3話・生ヘノ鼓動
ドウシテコンナニモ世ノ中ハ詰マラナイノダロウカ………。
コンナニモ詰マラナイ世界ニ生キル位ナライッソ死ンデシマッタ方ガ良イ。
俺ハソウ思ウ。
どれくらい気を失っていたのか、純一は仰向けのまま目が覚めた。
目の前に広がる青い空、そして、ふかふかな地面。其れを触っている右腕。
右腕?
純一は自分の右腕を見る。右腕はちゃんとあった。あったのだが違っていた。
純一の右腕は指先から肩まで楔型の模様が刻まれていた。
純一は信じられなかった。何故ならこんな模様等一切無かったからである。
「なんだよこれ………」
まじまじと右腕を見る純一。
手のひらにも楔型の模様が刻まれていた。
「どうなってんだよ………」
考えてみた。
そうか、俺はもう死んだのか………。
この結論意外何も浮かばなかった。そして、ここは死後の世界。そうだよ、ここは死後の世界だ。
彼がそう思ったのには訳があった。
周囲を眺めると見たことがない木々、空は晴天ではあるがいくら見渡しても太陽はない。
代わりに巨大な白い月が見えるだけ。こんなの現実世界では考えられない。
もしかしたら夢という事もあっただろうが普段から死にたがっていた彼にとっては夢という選択肢は浮かんでこなかった。
純一は少しだけ嬉しかった。漸く死ねた。
何故彼は死にたがっていたのかは後で説明しよう。
頬が緩む純一。そんな時、悲鳴が聞こえた。
なんだ今の?
そう思い純一は悲鳴の聞こえた方向に歩き出した。
すると目の前に腰を抜かした見知った顔の女子がいた。
そして、その女子の目の前に見たことがない化け物がいた。
鬼の様な顔、長い手足、そして、コウモリの様な翼。
純一は動けなかった。怖かった訳じゃない。ただ理解が出来なかった。
「助けてっ!!」
女子が純一に助けを求めた。純一は我に帰る。そして、落ちてあった手のひらサイズの石をおもいっきり化け物の頭めがけて投げた。
元々野球をやっていた純一はコントロールには自信があった。
いや、コントロールにしか自信がなかった。
石は見事化け物のこめかみに命中した。化け物は血を吹き出し倒れ掛ける。
ふと化け物は純一に気が付く。そして、三メートル程高く飛び上がり純一の目の前で着地した。
そして、大きく右腕を振り上げ爪を立て純一を斬り裂こうとした。
其れを純一は危機一髪回避した。
昔から純一は交わすことには自信があった。ドッジボールも交わす以外の事はしなかった。
そして、ふらふらと化け物は飛び去った。
純一は腰を抜かした。
心臓がばくばく動いている。
見知った女子が話し掛けてきた。
「純一、助けてくれてありがと」
彼女の名は和田 明恵。かつて純一と同じバイト先で働いていた人物であり、同じクラスメイトである。ちなみに高校一年生の時も同じクラスメイトだった。
「ああ」
純一はただただ頷いた。今の彼には此れしか出来ないであろう。
終始無言のままだった。
呼吸が落ち着き、純一と明恵は話し合う。
「ところで此処って何処?」
明恵が言う。
先程まで死後の世界等と言っていたが今はもう頭の中が混乱して訳が解らなくなっていた。
「いや、さっぱり解らない」
「日本?」
「いや其れは無いでしょ」
純一は空を見上げた。
「だよね………」
明恵もそう思う。空には巨大な白い月が昇っていたからだ。
「此れからどうする?」
明恵が訊いてきた。
「任せる」
純一は只着いていくだけ、全て明恵に任せた。