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第五話 また別れ、そして王都へ

誤字脱字はご容赦を

 ジジもババも最近元気が無い。ジジはよくベッドに横になっている。仕事については完全に俺が引き継いでやっている状態。家計には問題はないがとにかく心配だ。

ある日、扉が開け放たれたジジの部屋でベッドに寝ているジジとその横の椅子に座ったロランが真剣な顔で話をしているのを見かけた。何の話かは聞こえなかったが大事な話のようだった。ジジがロランに何か頼みごとをしているようだった。

 その二日後の朝、ジジが突然死んでいるのを起こしに行ったババが見つけた。あまりにもあっけない。原因もわからない。マリナの死がショックだったのもあるだろう。年齢もあるだろう。だけど医者じゃない俺には原因はわからない。原因を見つける事さえできない。こんな田舎町じゃ病気を治すのも難しい。いまさらながらこの世界の現実の厳しさを痛感する。

ジジ、俺の祖父、俺にこの国の言葉や錬金術を教え、生活基盤を作ってくれた人。俺はまた大切な人を無くした。俺はどうして肉親関係が薄いのか。運命の残酷さに強く嘆いてしまう。

この世界の風習では死者は火葬にして骨を砕いて土に埋める。マリナの時もロランが火葬して骨を持って帰ってきてこの地に埋めた。今はマリナの横にジジの砕いた骨を埋める。

この世界の風習、火葬と骨を砕くのは早く土に還す意味と、アンデッドへの懸念からだそうだ。

ジジの葬儀が終わり、散々泣いた後、どうやらジジはロランに俺の事を頼んでいたらしい。それでロランが俺に声をかけて来た。

「ヒロ、ワシの弟子にならんか?」

俺はジジの死のショックからまだ立ち直っていないのですぐには答えられず、ただ黙ってロランを見つめていた。

すると「返事はすぐでなくていい。」そう言って俺に考える時間をくれた。

ただ俺には拒否する気持ちなどまったく無く、ジジの死のショックから立ち直る時間がほしかっただけだったので、数日後ロランに了承の旨を伝えた。これで肉親と言える人が増えたと思うと心に空いた穴が少し埋まった気がした。


 ジジが死んでショックを受けたのは俺だけじゃなく当然ババもショックを受けていた。

ジジの葬儀が終わって数日後、ババが突然倒れた。ベッドに運んだ時ババの体を支えて分かった。とにかく体が熱い。相当熱があるみたいだ。

ババに原因の心当たりはないかと聞くと「数日前に怪我をしたんじゃが、ジジの事があってほったらかしにしていたんじゃ。それから傷口がどんどん腫れてきて熱も出てきたけど、ジジの葬儀で忙しく、皆に黙っていたんじゃ。すまん。」

「なんでこうなる前に言ってくれなかったの。」

俺が言っても「すまん。」とババは答えるだけだった。

ババには責めるような言葉をいったが、俺は自分を責めていた。ジジの事で周りを気にする余裕も無くババの事を気づきもしなかった。そんな自分の未熟さを責めていた。

ババの足はパンパンに腫れていた。ばい菌が傷口から入ったんだろう。傷そのものは殆どふさがっている。この世界の薬は体内のばい菌には効かない。治癒の魔法があれば少しはましだが、この町には治癒魔法の使える人はいない。栄養のあるものを食べさせて体力をつけて、自力で病気に勝つしか方法がない。またも無力な自分に情けなく、やりきれなくなる。

結局、いくらババの回復を願ってもかなえられる事は無かった。二日後、熱と体の痛みで苦しんだ後、ババが息を引き取った。また見送ることしか出来なかった俺。また肉親を失った俺。

