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paradox  作者: K2
2/2

姉と朱い少女

それは私が高校に入学し二ヶ月が過ぎた頃だった。

私こと 御門みかど あまねにとって予想に反した出来事である。

私の住む街は 片田舎に有り一番近い公立の学校でも 片道四十分もかかってしまう。

そんな時代錯誤な土地に 生まれてこの方住んでいるワケなのだが

流行りモノ等に興味のない私は 別段不自由もなく高校生活をスタートさせていた。

ちょうどこの頃私は 父の海外赴任が決まり 弟と二人で生活して行く事となり

気分的に 焦りや不安を持て余していた頃だった


その日 予鈴が鳴り響き知人との談笑を済ませ席に着くと

教室の扉が古臭い音を立てスライドし あたりは静まり返った。

普段なら話し足りない生徒達の談笑も続行中のタイミングなのだが

この時は ただ教師とソレに続く足音 遠くに聞こえる街のかすかな雑音しか無かった。

おもむろに教師の口が開かれ

「え~今日から皆さんと一緒に勉強する 霧島きりしま あかねさんです」

そんな飾り気のない口上を語りと共に 連れられた女生徒は ペコリと会釈をした。

「この度こちらの学校にお世話になります 霧島茜ですよろしくお願いします。」

これもまた飾り気のない 短的な挨拶ではあったが彼女の制服がクラスの注目を集めていた。

どこかのミッション系の制服だろうか? 清楚な修道女のような出で立ちで

私には どことなく日本人離れした人だな と言うのが第一印象だった。


私は なし崩しにクラス委員等と言うモノを押し付けられており

その日の放課後は [学校を案内する]と言った面倒な仕事を教師から頼まれてしまった。

彼女は色々なモノを珍しそうに それでいて懐かしそうに眺めては

好奇心旺盛に多様な事を質問してきた。私もソレに釣られ随分と長く校内を歩いていた。

案外人見知りかと私が感じたのは 第一印象だけのようだった。

そんな時 まだ制服が届いていないと言う彼女は 少し控えめに私に聞いてきた。

「あの~ やっぱりみなさんと違う制服だとちょっと・・・恥ずかしいですね」

「そう? ソレ可愛いじゃない? なんかお嬢様っぽっくってさ」

「おっ・・・お嬢様って・・・そんな・・・私は・・・・」

「あはは 態度も可愛いなぁ~ 霧島さんってモテるでしょ?」

「そんな・・・・わっ私は・・・お付き合いとか・・・したことないですし・・・」

放課後の渡り廊下で 私は彼女を少しからかいながら 古びた校舎を案内して回った。

グラウンドでは 陸上部らしき方々もそろそろ帰宅しようかといった夕焼けの中

彼女はそれまでの明るい表情ではなく 少し重い溜息をもらしポツリ呟いた。

「私が好きになった人や風景は 私よりも早くなくなってしまうんです・・・・

私にはソレをどうする事も出来なくて ただソレを見続ける事しか出来ないんです。」

私は彼女が何を言っているのか理解が出来なくて 少し夢見勝ちな性格なのかと早合点しかけ

彼女が瞳に雫を溜めている事に気付き ガラにもなく夕焼けのグランドを眺め私は言った。

「そりゃ風景は変わっちゃう そんなのは仕方がない。まぁアンタが私を好きでも嫌いでも

少なくとも 私はアンタより早く亡くなるつもりは サラサラないけどね~」

そんな憎まれ口の様な言葉に 彼女はどこか物悲しげではあるが 精一杯の笑顔で私を見て

「徇さんって優しいですね。徇さんの方がよっぽどモテそうです♪」

「いやいやいや 私ってホントにモテないからソレは無いよ。」

「え~そうなんですか? ちょっとカッコイイですし。」

「オマエっ女子に向かってカッコイイはないだろ~」

「あはは~ じゃあ お詫びに私の事は茜って呼んで下さい。」

「・・・それお詫びになって無いから・・・まぁ私も徇でいいよ。「さん」はいらないから」

そんな事を話しているうちに 気が付けば下校時刻が迫っていた。

そうして山並みを赤く染める夕焼けの中 私と彼女はお互いの家路に付いた。

それが私と彼女の出会った日の出来事である。



彼女が転入し数カ月 夏休みも間近という頃

彼女 茜は暑いのが大の苦手らしく その日も教室の机にへばりついていた。

私はと言うと 弟との二人暮らしにもなんとか慣れ 焦りや不安も新しい友人である

茜の世話を焼く事で そんな感情に浸る暇もなく日々を過ごしていた。

「徇ぇ~・・・次の休みに千晶ちゃん達がプール行こうってさ~」

「茜・・・アンタとりあえず机と同化すんの止めなさい」

「私ほっんとに暑いのダメなんですよ~ 徇はプールどうします~?」

「ん~次の休みかぁ・・・・ちょっと微妙かなぁ」

「そっかぁ じゃあ私もパスします~ 暑いから動きたくないのです~」

「アンタ始めっから行く気ないでしょ・・・・」

「徇が行くなら頑張っても良いかなって思ったんですけどね~」

