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―NUMBER―  作者: Crenna
第1章 莉子捜し
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第1話

「そ、そんな事言われても⋯⋯私知りません、こんな印」


 数字と記号とが並べられた上に複数に規律良く並んだ縦の線が、やはりバーコードに見える。

 しかし彼はこれを囚人に宛がうものだと言うのだ。

 囚人になどなった覚えも無いし、そもそも何故自分がこんな場所に居るのかすら、分からない。


「これは私の推測だが⋯⋯恐らく君は何らかの罪を犯し、第七区へ護送される途中だったのではないかな。囚人には番号が与えられ、記憶消去の処置が施された後に第七区へ移される事が決まっている。君、第七区の別名を知っているかい?」


 私は僅かに首を振る。


「⋯⋯第七区は、別名“楽園(エデン)の区”。ただ楽園とは言うが、実際はそんなものじゃない。囚人を収容、更正させる為の街だ。一応、軽い記憶操作で犯罪意識と記憶の消去を行ってから搬送されるらしいが⋯⋯それも完璧ではないからね。あの街では犯罪が絶えないんだ」

「更正させる為の街なのに?」

「更正とは言うものの、実質あの区を政府は殆ど管理していない。あの区を纏めているのはあそこの区長だ。他の国民の目もある手前、彼等も表面で決められた規則には従っているが⋯⋯」


 つまり。更正とは名ばかりの無法区域と言う事だ。犯罪が絶えない街だなんて、何故、政府はそんな存在を黙認しているのだろうか。


「でも、それだと周りの区域に被害は出ないんですか?そんな犯罪を犯す人が刑務所にも入らないで自由に暮らしているだなんて、もし、他の街に一人でもやってきたら⋯⋯」


 無法をルールに生きている人が、それを他の区域へ持ち込まない保証なんて無い。夜中に忍び込み、強盗をするかも。ひょっとしたら殺人を犯すかもしれない。そんな恐ろしい人達を何故政府は野放しにしているのだろうか。


 それにしたって、そんなシステムは聞いた事がない。無法でも黙認されている街だなんて。普通、そんな街があれば他の国民から、苦情が来そうなものなのに。

 私なら、恐くて眠れない。

 しかしそんな私の考えに結城は心配無いとでも言うように、ニコリと頷き返した。


「勿論、そんな恐ろしい事は許されないよ。他の区長も当然抗議した。そこで定められたのが、“第七区の住民は他の区域を犯してはならない”と言うものだ。それを破る者は然るべき処置を施される」


 成る程。

 それがさっき言っていた法か。だが、そうなると気になる部分がある。


「あの、それじゃあ今居るここって、何処の区域なんですか?」


 そう、それが問題なのだ。

 もしここがその無法区域ならば、誘拐犯に誘拐されていたとしても警察は助けてくれない。例えこの人達がここで私を殺したとしても、咎められもしないし、私はそのまま朽ちて行くだけだ。


 そして、そんな恐ろしい街に何故か私が“囚人として向かっていた”と言う事も、まだ分からない。

 ⋯⋯私は一体、何をしたのだろう。


 考え込む私を暫くの間見つめていたかと思うと、彼は桐兎と顔を見合わせ頷き、突然私を抱き抱え立ち上がった。


「っわ?! ちょ、あの?!」

「安心して下さい、三嶋さん。ここはまだ第六区、私の管轄下です」

「そ、それは良かったです。でも、あの、何でこんな⋯⋯」


 思っていたよりも、この結城と言う男⋯⋯背が高い。

 こうして近くで見てみると、中々顔が整っていて雰囲気も優しいお父さん、といった感じだ。眼鏡も高ポイントだな、などと場違いな事を思う。

 あれ?って言うか、これお姫様抱っこ。


「三嶋さんには、私の家へ来て貰います。ただ、貴女が記憶消去を施されている囚人である以上、いつ記憶を取り戻すかも、取り戻さなくても犯罪を犯す危険性もありますから、家族や他の一般市民へ危害を加えた時は問答無用で処理しますので」


 ⋯⋯処理?処理って、この場合思い付くの一つしか無いんですけども。せめて対処と言って欲しい。

 私が間抜けな顔で彼を見ていた事で、意味を理解出来ていないと思ったのだろう、桐兎が要らない補足を口にする。


「つまり、七区行きか、死んで貰うって事だよ」


 流石はイケメンの血。桐兎もお顔が整っている為自信有り気な顔でフフン、と鼻を鳴らしてくるのだが今それは求めてない。その一言がとても要らない。

 本気なのか、冗談なのか⋯⋯どちらにせよ簡単に生死を語るこの親子、中々マトモじゃない。

 お姫様抱っこ、とか喜んでいる場合じゃなかった。ひょっとしたら、誘拐犯よりとんでもない人達に見つかってしまったんじゃ無いのかと、私は「ハハハ」と乾いた笑いを返した。


 その間にも、結城は私の体重など重いと感じていないのかスタスタと森を歩いていく。

 そうして抜けた先は、先程の樹々が均等に並んで立つあの悲惨な道路。⋯⋯の筈だったのだが、私はその光景に目を丸くする。


「え?無い⋯⋯?」


 そう、そこは事故の跡なんて影も形もない⋯⋯普通の道路だった。

 無いのだ。何も。

 あんなにも大きな炎が上がり、人は倒れ(おびただ)しい血が流れていた。それなのに、何も無い。

 今あるのは結城達が乗って来たのであろう、一台の車だけだった。


「どうしました?」


 道路を見つめ絶句する私に、結城が問い掛ける。


「あの、ここに車とか、ありませんでしたか⋯⋯?」


 流石に死んだ人が居たか、とは聞き難くそれとなく濁す。すると彼は何でも無い、と言わんばかりの顔を返してきた。


「あぁ、事故の跡かな? ちゃんと政府の方々が処理して行きましたよ」

「処理って、幾らなんでも早くないですか?」

「いえ、こんなものでしょう? 彼らはこう言う類いの扱いは早いですからね。まぁ、政府直々にと言う点では私も疑問なんですが⋯⋯さ、車に乗って下さい」


 乗って下さい、とは言うもののまだ身体の動かない私を、彼はそのまま後部座席へと座らせる。

 その後に続き、桐兎が私の隣へ座り結城は運転席へと乗り込んだ。


 それを見届けると、桐兎が何やら布を差し出して来た。


「これは?」

「悪いけど、俺たちも用心の為だから。家まではコレで目隠ししてくれ」

「すまないね」


 そう言って目は強要しているのだ、この「すまないね」には感情が無い事は私でも分かる。断る選択など無いのだろう。


 ⋯⋯元々、どこからここへ移動して来たのかも分からないのだーー推測は出来るがーー今さら何処へ移ろうと渋谷区への道が分からない以上、目隠しなど無意味だし、断る理由も同じだろう。


 私は目を閉じ、その暗闇に身を委ねた。


(⋯⋯莉子⋯⋯)

2017.11.23 加筆修正しました。

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