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第十話 ホムンクルス

誤字脱字はご容赦を

 ホムンクルスの研究は最終段階に入っているが、技術的な問題ではなく、俺と師匠の精神的問題で停滞している。

いくら二人、割り切ったと言っても、禁忌を犯すかもしれないと言う罪悪感で最終決断が出来ずにいた。

細かな補足実験もほぼ底を尽き、いよいよやる事がなくなりかけた頃、師匠が友人に会いに行くと言って一人で王都に出かけて行った。気分転換の為に行くのかなと思いながら見送った。


 一ヶ月ほど経ってから帰ってきた師匠は機嫌が悪かった。気分転換できなかったのかと思い聞いてみると。

「悪い事でもあったんですか?」

「ん、久しぶりに友人と会って、それはそれなりに楽しかったんだが、友人以外の余計な奴に会って楽しい気分が台無しになった。」

「それは災難でしたね。」

「そうじゃ、なんであんな奴と会わなきゃいけないんだ。」

それから詳しい話をしてくれた。俺に話して気分を軽くしようとしているようだ。

王宮内の友人の部屋に行ってしばらくしゃべった後、王宮から帰る廊下で、宮廷魔法師の男爵に会ったらしい。その男爵は師匠が宮廷に勤めていた頃から色々ちょっかいを掛けて来る、うっとおしい奴だったらしい。その日も顔を見るなりイヤミを言われカッとなって言い合いになったらしいが、結局師匠が言い負かしたらしいが、ちょうどその時周りに他の貴族がいて奴は恥をかかされたとひどく怒りその場を立ち去ったらしい。その貴族は執念深いので有名な奴でそんな事を考えていたので、帰宅した時、機嫌が悪かったらしい。


 それから数ヶ月経って俺も18になった。

その日は町に薬を卸す日なので俺一人で馬車に乗り町まで行った。

用事が終わり、エリナに必要な買い物を聞いていたので、色々買い物をしてから馬車に乗って家に向った。

 家に着き、馬車の荷物を家に置き、エリナを呼んでも返事が無い。家を見渡しても姿が見えない。なんだか嫌な予感がして、師匠の家に向った。

何一ついつもと違わない風景。だけどいつもと違う感じが強くする。

師匠の家のドアを開け中に入ると、目の前に異様な風景が広がっていた。

真っ赤に血塗られた床にエリナがうつ伏せに倒れていた。背中には袈裟懸けの刀傷。その横でお腹から血を流して壁にもたれて座っている師匠の姿。俺は声も出ず二人に駆け寄った。

「師匠、何があったんですか。エリナはどうしたんですか。」

「エリナと家にいたら、突然、賊がやって来て。いきなり斬りつけてきた。・・・ワシを庇って最初にエリナが斬られ次にワシが斬られた。・・・賊はその後すぐに逃走した。何処に行ったかも分からない。・・・何処の誰かも分からない。・・・ただ心当たりがあるとすれば王都に行った時に言い合いをした貴族が雇った暗殺者かもしれない。・・・ヒロ、復讐とか考えるな。貴族相手ではこっちがやられるだけだ。」

「師匠、もうしゃべらないで下さい。すぐに治療します。」

「いや、いい。自分でも分かる。ワシはもうだめだ。よれよりエリナを助けてやってくれ。」

「ダメです、師匠を見捨てるなんて出来ません。」

「早くしないと、エリナも死んでしまう。」

「あの傷ではエリナはすぐに死んでしまう。助けるとしたら一つしか方法がない。」

「え?どう言うことですか?」

「このままの姿でエリナを助けるのはもう手遅れじゃ。助ける方法はホムンクルスにするしかない。」

「でもそんな事をすればエリナは人ではなくなるんですよ。」

「でも生きる事が出来る。」

俺はそれを聞いてエリナを見る。血が流れすぎて顔が真っ青になっている。

俺はエリナの顔に近づいて聞いた。

「エリナ、人ではない別のものになるけど行き続けたいか?」

「・・・はい・・・ヒロ様・・・そ・・・ばで」

俺は急いで立ち上がり研究室から魔法陣やら魔石やら必要な物をかき集め、二人の居るところに戻ってきた。

「ヒロ、ワシにホムンクルスの完成を見せてくれ。」

俺は無言で頷き、ホムンクルス製造の準備をする。まず箱の中からスライムを出す。そのスライムに命令して床の血を全て捕食させる。

するとスライムが通った跡は床がきれいになって惨劇があった事など無かったようになった。俺はきれいになった床に道具を並べ本番に備える。するとエリナが少し動いたかと思ったら急に動かなくなった。エリナの身体を集中して見る、失敗は許されない。エリナの身体から白い光が浮いてくる。俺は魔石を乗せた魔法陣に魔力を流す。俺の魔力が魔法陣の隅々まで行き渡り魔法が発動する。白く光るエリナの魂を絡め取り魔石の中に封印する。封印完了を確認したら、俺はスライムに命令してエリナの傷口からエリナの中へ入るように指示する。スライムが這うようにエリナに覆いかぶさりやがて傷口内に消えていく。やがてスライムの修復能力でエリナの背中の傷口が塞がっていく。本当なら時間を措いてから魔石を体内に入れるんだが今回は魔石をすぐにエリナの背中に置く。