「私はアンタの保護者か! 行かないならちゃんと千晶に言っておいでよ」

茜もクラスに馴染み こう言った会話も日常茶飯事だった。

クラスでは 茜が私にすっかり懐いている為「にこいち」の扱いを受ける事が多かった。

私はさながら「茜の保護者」の様な扱いをされていたが

拒絶感も否定も無かった 言うのも茜は少し抜けた性格で簡単に言うと天然地味た節があり

私からすれば手間のかかる「放っておけない子」だった。

時折大人びた雰囲気はあるものの 普段は的外れな言動が多かった。

この前も昼休みに数人のクラスメイトと昼食を摂っていたところ

「職員室にある冷蔵庫でアイスを冷やしてもらえませんかね?」等と真顔で尋ねられたところである。

加えて大の機械音痴で 携帯の使い方を教えるのに まさか一週間もかかるとは・・・・・

余談ではあるが一週間で茜がマスターしたのは 電話を受ける・メールを読む

この二つで 最近になりようやく電話を「かける」事が出来るようになったのである。

メールを送れるようになる日は まだ遠そうである。


この頃になり私は 彼女について幾つか分かった事があった。

どうやら彼女はクオーターであると言う事。

今はこちらにある別荘でメイドさんと二人暮らしである事。

詳しい理由は定かで無かったが 家業の為にこの国に来たという事。

あまり人様のお家事情に首を突っ込むのも躊躇われ 私がこの一ヶ月ほどで彼女に対し

分かった事はあまり多くはなかった。

多くはなかったが 彼女自身の事はそれなりに理解できていた。

彼女が甘い物に目がない事や この国の食文化は いたく気に入っている事なども見て取れた。

朝は めっぽう弱くて自宅まで迎えに行っては遅刻ギリギリな事も度々あった。

そんな私達は夏休みが始まる頃には 古くからの友人の様に接する様になっていた。


そうして夏休みが始まり私は 何度か我が家に誘ったが彼女は その度に難色を示し

どうしてか我が家に来る事だけは拒んだ 私は不自然だとは思ったが無理強いをするのも

おかしな話だと 深くは考えず暑い日は外に出る事を嫌がる彼女を

連れ出しては 街のショッピングモールやプール等に出かけたりもした。

彼女はよく言われるドジっ娘タイプなのだが「運動音痴」というワケではなかった

運動神経と言えば中の上 ただ好んで体を動かす事がなく

もっぱらエアコンの効いた図書館に行く事が多かったのを今でも覚えている。


そんなある日 何度目かの彼女の自宅にお邪魔になった日の事。

彼女の自宅であり別荘である家は 我が家と街の中間程にあるのだが

我が家に負けず劣らず やや住宅地の離れにあった古びた洋館だった。

「家業の為にこの国に来た」とは聞いてはいたが いつもメイドさんが一人居るだけで

彼女とそのメイドさん以外の人を見る事は無かった。

加えて彼女の部屋には 主要の電機製品はテレビや音楽プレーヤーすら無く

さながら古い外国の部屋を連想させる様な造りだった。

彼女の部屋にいつも運ばれてくる 高そうなティーセットと上品な紅茶に

出会った頃彼女に「お嬢様っぽい」と言った自分の言葉が あながち間違っていなかったと

自分自身よく納得していたものである。

優雅に紅茶を飲む彼女は 正に「お嬢様」であるのだが 洋菓子を嬉しそうに食べる彼女は

百歩譲っても「無邪気なお子様」だった。

「茜ぇ~ クリーム付いてるよ。」

「へっ? あ・・・どこです?」

「ココ。 口の横・・・ってアンタは子供か。」

顔を赤くし 少し膨れっ面の彼女の口元を拭って 手間のかかる妹の様だと・・・・

そう「妹の様だ」と思った時 ふと私は実際の「弟」の事を思い出した。

三つ下の弟は今年中学一年生。この頃の弟は少々わんぱくな悪ガキであった。

いわゆる反抗期だったろうか? しっかりはしているし人様に迷惑もかけない

ただ姉である私には 二言目には反論し悪態をついていた。

そんな弟は今日は 昼から友達と山に行く様な事を言っていた。

「? どうしたんです徇?」

「え? あぁ今日弟が友達と山に行くって言ってたから ちょっと思い出しただけ。」

「山・・・ですか。まぁ今日は天気も良いですし 心配しなくても大丈夫でしょ。」

「そうね でも一応今日はちょっと早めに帰るね。」

「はい。相変わらず徇は 弟ちゃん大好きなんですね~」

「ち・・・違うわよ! 父さんの留守中は 家とアイツの事は任されてるから 仕方なくって・・・

むしろ親代わりみたいなモノで・・・・その・・・私がちゃんとしないと・・・ね」

「あはは 顔が赤いですよ徇~ でもいいですねぇ兄弟って 私は一人娘ですからちょっと羨ましいな。」

「はぁ・・・あんなので良かったらノシ付けてあげるわよ。」

「では 遠慮なく♪」

「・・・・・・アンタもの好き通り越して奇特だわソレ。」

そんな話をしながら 茜は一人娘なんだと この時始めて気がついた。

