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―NUMBER―  作者: Crenna
序章 恵莉子と莉子
3/14

第1話


 ―――二千十四年十二月二十五日二十三時五十二分。







「うう~寒い! やっぱ外寒いよ~」


 歩き始めてから数分、莉子は両手に息を掛けながら呟く。


「そりゃそうでしょ、真冬だよ? それに深夜だし雪だし」


 ギュッギュッとリズミカルな二つの足音が交差する。

 やはりあれから雪が降ったのだろう、周りは数時間前よりも一層深い白に覆われていた。

 冷えた体が温まった頃にこうしてまた外を歩くのだ、私達には冷た過ぎるこの空気は、文句を言うには十分。


「いやぁ、そんな寒い中を何故私は歩くのか。不思議ですなぁ」

「夢遊病ですかぁ」

「よし、帰る」

「あーやだ冗談です! 冗談っす恵莉子様!!」

「お口には気を付けた方が宜しくてよ莉子さん?」

「ウィッス」


 軽口を叩きつつ、二人共足を緩める事はしない。

 寒い。半端なく。

 私達の頭には、早く行ってさっさと帰る。そればかりが巡っていた。


「しっかし、ホントに寒いね今日は」

「だねぇ⋯⋯」


 実際、家から店までそんなに距離がある訳では無い。

 しかしどうにも、この寒さが長く続いて居る気がしてならない。


 ふと、莉子を見る。彼女もまた寒そうに両手を擦っては、暖を取っていた。


「あ、ねぇ莉子」

「んー?」

「何で今年はティファニー?」


 例え最終的に彼女の手に渡るのだとしても。

 去年までのネタプレゼントと比べ、随分と羽振りが良い。


 確か去年は"世界の赤ちゃん変顔写真集"だったような。一体何処からそんなものを見付けてくるのやら、彼女は毎年「何だこれ!」と言いたくなる様なプレゼントばかりだった。


 当然今年もそうだろうと予想していただけに、随分と拍子抜けしていると言うのが本音だ。

 ⋯⋯まぁ、ある意味違う形で驚かされはしたが。


「いや、別に理由とか無いんだけどさ。なーんかね、今年はネタプレもマンネリ化して来た感あったし、そろそろ私等も年頃じゃん?」


 大人じゃん?と現在高校2年生の彼女は肩を竦める。

 いや、全く以て、子供じゃん?


