7話・辛サト幸セ
自分ガ消エレバ皆幸セナンダロウ………
気が付くと純一の目の前は元通りに戻っていた。
無論明恵達が苦しがっている光景も変わらないままだ。
純一は先程食事していた木の実の周辺を必死になって探す。
燕が不思議そうに純一を見ていた。やがて燕は純一の元に駆け寄る。
「何………してるの?」
警戒する燕。
「さっき俺が食って吐き出した灰色のピーマンみたいな実があっただろ、あれが皆の命を救うんだ!」
そう言って手を休めずに必死になって探す。燕もまた必死になって探す。
右往左往探し純一は漸く見つけ出した。
「あった…………あったぞ足立!」
見つけた木の実を高々に挙げ燕に見せる純一。だが燕は振り向きもしない、それどころか後退りしていた。
純一は不信に思い燕に駆け寄る。すると燕の目の前の林から四本の腕を生やした鬼の様な化け物が現れた。
鬼は燕に噛み付こうとする。純一はとっさに燕の事を庇った。
純一の左肩辺りに噛みついた鬼、純一は痛みをこらえ採ってきた木の実を燕に渡した。
「此れを………、あいつらに」
燕は涙を流しぶるぶる震えていた。
純一は鬼を振り払い、鬼の顔面を殴っり飛ばした。
「早くしろ!」
血塗れになりながらも純一は鬼に立ち向かった。
四本ある腕で攻撃される。動きが詠めず何度も殴られる。鬼が爪をたて純一の胸や背中、腕を引っ掻く。
右腕だけでは不利だと感じた。
ここで死ぬのか………。
そう思ってたとき燕が化け物の脇腹を棒で刺したてい。だが純一は意識を失い走馬灯を見た。
純一はベンチに座っていた。ただのベンチではない。目の前では少年達が野球をしていた。何処か懐かしいユニフォームと少年達。
「おい役立たず!何ベンチに座ってんだ!座って良いのは試合に出る奴だけだ!」
純一は何故かユニフォーム姿だった。
「すみません………」
純一は立ち上がる。すると今度は一塁側のコーチャーのところに立っていた。目の前の一塁には自分と同学年の仲間がいる。
打席にはひとつ学年のしたの後輩が立っていた。
後輩はセンターにライナーを放った。その時センターを守っていた選手がライナーを取ったように見え純一は一塁の仲間に次の塁に行くのを止めさせた。
ところがセンターを守っていた選手はボールを取ってはいなかった。砂ぼこりでよく見えなかった。
結果ダブルプレーになりアウト、この試合に負けた。
そうだ、この日から俺はコーチに監督に役立たずって言われ始めたんだ…………。
「役立たず!バットさげろ!」
ヤメテクレ。
「早くボール取ってこい役立たず!」
ヤメテクレ。
「お前守らなくていい、そこで行進の練習してろ!」
ヤメテクレ。
「お前役立たずのくせに弁当は旨そうなんだな」
モウ……………。
「ヤメロォォォ!!」
純一は走馬灯から目が覚め右腕で鬼の一方の右腕を掴み噛みついた。そして、引きちぎり食べる。食らいつく。純一の理性はもう無い。背中に乗り首筋を噛みつき食らいつく。
雄叫びをあげる鬼、首筋から血が吹き出す。そして、鬼は倒れた。倒れた後も純一は喰らう事を止めない。内蔵を引き出し無惨になっていく鬼。
そこで純一の体を誰かが止めた。
「止めて純一!」
純一は我にかえる。止めたのは燕だった。
「もう死んでるよ………」
そう鬼はもう死んでいた。純一は己を見る。
「何やってんだろ…俺」
純一は何処かに向かって歩く。
「何処………行くの?」
「誰も居ない処に………。俺はもう人間じゃない」
足どり重く歩く純一を燕がひき止めた。
「純一は悪くない!純一は私を守ってくれたっ」
「でも怖かったろ、あんな姿」
「ちょっと怖かったけど、純一が居ない方が怖い!」
ガタガタ震える燕。
「それに………純一は私を守ってくれた」
この言葉にちょっと笑う純一。
「それ二回言ってるぞ」
「あぅ」
純一は振り返り燕を見て言った。
「ありがとうな足立」
「…」
「えっ?」
小さい声で燕が何か言った。
「燕………でいい」
「あぁ、わかった燕」
顔がちょっと赤くなる燕。
「って其れよりも皆は?」
思い出したかのように言う純一。皆が倒れている方に走って向かう。
皆はぐっすりと安らかに眠っていた。
死んではいない。
「よかった………」
つい先日まで死にたがっていた人間とは思えない台詞だ。
「純一も、怪我、大丈夫?」
純一は鬼に噛まれたところをさわる。
「はっはっ、マジかよ」
傷口は治っていた。
「うっん………ん?」
夜が明け明恵は目覚めた。
昨日苦しかった事が夢のだったようである。ふと周囲を見る。
川の字で寝る新城、中山、庄司。
そして、四人から離れたところで。
「えっ!?嘘マジっ!?」
手を握りながら安らかに寝てる純一と燕が居た。