彼女は どこかモノ悲しそうに いや正確には名残惜しそうに言葉を続けた。

「私は・・・・多分来年にはこの街に居ないと思います。曾祖父の家に戻るんですよ・・・

この街での「お仕事」は年内には片付きそうなんですよ。」

私は他人様のお家事情には首を突っ込む様な事は この時まで正直あり得なかった。

でもこの時ばかりは この国に来て数ヶ月だと言うのに なんて自分勝手な親なのだと

本当に心から そう思ってしまった。

だがこの頃の私達は所詮「親」の元養われる未成年で ただの女子高生だった。

親の都合など知った事ではないが 子供がどうこうと出来る様な事でもない事は理解出来てしまっていた。そう「女子高生」程度の私達では手詰まりだったのだ。

名残惜しそうに真実・・・いや現実を話す彼女に私はかける言葉を見つけられない。

彼女は言葉を紡ぐ。

「だから「約束」必ず会いに来ます。そうですね弟さんをノシ付きで頂きに ね♪」

彼女は楽しげに「約束」をしたのなら それは守るべきなんだと。

彼女は誇らしげに 好きな方との「友達」との約束事は絶対なんだと。

そう笑って私に言って聞かせた。突然の話に怒りや寂しさが入り混じって私は

「おーけーおーけー 弟やるから ちゃんと帰って来い。約束だよ。」

そんな軽口で返事をし 冷めた紅茶を一気に煽り彼女のベットに倒れ込んで天井を仰いだ。

思い返せば私は 親の事情で振り回される子供と言うのを体現していた時期だった。

自分の都合で引っ張り回す彼女の親。

自分の都合で放って置きざる私の親。

それでも親の保護下で養われる身の私達。

実際無力だったと思う。それでも出来るだけの抵抗と反発をしていたと思う。

「結果」は変わらなくとも私達は私達で 笑い合ってその最初で最後の夏を過ごした。



これでもかと彼女と過ごした夏は あまりにも早く過ぎ残暑が残る頃。

世間では台風情報が飛び交い 私達は急かされる様に季節を過ごしていた。


見慣れた田舎道 いつもはフェンスが貼られ行き止まりになっている道。

私はナゼかその時 行き止まりの小道を覗き込んだ。

するとフェンスは無く古い廃屋の庭に続く小道が見えた。

どうしてだかは分からない 私はそこ小道を進み廃屋を横目に その庭を横断する。

気味の悪い歩き心地だった。地面は柔く弾力があり歩きづらかったのだ。

廃屋を背にする頃 規則正しく並ぶ四つの団地の様な建物が目に入った。

辺りは正方形に掘り下げられ 廃棄された学校の様に周りはくたびれた木製の柵があった。

私は何だろうと 腐ちた木製の柵をすり抜け 団地の様な建築物の脇を歩いてゆく。

そこで四つの長方形の建築物の中央に バスの様な車両が目に止まり ソレを眺める。

ワゴン車の様に側面にスライド式のドアがあり ドアは全開に開かれていた。

中には白衣の初老の男性が 笑顔で誰かと話している。

私は気分が悪くなり 唐突に走り出した。無人かと思った不自然に掘り下げられた

ソノ四角い場所に ちらほらと声が聞こえる。警察官? 警備員? 分からない分からないが

私は早くその場所を離れたかった。そうだ「なにか おかしい」直感だったが

小走りは次第に早くなり 私は全力で走り出していた。

そうだ おかしい 不自然だ 不気味だ 理解ができない。

おかしい おかしい おかしい おかしい おかしい 気分が悪い・・・・・・

なぜ ナゼ 何故 見た白衣は点々と朱く染まって・・・・・

その足元には 朱い赤いニクに塊が生々しく鎮座していて 初老の男は笑顔で・・・・

おかしい おかしい おかしい おかしい・・・・・・・

ダメだ もっと早く ナニかが追ってくる 早く早く早く早くもっとっもっと・・・・

もう何処を走ってるのか解らない 心臓はパンク寸前 脚はとっくに悲鳴を上げてる。

私の肩に手が掛かる 鷲掴みに 引き戻す様に私は倒された・・・・


「うああああああああああああああああぁぁぁ・・・・・・・」

ガタン・・・・勢いよく木製の鈍い音が響く 鼻には独特のニスの匂い・・・・

恐る恐る瞳が開いた。ソコには 古びた蛍光灯と天井のシミ。

私は まだ鼓動の早い胸を抑え周りを見渡した。

「なんなのよ~・・・・夢オチってやつ? むしろ乙女が「うああぁ」はナイわ・・・・」

私は放課後の教室で一人愚痴る。 どうやら机に突っ伏して居眠りをしていたらしい。

幸運な事に教室には私以外の姿はなく 寝ぼけて椅子から落ちる等と言う失態は

誰の目にも触れる事なく 被害は椅子から落た時のモノであろう打ち身のみだった。

外は既に茜色に染まり 山並みを朱に輝かせていた。

夢なんて目が覚めれば大抵は朧げに 不鮮明に忘れてゆくもの。

ただ―――この時私はグラウンドにポツンと独り佇む 朱い少女と目が合った気がして

胃を下から叩き上げるような強烈な嘔吐感に 夢の血生臭いフラッシュバックが重なり

口を押さえトイレに駆け込んだ。さっきのは――ダレだっけ?

