第十一話 終末と未来への遺産
誤字脱字はご容赦を
洞窟での生活はとても静かだ。食料の野菜は森でほとんど賄える。肉はゴブリン達が動物を狩って来てくれる。それ以外の必要なものだけ町に行った時に買い足す。町に行く時は薬を卸す時だけ。薬の卸も止めようかとも思ったが、今までの付き合いもあるし、薬がなくなると町の人が困ると思い、薬の製造だけは続けている。薬の製造も達人級になっていて一月分でも数時間でできるようになっていた。
俺の中である変化が起こっていた。ホムンクルス製作が新しいエリナを生み出す事で一区切りが付き、また師匠を失った事でホムンクルス製作への情熱がなくなってしまった。研究への情熱が師匠と共に天に召されたようだ。
時間が有り余っているので、何もせず過すのは退屈なので、ゴブリン達の改造を思いつく。
ゴブリンはオークなどよりは力が弱いので力を強くしようかとも思ったが腕力を強化するより別の部分の能力の強化のほうが実用的だと思い、別の視点から考える事にした。
忍者のようにゴブリンの隠密性を高める事にした。ゴブリンに蝙蝠の能力を付加した。超音波を出し、エコーロケーションが出来るようになった。またカメレオンの能力を付加して、身体を保護色に出来るようになった。さらにスライムと融合してるので食事を採らず魔素の吸収だけで生きていけるので体臭が殆ど無くなった。これでかなり索敵能力と隠密能力が向上した。
実際のキメラはゴブリンとオークだけだがアイデアだけ、色々とメモに書き残している。
そんなのんびりした日々が過ぎ、月日もだいぶ流れ俺も30歳になっていた。
前世で俺が死んだ歳だ。まさか今世でも同じようになるとは思ってもみなかった。
最近お腹の調子が悪いと思っていた。腹痛で苦しんで、しばらくすると治る。そんなことが度々あってお腹を触っていると何かお腹の中に塊があるを発見する。これが何なのか思い当たる。たぶん癌なんだろう。この世界の医療技術は日本に比べてかなり遅れている。お腹の中を調べる方法はない。でも自分の体のことはなんとなく分かる。俺の予想はたぶんはずれではないだろう。
俺はまた30歳で死ぬのかと人生が同じように繰り返す事に感慨深く感じる。俺の人生はすでに終わってたのかも知れない。師匠と同じように、ホムンクルスの研究が成功したあの時に、俺の人生の区切りが付き、後は余生を過していただけなのかも知れない。それに俺は前世30年、今世30年の合計60年の人生。特に短いわけでなく人生の目標も達成して満足いく人生だと思う。あとはエリナの事だけだ。俺の責任として彼女をどうするか考えなければいけない。
俺はエリナに話をする。
「エリナ話がある。」
「はい、なんでしょうか?」
「たぶん俺はあまり長くは生きられない。」
「・・・・・・」エリナは何もしゃべらない。
「俺が居なくなった後、エリナを誰かに預ける事もできる。」
「その必要はありません。私は一度死んでいます。今生きているのは、ヒロ様と一緒に居る為です。ヒロ様が居ないなら生きる意味がありません。」
「・・・」おれは何も言えなかった。エリナのあまりにも真剣な気持ちに、俺はエリナの意見を否定する事が出来なかった。
少し考えて「分かった、どうするかは考えておく。」
そうして俺は研究用の机に向った。
翌日、俺はエリナに小さな魔石を渡した。
「これは俺が死んで従属の魔法が消えたら。エリナの魂を開放する魔法が入った魔石だ。これを胸に取り込んでくれ。」
「分かりました。これでヒロ様と一緒に逝けるんですね。」
「そうだ。今のままだとエリナの魂は何百年経っても魔石の中に閉じ込められたままになるだろうから。」
エリナは魔石を胸に押し当てる。魔石は胸に沈んで行き、エリナの魂が封印された魔石に密着して固定された。
俺の体の具合もどんどん悪くなり、ベッドから起きられなくなって来た。エリナは一人で俺の看病をしてくれている。俺はベッドの横に居るエリナに、
「頼みたい事があるからロトを呼んで来てくれないか。」
「はい、分かりました。」
翌日ロトが洞窟に来てくれた。ロトは俺を見てひどく驚いていた、今の俺はかなり痩せて、ひどい見た目だった。
「病気がこんなに悪いとは思わなかった。」ロトは沈痛な面持ちで俺に言ってきた。
「そうだな、もう俺は長くは生きられない。」
「それは・・・」
「いや、自分でも分かる。もう長くない。だから友人として、ロトに頼みたい事がある。」
「何でもやるから、何でも言ってくれ。」
「大した事じゃない、俺が死んだらここにある物を処分してくれ。」
「え?それでいいのか?他に無いのか?何でもするぞ?」
「いや、それだけでいい。処分の仕方もロトに任す。お金に換えても、燃やしても、何でも良い。全て任す。」
「分かった。後の事は心配しなくて良い。ちゃんと処分する。」
俺は研究の内容やエリナの事情も追加で話した。話が終わった後、あまり長居はせずにロトは帰って行った。それからロトは数日置きに洞窟を訪ねるようになった。