「それに、最近知ったんだけど⋯⋯恵莉子さぁ⋯⋯」


 チラリ、と効果音が聞こえてきそうな顔で、彼女は視線を寄越す。


「何?」

「⋯⋯おのれ許すまじ」

「いや、だから! 何!?」


 暫く無言で私を見つめては、くそ〜、だの、ちくしょう〜だのと呟いている。


「何なの、私何かしたの?」

「⋯⋯いや、したけどしてない? みたいな?」


 何だそれは。

 益々訳が分からない。双子は考えが似るとか、自ずと理解出来てしまうものだとか言うけれど。


「いや、意味わかんないし」

「幾つになった」

「はい?」


 莉子はフッと小さく息を吐くと、それまで並んで歩いていた方角を変え、私の背後へと回る。

 すると次の瞬間、何を思ったか彼女は私の胸をガバッと掴むと、そのまま恨めしげな声を上げた。


「ぎゃ! ちょ、ちょっと莉子!!?」

「いーーなーーーアンタまた胸大きくなったでしょ私知ってるんだからねーーーいーーなーーー」

「って言いながら揉むな!! や、止めてよ!」


 側から見れば微笑ましい⋯⋯と言えなくもないが、されている身としてはたまらない。即刻、止めて頂きたい。

 しかし莉子は私の懇願空しく、その手を緩めようとせずブツブツと恨み辛みを並べ立てている。


「何で同じ顔して同じモノ食べて同じ事して恵莉子だけこんな大きくなるの、これC? 下手したらDあるんじゃないの? なんなの? 私なんてBなのに」

「莉子!」

「寝る前のプリン? あのプリンが駄目なの??」

「⋯⋯っだー! もう!」


 私は未だ揉み続けている莉子の手を掴むと勢い良く引き剥がし、彼女の胸へ肘打ちをプレゼントしてやった。


「うぐ! 胸が潰れる⋯⋯!!」


 問答無用だ。

 プリン一つでこんな事をされる私の気持ちを、少しは考えろと言うものだ。

 と言うか、プリンで胸はデカくならないと思うのだが。


「潰れておしまいなさい。⋯⋯ったく、アンタってば加減を知らないんだから」

「⋯⋯それ私の台詞なんですけど。超痛いんですけどマジ潰れる」


 ⋯⋯うん。流石に力を入れ過ぎたかもしれない。そう思うのだが、それを口にすれば確実に我が妹はお調子に乗るのだと、十七年の歳月が語るワケで。


「知らないわね」

「サイズ小さくなったら恵莉子のせいだからね、そうなったら恵莉子の胸もぐからな!」

「私の胸は果物か。元はと言えばあんたが悪いんでしょうが。もー早く行って帰るよ! 寒い!」


 いつの間にやら、しっかりと降り積もっている雪がもう足元を隠している。このままでは帰る頃にはもっと寒く、歩き辛くなっているかもしれない。

 私は莉子の手を引くと足早に歩を進めた。

 しかし、そんな時に限って思惑通りに物事は進まないのが世の常だったりする。


 ⋯⋯近道をしようと、路地裏へ体を滑り込ませた時だった。


「あ! ちょ、ちょ、待って恵莉子! ケータイ落ちた!」

「えー?! もー! 何してんの!」

「いや、今何時かなーって思ったら無くて⋯⋯多分さっきので落ちたみたい。あ、横断歩道んトコあった」


 莉子は辺りをキョロキョロと見渡し、真っ白な道の一部に自分の携帯を見つけ出した。私には小さな点にしか見えないのだが。


 幸い、時間が時間なだけに車道を走る車は殆ど無く、信号は有って無い様なモノなので先程も一瞥して渡っていた歩道だ。

 その為、車に轢かれて携帯がぺしゃんこになっている心配はなさそうなのだが、今の天気は雪。精密機械にはよろしくない環境である。


 仕方なしに行く道とは反対へ踵を返すと、路地裏を抜け大通りへ戻る。



 ⋯⋯その、選択がいけなかった。



「あーヤバイこれ大丈夫かな? 割りとべちゃべちゃなんだけど」

「莉子防水にしなかったもんね」

「だって好きなデザイン無かったんだもん」


 案の定、雪の中に埋れていた莉子の携帯は、電源も落ちて既に真っ暗だった。


「はー⋯⋯やっぱりここは、新しくスマホに変えるべきかなぁ」

「変えたら? 私にはなんで莉子が変えないのか不思議だったよ」

「機械オンチ舐めるなよ? 恵莉子そう言うの得意だもんねー羨ましい」


 そう。

 私達の唯一の違いは、『機械』だ。

昔からそう言う類のモノは私が彼女の分も荷ない、逆に私の不得手には彼女の才が光る。 本当に私達は上手く出来ているなと、以前母に感心された事を思い出した。


「まぁ、まだ壊れたって決まった訳じゃないし!」

「え?! あんたまだそれ使う気?!」

「一寸の虫にも五分の魂、塵芥にも一寸の利用価値なのさ」

「もしもし? 塵芥って何か知ってる? ゴミですよ?」


 一卵性双生児。

 母子家庭と言えど毎日を楽しく幸せに暮らす、何処にでも居る普通の女子高生。


「って言うかそんなコトワザ無いんですけど」

「私が作った」

「⋯⋯それ他人に言うの止めなさいね? 多分私にしか通じないから」


 そんな私達に。

 この小さな幸せを手離す時が迫っていた事を。

 この時気付いて居たなら、私達にはきっと、違う『未来』が訪れていただろう。


「えー? あ、だからこの間ヨリちん達変な顔してたのかー」

「既に使用済みかい⋯⋯」


 大通りの、横断歩道の、真ん中。

 莉子は半壊?した携帯をプラプラと小さく振りながら、納得した様な、けれど不満気な顔で呟いた。

 すると不意に何処からか、大きなエンジン音が近付いてくるのがわかった。それは急速に近付いてくる。この車道を通ると確信した訳ではないが、私達が居るのは横断歩道とは言え車道だ。信号も青に切り替わっているが回避するに越した事はない。

 私は莉子の背中を押すと、歩道へと歩き出した。


「莉子、ほら行こう」


 ⋯⋯その時だった。


 突然、一台の車が私達を照らした。“それが何の光なのか”を、頭が理解するまで僅か数秒。しかし“コト”が起きるにはそれで十分だった。


 瞬く間に近付く車に照らし出された私達の影は、一段と濃く強く伸びる。真夜中だと言うのに私達の視界は真っ白な光に支配され、危ない、と頭が悲鳴を上げる頃には既に、私達は車の影に包まれていた。


「――っ莉子⋯⋯!!」


ドンッ


 と、鈍い音が体を伝い、脳内へ響く。

 あんなに煩かったブレーキ音が、遠くで鳴り響いている⋯⋯。


 しかし、“何か”が落ちる音が複数回。やけに鮮明に聞こえたかと思うと、再び、私の全身は打ち付けられた。


 それが地面だと理解する頃には、私の意識は薄れ⋯⋯


 彼方に、消えた。





 ―――二千十四年十二月二十五日二十三時五十九分。





「⋯⋯こ⋯⋯」

2017.11.21 加筆修正しました。

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