ひとしきりむせ返った後には 自分が夢見悪くて嘔吐したなんて なんだか馬鹿らしくなり

教室に戻りさっさと帰ってしまおうと踵を返した。

私は ふと どれぐらい居眠りをしていたのだろうと考え よくよく考えると

放課後になってから自分が何をしていたのかすらよく覚えていなかった。

我ながら学校の教室 しかも硬い机でよくも熟睡していたモノだと自分の事ながら呆れていた。

教室に帰ると窓際に茜が立っていて 私に気がつくとブンブンと手を振っていた。

「徇~ やっと起きたんですか? そろそろ帰りましょうよ」

そう言った彼女の顔を直視した時 いつもと変わらぬハズの彼女に対し

私は なんとも言えない悪寒の様な・・・もっと血生臭いリアルな感覚を覚えた。

「ん? 徇? どうしたんです? 寝ているところを男子にでも見られました?」

「ん・・・いや 見られてないしタブン。ってか別に見られても平気だし・・・多分。」

「そうなんですか? ヨダレ垂れてましたよ?」

「そっ・・・それは・・・困るかな・・・・・・・ あっ そう言えばさっき 茜グラウンドに居なかった?」

「え・・・・見られてました? あらら・・・見られちゃいましたか・・・・・」

私は夕焼けのグラウンドで独り佇む朱い少女を確かに見た。それが彼女だと確信は無かった。

ただ私は「何故だか」ソレが彼女だったと分かってしまっていた。

「視られていたならちゃんとお話します。実はですね・・・・」

私は何故だかその続きを聞くのが怖かった 正確には聞きたくなかったと言ってもいい。

ただ彼女の言葉はとても自然で 私が制止する間もなく言葉を続けた。

「教室に忘れ物をしたのを 丁度グラウンドまで出たところで気がついたのですよ

取りに戻ろうか悩んでいたところ まだ寝ている様なら徇を起こすついでも あるなぁと」

「・・・・はぁ? って寝ている私を見捨てて帰ろうとして 忘れ物ついでに起こしに来た と?」

「あはは・・・・まぁ簡単に言いますと そうですね」

「起こしてよ! 言うか見捨てて帰るな~」

「え・・・っと 起こしたのですが・・・・起きなくって・・・・ね♪」

「ね♪ じゃなぁぁい おかげで寝覚め最悪よ もぅ・・・・」

私は悪態をつきながら 茜の頭にグリグリと握り拳を押し付けていた。

その時私は 赤茶色で綺麗なストレートの彼女の髪を まじまじと観察していると

「イタイ・・・痛いですよぉ~ って何故髪を凝視してますかぁぁ」

「え? あぁ・・・さっき目が覚めた時にさ グラウンド見たら茜が見えてね。その時アンタの髪が

真っ赤に見えたんで そんなに朱く見えるモノなのかなぁとね」

見た事を直球で私は問い掛けたのだが 彼女は少し気まずそうに答える事は無かった。

会話がそこで途切れ 私もいい加減家路に着こうとそそくさと帰り支度を済ませ教室を出ることにした・・・・のだが 彼女がナゼか動こうとしなかった。

「茜? どうしたの? 帰るよ~」

「あ・・・ぅぅ・・・・」

少しうつ向いて よそよそしく彼女の視線が泳いでいた。気のせいか少し顔も赤く

私は体調でも悪いのかと思ったのだが どうやらそうではないらしかった。

「その・・・・ですね・・・て・・手をですね・・・・つないでもらえませんか?」

「はぁ? 手をつないでって・・・・えぇぇ!? あの・・・そーゆー趣味ないよウチはっ」

「私だってありませんっ! そうじゃなくって!」