俺はその後、ロトが後処理をし易いように荷物の整理をし研究資料の簡単な目録も作った。
ついにその日が来た。俺は朝から激痛に苦しんでいた、そんな俺をエリナが看病してくれていた。俺はエリナの顔を見るとどうしても感謝の気持ちが我慢できずに声をかける。
「エリナ、ありがとう。」
そう言うと俺の身体から全ての力が抜けて行った。力だけじゃなく痛みも感じなくなった。身体も軽くなり中に浮いたように感じた。この感覚には既知感がある。身体から魂が抜けた状態。ベッドを見ると俺がいる。痛みで苦しんでいたはずなのに、なぜか顔が満足そうに微笑んでいた。エリナを見ると動きが止まり、身体から白い光が出ようとしていた。俺が死んで魔法が発動してエリナの魂も魔石から開放されたんだと分かる。エリナの身体はやがてドロドロと、着ていた服も一緒に巻き込んで溶けていった。残ったのは一匹のスライム。隷属の魔法が解けて。元のスライムに戻ったんだろう。やがてズルズルと床を這いながら部屋を出て行った。後にはホムンクルスの心臓にあった魔石だけが残されていた。
その光景を見届けて、俺とエリナの魂は重なり合いながら、やがて光の粒になって霧散していった。
数日後、洞窟に来たロトが俺の遺体を発見した。ゴブリンたちは魔石を抜いて活動停止状態で寝かしてあったので、エリナと同様にスライムに戻り、森に逃げて行っていた。
ロトは俺の遺体を火葬して町近くの俺の家族の墓の横にエリナの魔石と共に埋葬してくれた。
その後、ロトは王都へ向った。
ロトは魔法師ギルドのギルドマスターに面談の申し込みをした。数日後面談の許可が出て、ギルドマスターの執務室で話をする。
「私は、ヤマネの町で冒険者をやっている。ロトと言います。」
「ワシがギルドマスターのフロド・ガスラと言う。」
「今日お伺いした要件は、ある研究を買っていただきたく持参しました。」
「研究?」
「はい、ヤマネの町のはずれに住む錬金術師の研究です。」
「そんな田舎町の錬金術師の研究をわざわざもってきたのか?」フロドは少しめんどくさそうに言う。田舎錬金術師の研究など王都のギルドマスターが見る価値は無いという気持ちが篭った言葉だった。
「とりあえず、これを読んでみてください。」ロトはヒロが作成していた目録を見せた。
「ほー、王宮にいたロラン殿とその弟子か。」そう言いながら資料を読み進んでいく。
「んー・・・お!・・・おぉーっ!・・・ホムン・・・」フロドの表情は段々驚愕へと変わって行った。
「ここに書いている事は本当か?」
「私には分かりませんが、嘘では無いと思います。」
「この二人は今、ヤマネの町に居るのか?」
「いえ、二人共もう亡くなっています。だからこの資料を私が持ってきたんです。」
「そうか・・・。ところで資料はこれだけか?もっと詳しい物は無いのか?」
「研究資料は手付かずで全て残っています。」
「おー、それはありがたい。何処にある?」
「お渡しするのに条件があります。」
「金か?」
「いえ、違います。錬金術師が亡くなり。ヤマネの町で薬を作る者が居なくなりました。薬を作る為、ギルドから今後ずっと錬金術師を派遣して欲しいのです。経費は魔法師ギルド持ちで。」
「それでいいのか?」
「はい、友情を換金する気はありません。町の為に使うのであれば故人も喜ぶと思います。」
「分かった。手配は急がせるが、町に着くまでには一ヶ月くらいはかかると思う。」
「はい、それで十分です。あと正式な契約書を作って貰えますか。」
「おー、それは大丈夫だ、すぐに用意させる。明日もう一度ここへ来てくれないか。それと残りの資料の引渡しはどうする?」
「荷物は馬車一台あれば運搬できる量です。町まで来てもらえれば、その場所まで案内します。」
「そか、ならすぐに荷物の運搬の手配もするので君と一緒に町まで同行してそのまま荷物を引き取ってもいいだろうか。」
「それは、大丈夫です。」
話は纏まり、翌日に正式な契約書も取り交わされる。ヤマネの町は以後、錬金術師の途切れる事は無くなった。
さらにその翌日には馬車二台とロトと他五人がヤマネの町に向った。数日後町に着いた一行は町で休憩せずそのままロトの案内で洞窟に行った。一行を案内したロトは後はご勝手にとばかり、荷物の運び出しは魔法師ギルドが雇った冒険者達に任せて町に帰って行った。
生前、ヒロがある程度纏めてあった事もあって順調に馬車への積み込みも終わり翌日には一行は町に戻ってきた。五人は町で一泊して翌日の朝すぐに王都への岐路に着いた。
ヤマネ在住、錬金術師、ヒロ、ローレシア暦5815~5845年、享年30歳
こうして転生者ヒロの物語も終わる。
ヒロの残した研究資料は、内容があまりにも鮮烈過ぎた為、決して表には出なかった。魔法師ギルドと各国との間で秘密裏に売買され、内容の一切を秘匿された。研究内容を知るのは王宮と魔法師ギルドの一部の研究者のみであった。その為専門家の間でもロランやヒロの名前は残らず「ヤマネの錬金術師」の呼び名だけがささやかれるのみとなる。