そしてスライムに命令する。

「魔石を心臓内に取り込め。」

スライムの本体は心臓の中にある。だからスライムの核の横に魔石を並べて配置する。

すると魔石がエリナの背中に埋まっていく。やがて完全に消える。程なくエリナが動き始める。上半身を起こし、その場に座り込む。

「ヒロ様、もう大丈夫です。ありがとうございます。」

俺は驚いた。今までの魔物を使った実験ではこんなに早く動き始める事は無かった。人の魂は特別なのか、素体としての人の身体が特別なのか、それとも両方か。とにかくエリナは生まれ変わった。

俺は師匠を見る。

「ありがとう。ヒロ。ワシの生涯かけた研究が完成した。夢にまで見たホムンクルスが目の前にいる。」

「師匠、申し訳ありません。魔石は一個しか用意してませんでした。師匠の分がありません。」

「いい、ヒロ。ワシは満足なんじゃ。こんな幸せな事はない。最後に研究の完成を見せてくれて、本当にありがとう。」

そう言って、師匠の身体から力が抜けた。師匠の身体から光の塊が抜けて、宙に浮かび、やがて小さな粒になって散っていった。

「師匠!今までありがとうございました!」

俺は動かなくなった師匠に頭を下げ続けた。その間ずっとエリナは俺の肩に手を乗せてくれていた。

しばらく経ってから、俺は動き出し始めた。

「エリナ師匠の葬儀を手伝ってくれ。」

「はい。」

俺は表に師匠の死体を出し火葬にした。骨が俺の家族の墓の横に埋めた。

葬儀が一通り終わって今後について考えてエリナに伝える。

「エリナ、俺はここを離れる。」

「別の町に行くんですか?」

「いや、あの森の中の洞窟に隠れる。」俺は近くの森を指差し言う。

「俺は貴族とは争わない。争っても貴族の権力で潰されるだけだ。師匠も貴族のことは恨んでは居なかった。だったら俺も忘れる。俺は俺とエリナの身の安全を優先する。」

「分かりました。ヒロ様に従います。」

「悪いけどすぐに引越しの用意をしてくれ。」

「分かりました。」エリナはすぐ動き出し荷物を馬車に乗せ始める。

俺も研究道具など馬車に載せながら、師匠の事、エリナの事、自分の事を考える。師匠はあんな死に方をしたが幸せだったんだろう。最後の顔は笑顔だった。自分の人生を掛けた研究の完成を目の前で見れる。研究者にとって最高の幸福なんだろう。だからそれ以外の事は些細な事かもしれない。貴族の事も最後には頭から消えていたようだ。

次にエリナの事だが。彼女が幸せかどうか俺には今はまだ分からない。ホムンクルスになる事を彼女は承諾したが、あの情況でどれだけ理解していたか疑問もある。俺と師匠の希望を叶える為彼女を犠牲にしたんじゃないかと言う後悔はずっと続くだろう。俺はこれからずっと彼女に報いる為の努力を続けなければいけないだろう。

最後に俺の事についてだが、俺は戦いが嫌いだ、前世において戦争体験があるから戦争が嫌いだ。人と人が争うのが嫌いだ。人から憎まれるのも、人を憎むのも嫌いだ。自分や周りの人が傷つくのが嫌いだ。誰かを失うのが嫌いだ。だから貴族と戦わない、俺は逃げる。


 こうして俺とエリナは洞窟へ引っ越した。自宅や師匠の家の荷物や研究機材も全部持って行った。

薬製作は続けている。定期的に町に卸して必要なものを買って帰る。

食料は森にもあるし、動物も狩れる。その上食料が必要なのは俺だけでエリナはスライム体質なのであまり必要ない。

薬草が洞窟付近の森に生えているので以前より材料集めに便利なくらいだ。それに護衛もいる。洞窟には研究室に保管してあったキメラのゴブリン五匹やオーク二匹を持ってきている。森の中だと人の目を気にせず放し飼いが出来る。

こうして俺の静かな新生活が開始された。


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