もう涙も出なかった。あまりの悲しさで心が空虚となり悲しみが俺の心に触れる事さえ出来なくなっていた。

ジジに続いてまたババの葬儀。今世の俺にとって三度目の葬儀。これで血の繋がる縁者はいなくなった。俺は絶対一人にならなければいけない運命にあるようだ。

ババの葬儀が終わり、数日たって。突然、師匠が王都へ行こうと言い出した。弟子になってからロランの事は師匠と呼ぶようになった。

王都へ行く理由は色々錬金術関係の機材が必要で王都でないと手に入らないらしい。たぶんそれは表の理由で裏の理由は俺を心配して、気分転換になると思ったのだろう。

いろんな事が頭では判っていても、心はまだ前向きにはなれなかった。

その後、師匠は旅の準備を始めた、俺も不在の間の為に店に卸す薬を多めに作り置きする。準備が整い王都へ行くと決めてから五日後、二人で馬車に乗って家を出発した。

途中ヤマネの町の薬屋に納品する。

「おじさん、今日は多めに持ってきたよ。」

「ヒロ、どうかしたのか?」

「ちょっと、王都まで行くので、留守の間の分まで作ったから。」

「え?ロランさんと行くのか?フロトの爺さんは行かないのか?」

「あ!・・・・・ジジとババは死んだ。」俺は薬屋の主人が知らない事に驚き、事実を伝えた。

「えー?!ほんとに?なんで?」

「ジジは病気、ババは怪我が原因で。」

ヒロの家は町から少し離れているので、まだ誰もジジババが死んだ事を知らなかった。葬儀も自分たちだけでやったので、町の人は全く気付いていない。

「家の横にお墓があるので、暇な時でもいいから、会いに来て上げて。」

「あぁ、判った。」

それから精算を済ます。店から出ようとすると店の主人が師匠に言う。

「ロランさん、ヒロの事よろしくお願いします。」

「分かっている。」と師匠が短く答える。

俺が「じゃぁ、行って来ます、たぶん一ヶ月ほど留守にすると思うから。」

そう言って店を出る。薬の代金の半分は師匠に預ける。路銀の足しにしてもらう。

二人で馬車に乗り町を出る。街道沿いに馬車を走らせる。俺も町へ薬を卸すので馬車の扱いには慣れている。師匠と交代で御者をする。

この世界の道は舗装されている訳でもなく、ただ少し踏み固められた土の道というだけ。だから道の凹凸もあり馬車の乗り心地は良くない、長時間乗り続けるのは疲れるので適当に馬車の操作の交代と休憩をとる。

街道沿いには、ちょうど一日移動すれば到達できる間隔で宿場町がある。宿場町の宿屋には馬車を置く場所や馬を休ませる事のできる馬宿もある。人のみの宿屋より割高だが馬を休ませる為には必要な出費だ。

俺たちは雑多な人が一緒に泊まる大部屋ではなく、個室のある宿にした。師匠は昔宮廷に勤めていただけあってあまり汚く騒がしい宿が嫌なようだ。この世界では風呂は贅沢で一般には水を含んだ布で体を拭くか水浴びとなる。俺たちは宿についてすぐ体を拭いてさっぱりして、夕食をとり寝る。旅が観光目的ではなくただの移動手段なので町を見て回る事はしない、大体ただの宿場町に見るべき名物もない。買い足すものも特に無い。宿屋に頼んで水の補給をするくらいだ。俺達の旅は野宿をせず、夜は全て宿場に泊まる予定なので食料も手持ちの非常食で十分足りる。

翌朝、有料で水の補給を済ませる。宿は前金で支払い済みなので馬車の準備が終わればすぐに出発。王都への行きの道中は荷台が空なので馬も楽そうだ。

出発から八日で王都に着く。特に行程で大した問題もなく無事到着。門では検閲をやっていた。入場者全員の身元と入場の目的の確認。俺たちの番になり師匠が証明書を出し、買い物が目的と兵士に告げ無事入場の許可をもらい、門をくぐる。

俺は師匠にさっきの証明書について聞いた。

すると師匠は「これは魔法師ギルドのギルド員証明書じゃよ。」と答えてくれた。

さらに「王都に来たついでじゃからお前の証明書も作っておこうか。」と言われた。

確かに今後自分の証明書があるのは都合がいいと納得し「よろしくお願いします。」と答えた。

俺たちは門の近くの馬宿に泊まる事になった。馬宿は門の近くしかなく、街中の宿屋は人のみの宿泊となるし、街中の馬車の置ける宿屋は貴族やお金持ちの平民などが豪華な馬車を止めておくような高級な宿になるとの事。王都にいる時、貴族に嫌がらせを受けた師匠は貴族の宿には泊まりたくないようだ。

