の本質。
三次元であるこの世界に留まり生きていく為の依り代としての肉体。
魂とは高次元の存在ではないのだろうか。
俺が魂の状態だった時に見えていた周りの魂の様子。
話しかけてもまともに返事が出来ないくらい自我が弱って、やがて魂が崩壊して光の粒になって拡散していく様子。
そしてマリナのお腹の中に入る直前に見た胎児に集まる光の粒の光景。
便宜上、光の粒を霊子と呼ぶとして、魂とは霊子の集合体で胎児の中で固まるうち自我が形成される。やがて肉体の生命活動が停止したら、肉体から遊離する。すると自我が弱くなり魂としての塊を維持できなくなり、霊子に戻って分解する。その時、人間としての記憶も失くし、再度胎児に入り霊子の塊から魂に成る時は記憶のない状態になっている。たぶん人の魂の周期はこのようなものだろう。
魂を一から作るのはたぶん人間の力では無理だろう。だから生物が死んですぐ魂を捕まえて、別の身体に入れる。これがホムンクルス製造の少しでも可能性のある方法ではないだろうか。
だから今後考える事は、ホムンクルスの肉体をどうするか、魂を捕まえてホムンクルスに入れるにはどうするのか、それと魂を定着させるにはどうするのか、大体このあたりか。
肉体作成は錬金術の知識で作成可能かも知れないが、それ以外は魔法の深い知識が必要だと思う。たぶん今までにない魔法が必要になるかもしれない。魔法の基礎知識をもっと学び、そこから応用して新たな魔法を作る。あまりの壮大な課題に眩暈を起こしそうになる。
もし師匠の研究もホムンクルスなら、二人が協力すれば、完成の可能性が上がるかもしれない。そう思い俺はある決心をした。
時間を見計らって俺は師匠に話しかけた。
「師匠、今いいですか。」
「なんだ?少しならいいぞ。」
「実は師匠の研究の事をお聞きしたくて。」
「ワシの研究はお前には難しすぎる。もっと勉強してからでないと理解できないぞ。」
「いえ、俺も師匠の研究を横で見てなんとなく何をやっているのか予想はできます。」
「・・・今、何でそんな話をする。」師匠は怪訝そうに言った。
「実は俺も同じ事に興味があると思います。」
「なに?!」
「師匠の研究はたぶんホムンクルスではないでしょうか。」
「・・・・・・」
「師匠は禁忌に触れる研究と思い、俺を遠ざけているんですよね。」
「・・・・・・」
「俺は今まで師匠に隠していた事があります。母にもジジババにも隠していた事です。」
「俺はローレシアで生まれましたが、前世では別の世界にいました。別の世界で死んで魂だけこの世界に来て母のお腹の胎児の中に入って、生まれ変わったんです。」
「・・・・・・」
「だから俺には別の世界の知識も有ります。俺は研究にすごく役に立つと思います。どうか師匠の研究に参加させてくれませんか。」
「・・・今の話はほんとうか。」
「はい。人の魂がどんなものかも分かります。」
「・・・確かにお前に研究の事を話さなかったのは、禁忌に触れるかもしれない研究でお前が巻き込まれるのではないかと思ったからだ。」
「俺はそれでもかまいません。俺も同じ研究がしたいんです。」
「・・・分かった。ワシの今までの研究の事をお前に聞かせるから、お前も魂の話をしてくれ。実を言うとかなり前から研究が行き詰っていて、打開案も出ない状態だったんじゃ。お前が参加してくれれば研究が動き出すかも知れんな。」
「分かりました。がんばります。」
そう言って師匠は俺に今までの研究資料を見せてくれて、内容の説明もしてくれた。俺はお返しに魂になっていた時の状態を細かく説明した。
それ以降、師匠と弟子の関係ではあるけれど共同研究者に近い関係になって研究を進めて行った。