プロローグ
好きなものは何か。 だって?
おいおい、なんだよ。いきなりそんなこと訊いてきて、どういう風の吹き回しだ?
だいたいわざわざ俺に訊かなくても、お前だったら分かるんじゃないのか?
――えっ? 俺はお前の好きなものが分かるのか だって?
……うーん、そうだな。確かに言われてみれば、お前の好きなものって、すぐには思いつかないかも。
昔は分かっていたような気もするのにな。こういうのっていつから分からなくなっちゃうんだろうな……
好きなもの、ね。
……走るのは好きだよ。
よく、 なんであんなきついこと毎日できるんだ? って言われるけどさ。
爽快だよな。程よい疲労感と長い距離を走り切った達成感。いいタイムが出たら嬉しいし、努力した分だけ、ちゃんと速くなるんだ!
チームプレーのしがらみもなくてさ、ただひたすらに競技を楽しめる。そんなスポーツは陸上以外ないよ!
チームプレーが特別嫌いって訳でもないけどさ。
……お前も、また陸上部入ればいいのに。ブランクがあるにしても十分レギュラー取れるくらいには速いだろ?
話が逸れてるって?
……あれ、何の話だったっけ? ああ、俺の好きなものが何かって話か…… だから走ることが好きだよ。
他に?
……そうだな、アニメも漫画もほどほどに好きだけど、特別に好きってわけではないかも。……後は甘いものとか?
……ああ、そうだ、俺、お前のこと好きだよ!
――なんだよ、嫌そうな顔するなよ。これでも生まれてからの仲じゃないか。
また昔みたいに一緒の服着たりしてみてぇな。絶対じいちゃんとか区別つかないぜ。
折角学校別になったんだし、制服取り換えて、お互いの学校に行ってみるってのもありだな。
――絶対やだって? そう言うなよ。
……ああ、もうこんな時間じゃん。電車の時間に遅れちまうよ。
……お前はいいよな。自転車通学で遅くまで寝てられてて。
――あァ? 誕生日の予定?
………………ごめん、まだわかんねーわ。
……ちょっとさ。やろうとしている賭けがあってさ。
――悪いな、こればっかりはまだ教えられねーわ。
うまくいったらちゃんと教えるからさ。お前にはちゃんと報告したいし。
じゃあな、和行。行ってきます。