俺たちは、宿泊の手続きをし、荷車と馬を宿に頼み体を拭いてさっぱりした後、夕食を食べに街に出かけた。

王都はさすがににぎやかでいろんな物が売っているし店の数も多い。前世で東京を知っている俺にとっては感動するほどの驚きは無かったが、この世界の都会というものには興味があった。師匠は王都暮らしが長かったので街には詳しく、適当な店に入り食事をしてからその日は旅の疲れもあってすぐに寝た。

翌日、師匠につれられて王都時代によく利用していたという錬金術関係の機材を作っている職人の工房へ行った。最初にここに来たのは機材の製作に時間がかかるために時間の無駄にならないように最初にここへ来たらしい。

「ロラン様、お久しぶりでございます。」

「ああ、久しぶりだな。だがもう様付けせんでもいいぞ。」

「いえ、宮廷錬金術師を辞められても、ロラン様がお得意さまである事に代わりはございますん。」

「そうか、ならまあいい。」

「今日は、機材を色々注文しに来た。」

「はい、ありがとうございます。ところでこちらの方は?」と職人は俺に顔を向けた。

「私は、弟子のヒロといいます。」と答えた。

「さようでございますか、ヒロ様も何かございましたらよろしくお願いします。」としっかり売り込まれた。

「はい、その時はよろしくお願いします。」

その後、師匠と職人は製作する機材の打ち合わせをしていた。少し暇な俺は工房を支障の無い程度に見学させてもらった。師匠の打ち合わせは午前中で終わった。機材の受け渡しは十日後で馬宿まで配達してくれる。師匠はそれまでに王都での用事を済ますらしい。

錬金術の機材製作の工房を出て近所の適当な店で昼食を食べ、午後から魔法師ギルドへ行った。王都の町並みの中では目立つ石造りの大きな建物でかなり威厳が漂っていた。

受付の人に師匠が話しかける。

「新規の登録をしたいんだが。」

「これはロラン様、お久しぶりでございます。」

「うん。」

さすが師匠は魔法師ギルドでは有名人らしい。顔を見ただけで名前を呼ばれている。

「この子の登録をしたい。」といって師匠が俺の背中を押したので、半歩前に踏み出した。

「はい、かしこまりました。」

「ワシが保証するから簡単な登録を頼む。」

「はい、わかりました。ではこの書類にご記入をお願いします。」

俺は紙とペンとインク壷を受け取り、必要事項を記入して行った。記入はすぐに終わり。用紙とペンなどを受付の職員に渡す。

すると師匠も自分の証明書を職員に渡して「では、よろしく頼む。」といって職員に微笑む。

「手続きしますので、あちらのテーブルでお待ちください。」と職員が手で指し示す。

そこにはテーブルとそれを囲む椅子が置いてあった。師匠と二人で椅子に座り、魔法師ギルドについて色々話を聞く。

「本当の手続きは魔法の適正など色々な手続きが必要なんじゃが、ワシのような身分のはっきりした人間の保証があれば書類だけですぐに手続きが出来る。」

他の話題もしゃべった。魔法師ギルドの中での錬金術師の扱いは良くないらしい。かといって自分たちだけでギルドを作れるだけの人数がいない為、やむなく魔法師ギルドに所属しているらしい。だから俺が個人で登録したらもっと色々手続きに時間と手間がかかってしまっただろうとの事。とりあえず師匠に感謝である。

受付の職員が直接テーブルまで証明書を持ってきてくれた。これが師匠の威光というものか。手渡された証明書をまじまじと見る。金属製ではがきの半分くらいの大きさ。銀色だけど銀ではなく銅合金のようだ。板の角は怪我をしないようにきれいに丸められ、名前だけでなく色々な文字が刻印されている。

「前世で初めて運転免許をもらったときもこんな感動があったな。」と昔の事を思い出す。

魔法師ギルドを出て街並みを散策する。馬宿は素泊まりなので食事は適当に街中で食べる。

機材が配達されるまでの間を王都でのんびり過すのであった。


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