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―NUMBER―  作者: Crenna
第1章 莉子捜し
7/14

第2話 囚人2

***



――ザザザ……ピピ……


 何処かで、いつか聞き慣れたような音が響く。しかし音はするのだが、どうにも辺りは真っ暗だ。

(これ、何の音だったっけ?)

 ボンヤリと頭の隅でそんな事を思うが、同時にそれは些細な事だとも思う。“ここ”が何処で、自分が何者かも、“ここ”ではどうでも良いような気がする。


『私は……誰……?』


 ポツリと、零れる様に呟く。

 するとそれに応える様に、懐かしい声が響いた。


『恵莉子!』


 その瞬間、パッと辺りに色が咲いた。

 頬には、雪が触れては溶けて、私達を囲む様な住宅地の塀の向こうは明かりが灯り、笑い声が溢れている。そうだ、今日はクリスマスだ。


『もう、ちゃんと話聞いてた?』


 莉子が頬を膨らませ顔を覗き込んで居る。

(……夢……)

 そうか、あれは夢だったのか。そも、考えてみればおかしい事だらけだ。目が覚めたら、火とバラバラの人達に囲まれた森の中だなんて、漫画や小説じゃあるまい。

 私は訝しげな顔で覗き込む妹に、ニコリと微笑んだ。


『ごめんごめん、全然聞いて無かったわ』

『何と清々しい自白』

『で? 何だっけ?』

『だからさーママのクリスマスプレゼント、どうする?』

『うーん、そうだなぁ』

『やっぱりさー今年は量より質って事で、一緒にしない?』


 確か、一つ貰うよりも二つ貰う方が幸せ二倍!とか言って、毎年別々に買っていたんだ。

 それを今年は、割り勘にしようと彼女が提案して来たのだった。


『私は良いけど……どうしたの? バイトあんなにしてたのに。結構貰えたでしょ?』

『ん? んー……いやぁ、あれですよ、食費(おやつ)

『ダイエットもう止めたのか。まだ1ヶ月も経ってないじゃん!』


 何とも甘えた心に優しいダイエットだ。これじゃ減るものも減らないと思うのだが。

 ……そう言いつつも、ひっそりと摘まんだお腹を摩る。私のダイエットは先月で打ち切られていたりする事実は、この際黙って居よう。


『新作を次々と発売する製菓会社が悪いと思う』

『アンタ一回怒られたら良いと思う』

『もう! 恵莉子はああ言えばこう言うんだから〜』

『その言葉、まるっとお返し致しますわ』

『ノークレーム、ノーリターン! って、あーほらほら、プレゼント早く買いに行かないとケーキ買えなくなるよ! ダッシュダッシュ!』

『あ、ちょっ……ちょっと待ってよ莉子!』


 バタバタと、積もり始めた雪の上を走り出し、莉子が楽しそうに笑い声を上げる。


『恵莉子早く!』

『待って! 待ってよ莉子!』


 雪を蹴って、笑い声へ近付こうと走るのに、それはどんどん遠ざかって行く。


――追いつけない。


『莉子!』



***



「待って!」


 ハッと我に返ると、見慣れない天井が視界に飛び込んで来た。

 それが天井だと分かるのに、何故天井があるのだろうと、ぼんやりとそれを見上げる。


 確か、莉子とクリスマスプレゼントを買いに行こうとしていた筈だ。

(あれは……夢?)

 ゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡す。

塀も、明かりも、雪さえもここには無く、少し質素な家具が並んだ部屋。何処かの客間だろうか。

 その客間の隅に配置されたベッドに、私だけが座る。莉子は居ない。

 一体どちらが夢なのだろう、まだ夢の続きを見ているのかもしれない。そう感じる程に、先程の夢はリアルだった。


「莉子……」


 今を否定するように、俯き目を閉じる。そうして瞼を開いても、変わらずベッドに伏して居る。袖を捲ってみても、そこにはしっかりと囚人番号(ナンバー)が刻まれていて、あの悪夢のような出来事こそが現実だと私に語り掛けていた。


 どれだけそうしていただろうか、動くものは無い、唯一時計の針だけが忙しそうにしていたその喧騒は、桐兎の開いたドアによって破られた。


「何だ、起きてたのか。気分は? 記憶は戻ったか? まぁ戻っても言わねぇだろうけどな」

「……ここは?」

「俺ん家。起きたならちょっとこっち来いよ。色々お前に聞きたい事あるから。立てるか?」


 身体は動く。森の中では動かなかったが、きっと頭を強く打ったせいで脳震盪(のうしんとう)でも起きたのだろう。私は小さく頷き、ベッドから身体を離した。


「あ、ちょい待ち。先ず言っておく。分かってると思うが、俺達に何かしようって事なら迷わずお前を政府に渡すからな。若しくは七区だ」

「……私は何も……」

「口では何とでも言えるだろ。因みに、六区だと思ってナメ無い方が良いぜ。上の方の奴らより俺達六区は護身に長けてるんだからな」


 ……つまり、下手に逃げようと思ったって逃げられない、危害を加えようものなら返り討ちにするぞ、と言う事か。しかも街規模で。ここはそんな人達が集まっている場所だと。

 私としては別に彼らに何かしたい訳ではない。と言うか、莉子を探して家に帰りたいだけなのだが……袋叩きにされる趣味もないし寧ろ御免なので、とにかくこの街では穏やかで居ようと胸に誓う。出来る限り。


 部屋を出ると長い廊下に出る。……何だろう、何処か日本離れしているような造りだ。天井は高いし……何と言うか、異国の建物の様だ。至る所に細かい装飾が施されており、硝子の窓がまるで外壁を切り取った様に嵌め込まれ、一面に並んでいる。そこから日の光が差し込みとても日当たりが良い。その向こう側には、広い庭が青々と草木を茂らせていた。


 すると、それまで少し速いくらいの歩幅で前を歩いて居た桐兎が突然、立ち止まった。お陰で周囲ばかりに気を取られて居た私は、お約束と言わんばかりに彼の背中にぶつかってしまった。


「わっ」

「前見て歩けよ。ほら、先入れ」


 地味に痛む首を押さえつつ、促された扉の向こうへと足を踏み入れた。


「お、目が覚めたみたいだね。良かったよ。君に聞きたい事があってね」


 そこには桐兎の父親の結城と、見知らぬ女性が立っていた。エプロン姿な事を考えると、まぁ奥さんなのだろう。中々美人だ。

 どうやら私はリビングに通されたらしく、奥にはキッチンが見える。

 私の視線に気付き、ニコリと奥さん?らしき女性が笑みを返してくれた。……うん、優しそうだが、忘れてはいけない。武闘派なんだこの人も。

2017.11.23 加筆修正しました。

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