ブラブラな関係【夜空を見上げて】
以前 他サイトに投稿した作品です。
「 ねえ あの星の名前知ってる?」
ベランダで、夜空を見上げてる彼に聞いてみた。
タバコの煙を吐き出しながら、
「知ってるよ。梅干しだろ?」
ぶっきらぼうに彼が答えた。
私の彼は、何時もこんな感じだ。
本当は、知ってるくせに、わざと知らないふりをする。
私よりも二才年上の28才の彼。
彼と付き合って、もう少しで2年が経つ。
今は、休日になると彼の部屋で寝起きして、
食事や、洗濯、掃除など二人で分担しながら、
半同棲生活を送っている。
彼を初めて見たのは、
私が働き始めたコンビニだった。
「ariaのメンソール1mmgを1箱。」
カウンターの内に立つ私に向かって、ぼそりと一言。
他には、何も買わずにタバコを1箱だけ買って行く。
少し汚れた青いツナギを着て、
毎日、ほとんど同じ時間にやって来る、
無精ヒゲを生やした無愛想な客。
そんなふうに感じただけだった…。
二週間もして、仕事も慣れて来た私は、
彼が店に入って来るのを見つけると、
注文される前に、彼の買うタバコを出すようになっていた。
ある日、私がいつものように、タバコを1箱だけ差し出すと、
「今日は、2箱…。なんだけど…。」
苦笑いしながら、彼は言った。
意表を突かれて、慌ててもう1箱を差し出した。
そんな私を、彼はニコニコしながら、見ていた。
意地悪されたみたいな気分と、
勝手に早合点した恥ずかしさとで、
私は、赤面してしまった。
ちょっとした悔しさと、
初めて彼の笑顔を見た照れ臭さもあって、
「はい2箱、お待たせしましたぁ。
あなたの健康を害する恐れがあるので、
吸いすぎには、注意しましょ〜。」
私は、照れを隠すように、ちょっとふざけ気味に言った。
「あはは、ありがとう。」
彼は、屈託無く笑いながら代金を払っていった。
目尻の下がった少年の様な笑顔が印象的だった。
その笑顔が、意外に可愛らしかった。
笑われた事に、腹立たしさは全く無かった。
むしろ、彼の笑顔につられて、私も微笑んでいた。
無愛想な男には、似つかない無邪気過ぎる笑顔が、
やけに新鮮にみえて、
(きっと良い人なんだ)
って直感的に思った。
その日以来、一週間に何回か、
そんなやり取りがあった。
彼が、そんな場面を演出して、私が演じるみたいな感じだった。
何となく二人とも、楽しんでいた。
ごく稀に、彼が店に来ない日があると、
その日は、自然と気分が沈んだ…。
次の日、彼が現れると素直に嬉しかった。
ひと月ぐらい経った頃、
彼がタバコの代金と一緒に、
一枚のメモ用紙を寄越した。
小さな紙には、メールアドレスと、携帯の番号が書いてあり、
一番下には、
付き合ってくれ
連絡待つ
雑な汚い字で、そう書いてあった。
毎日顔を合わせていた彼に対して、
警戒心は無かった。
少年の様な笑顔を見て以来、
警戒心よりも、もっと仲良くなりたいと、
心のどこかで思っていたのかもしれない。
今どき、メモ用紙で交際の申し込みをするなんて、ダサいと思ったけど、
仕事が終わってから、彼の携帯にメールした。
直ぐに、返信が届くと思っていた私の予想に反して、
彼からのメールは、なかなか来なかった…。
自分から、連絡待つ なんて書いたメモを寄越しておいて、
一向に、メールして来ない…。
彼に、からかわれたのかと思った…。
(女の私から、メールしてあげたのに、直ぐに返信よこしてよ…。
これでも結構、勇気を出して送信ボタンを押したんだからね…。
それなのに…。
失礼なヤツだなぁ…。)
彼からの、メールが着たのは、
私が、メールしてから4時間後の夜中の1時過ぎだった…。
あはは、わりぃ 寝てた
たった一行 たった一言だけのメールだった。
メールが届いた安堵感と、
からかわれた訳じゃないと言う気持ちも手伝って、
何故か不思議と不機嫌にはならなかった。
悪気の無い文面をみて、
私は、少し意地悪してやろうと思い、
わざと返信はしなかった。
次の日、何も無かったようにタバコを買いに来た彼を見た私は、
いつものタバコを3箱差し出した。
キョトンとした彼に、
「3つ買ったら、付き合ってあげる。」
ちょっと意地悪な口調で、彼に言った。
彼は苦笑いしながら、3つ買っていった。
こうして私たちは、付き合う事になった。
先月の第2日曜日に、彼と夕飯を一緒に食べた後の事だった。
私は、彼に聞いてみた。
「私たちって付き合って2年になるのに、ラブラブな関係じゃないよね…?」
「ん? ああ、どっちかと言うと、ブラブラな関係だなぁ…。」
そう言ってタバコを吸いにベランダに出て行った。
「なぁ、あの星の名前知ってっか?」
彼が、ベランダから声を掛けてきた。
私は彼の隣りに立ち、夜空を見上げながら、
「知ってるよぉ、梅干しだろぉ〜」
彼の口調を真似して言った。
「バぁ〜カ」
笑いながら彼は、私の肩を抱き寄せた。
私はタバコの匂いのする彼の肩に、
ちょこんと頭を乗せて呟いた。
「いつラブラブな関係になれるのかなぁ。」
「‥ンなもん、
‥死ぬまでにわかれば、良いんだよ。」
ぼそりと言って、
私にkissしてくれた。
ブラブラな関係だけど、
こんな時間が、ずっとずっと、続けば良いなぁと心から思った。
私の白い息と重なるように、
彼の吐き出した煙の先には、
金星が輝いていた。
春 野風
小説とは 言えませんが、趣味として始めてみました。