「あっても困るわよ! ってじゃあどうしたの?」

「その・・・・目が見えないんですよ・・・・霞んでぼやけちゃってて・・・・」

「え? 茜って視力悪かったっけ? コンタクトでも落としちゃったの?」

「コンタくト?・・・・えぇ まぁそんなところなんですよ・・・・」

ナゼか微妙に ニュアンスが違った様にも思えたが どうやら彼女は普段はコンタクトで

何処かに落としてしまったらしかった。私は先ほどじゃれていた時に外れたのではと

辺りを探そうと申し出るが 彼女は「見つかりませんよ・・・」と頑として言い切り

コンタクトの捜索は諦め 私は同性とは言え小学生以来かと 彼女の手を取り教室を後にした。

きっと私の顔は見て分かる程に赤かったと思う。高校にもなって友達と手を繋いで帰るとは

想像すらした事もなく 学校を出るまで彼女の話に上の空で相槌しか打てなかった。


私が上の空でいる間も楽しそうに彼女は話していた。校門を出て程なく田舎道を歩いている頃

見知ったメイドらしいメイドさんがこちらに歩いて来るのが見えた。

「あ・・クリス! ただいま~」

「アンタ見えてないクセに よくメイドさんだって分かるわね」

「えへへ・・・ぼんやりとは見えてますもん。それにこんなところで あの格好ですしね」

そう言われればその通りである。こんな片田舎でメイド服なんて どんなコスプレだと

明らかに田園風景に佇むメイドなんて 浮いているなんて言葉を通り越している。

「お嬢様お迎えにあがりました。徇様もお帰りなさいませ。」

そう目の前でスカートの袖をつまみ会釈する 金髪メイドさん。

彼女の家のメイド(お手伝い)さんの「クリスティーナ・シルヴェストリ」さんである。

愛称なのか茜は「クリス」と呼んでいるが 私はこの落ち着いた年上の女性を気軽に呼べず

未だに「クリスティーナさん」と呼んでいた。悪く言えば無表情 良く言えば落ち着いた方

と言った印象で 感情が読みにくく少し私は苦手ではあった。

なんでも日本語が達者なメイドさんと言う事で 茜の世話役としてこの国に来ているらしい。

見た目の印象は二十代半ばに見えるのだが 実際は怖くて聞けなかった。

「徇様。本日はお嬢様のご引率ありがとうございました。加えて私のお出迎えが遅れまして申し訳ございませんでした。」

「え・・・あ・・・いあ・・・こちらこそ・・・・どういたしまして?」

ペコリと頭を下げ「つまらないものですが」とスーパーのビニール袋を手渡された。

何度か面識はあるものの 私はぎこちなく頭を下げていた。


程なくして彼女とメイドさんの後ろ姿を眺め見送った。私は夕飯の献立を考えつつ

夕焼けも終わろうかと言う帰路を歩いた。

手渡されたビニール袋を持ち替え中を覗くとそこには。

「・・・・ガリガリ君て・・・・メイドさんのお茶目なんだろうか・・・・・」

私は一人ごちてアイスを齧り ナゼだか笑いがこぼれ自宅に帰った。


「クリス・・・・徇は?」

「はい もう視界にも居られません。あまり無理をなさらないでくださいね」

「うん・・・・ごめんなさいクリス」

「・・・・いつまで経っても手間のかかる お嬢様ですね」

「ははは・・・・ねぇ クリス」

「はい?」

「コンタクトってナニ?」

「・・・・・・はぃ?」

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