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―NUMBER―  作者: Crenna
第1章 莉子捜し
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第1話 囚人

 ―――??年?月?日十二時。






「⋯⋯ん⋯⋯」


 閉じていた瞼に、薄っすらとだが日差しが当たる。


――眩しい。


 そう感じて私はゆっくりと瞼を開いた。

視界にはサラサラと風に揺れ、踊る木の葉が映る。そのまま暫くボーッとしていたのだが、段々とこの状況がおかしい事に気が付いた。


 確か、雪が降っていた筈。


「っ?!」


 慌てて身体を起こす。

 その拍子に、身体の節々が軋みを上げた。思わず体制を崩すものの、咄嗟についた片手で何とか身体を支えると辺りを見渡す。

 目の前には、道路に倒れた人の姿が転がっている⋯⋯ような気がする。


 おかしい。何故?そればかりがグルグルと頭を巡る。


 定まらない思考を正そうと頭を数回振ると、その人間の姿をした塊は一つではない事に気付いた。


「なに、これ⋯⋯?」


 慌てて立ち上がると、そこには今し方横転したと思われる炎上した車。それを中心に、撒き散らしたかのように転々と倒れる人の姿⋯⋯。

 その中に、私は居た。


「だ、大丈夫ですか⋯⋯あのっ! すみません誰か⋯⋯っ」


 生きている人は。そう続けたかった。しかしその塊に近付いてみると、声に出す事を躊躇(とまど)われた。


 腕が折れて居る者、脚が折れて居る者、首が曲がった者や焼け焦げている者⋯⋯その中で、動いている者は自分しかいないのだ。

 呻き声さえも、無い。

 ただ、燃え続ける車と私だけがその場の刻を動かしている様だった。


 もう一度、辺りを見回してみる。


 ポツリ、ポツリと道路を見守る様に並んだ木々のその奥には、深い森が私達を包んでいた。道を進んだ先には一層深く、暗い森が見える。

 そしてその反対⋯⋯恐らくは、私が進んできたのだろう先に、距離はあるが小さく街らしき建物が見えた。

 どうやら、私は街からこの大きな森の中へと移動していた最中らしい。


「街⋯⋯」


 街があるのなら、人が居る筈。


 ケーキ屋へ向かう筈だったのだが、一体いつの間にこんな森の中へ来てしまったのか。わかる筈も無いのだが、私はまだ新しい記憶を呼び起こそうと、うんうん唸った。


「⋯⋯いや、今は取り敢えず莉子を探そう」


 唸ってはみたものの、やはり目ぼしい情報は引き出せそうにない。であれば、得ている情報から順に片付けて行くのが得策だろう。

 森の中の道とは言え、道路はしっかりと管理されているようだ。脇に立つ木々も等間隔に並んだ姿は人の手が加えられたものだと分かる。

 つまり廃れた道では無い。人通りはあるのだ。

 ただそれにしては、まだ陽が真上にあると言うのに交通量の少なさが目立つ、という点が些か気にはなるのだが。


 余り直視はしたくないが、グルリと確認して廻ったところ、倒れている者の中に莉子らしき人影は無かった。

 つまり、考えられるのは彼女とは何処かで逸れてしまったか、或いは彼女は先に家に帰っている可能性だ。共に居た莉子ならば、きっと自分に何があったのかを知っている筈。突然居なくなった?のか、同じく何か事件に巻き込まれてしまったのか⋯⋯何にせよ、私の事を心配している筈なのだ。


「警察とか救急車呼びたいけど、ここが何処か分からないしなぁ」


 莉子が居ないのならば、探しに行きたい。しかしこの場を動こうにもこのままにして行くには躊躇われる。車は炎上したまま引っ繰り返り、その付近を人が……いや、人だったものが散り散りに倒れているのだから。


「まさか本当にこれ誘拐なのかな⋯⋯いやっ止めよう恐すぎ。えーと、何か無いのかな確か携帯は持って出てきた筈」


 ゴソゴソと、ポケットと言うポケットを漁る。しかし頭の先から靴の中まで確認しても、結局一円玉一枚すら出てくる事は無かった。


「え、何で携帯ないの? 装備力皆無で森の中って私ヤバいんですけど」


 これが誘拐なのだとすれば、ひょっとしたら誘拐犯が捜しにくるかもしれない。そんな事になれば普通の女子高生の私が上手く逃げられるなんて、先ず奇跡だろう。捕まったらどうなるのか⋯⋯乏しい私の想像でも良い結果にはならない。ジ・エンド、と言うやつだ。

 何より、何も持っていないのだ。携帯も無ければ、財布もない。恐らく制服を着たままその身一つで移動させられて居たのだろうが、こんな森の中で武器になりそうな物も、連絡の手段も食糧すらない状態だなんて詰んでいる。

 まぁこれが本当に誘拐ならば、全て盗られているこの状況に何ら不思議は無いのだが、それは私にとって全く救いにもならない思考である。


「ママー莉子ぉー」


 じんわりと視界が滲む。

 一人で、こんな訳が分からない所で死ぬなんて御免だ。ましてや誘拐犯等に捕まるのなんて、真っ平御免だ。何をされるか分からない。


「⋯⋯逃げなきゃ死ぬ」


 そう、口にした時だった。

 ジリジリともチリチリとも言えない、聞き慣れない音が聞こえた。


「ん⋯⋯?」


 耳を済ませて音を拾う。音の方向へ視線を手繰ると、それは炎上した車から発せられている事が分かった。

 そういえば、心なしかガソリンの臭いがするような。


 考えてみると、今の状況は映画とかでよく観るシチュエーションのような気がする。主人公がカーアクションの末に転倒、炎上した車から逃げた時、ジリジリと音がしたかと思ったらその車は⋯⋯


「いやいやまさか映画じゃあるまいし。アレは演出だし。え、なにこれドッキリなの?ドッキリだったの?」


 まさか、とは口にするものの、燃え続けているその炎も段々と大きくなる。もう一度、倒れている人達を見渡すがとてもドッキリでしたー!等と動き出すようには見えない。

 いや、首や手足があらぬ方向へ曲がっている状態で軽快に動き出されても聖水投げて浄化して貰うしかないが。持ってないけど。

 しかし、暫くそれら塊へ声を掛けてもやはり動き出す者は居そうにない。ガソリンはどんどん広がり周辺は燃え盛っている。森に火の手が上がっていないのが救いだが、それも時間の問題だろう。周囲に広がりつつある気化したガソリンも、離れた場所に居るここまで臭いが届いている。このままでは本当に引火してしまう。

 サァッと、頭から血の気が引く音がした。なんとか車から離れようと慌てて駆け出す。

 ガソリンに引火して大爆発。その方が、映画としては見栄えが良い。しかし、これは現実であって、映画ではないのだ。


「見栄えで死にたくないーーーーー!!!」


 そう叫んだ瞬間、背後で物凄い爆発音がしたかと思うと、ふわりと身体が浮いた。

 あっ、と声を上げる間も無く私の身体は爆風によって、森の中へと吸い寄せられるかのように、宙を舞った。


 一瞬にして、無造作に生えた木々の枝が服を裂き、頬を裂き、身体に無数の傷を作る。

 そしてその痛みに悶える間も無いまま、私は大きな幹に打ち付けられ再び意識を手放す事となった。

2017.11.21 加筆修正しました。

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