プロローグ
―――二〇一四年十二月二十五日二十一時二分。
その日は雪が降っていた。
連日続いた寒さを思えば当たり前じゃないかと思うのだが、世のロマンチストにそんな正論は通用しないだろう。ホワイトクリスマス!だとか、聖夜の奇跡!だとか。
騒ぎたがる幸せそうな世間様は目一杯幸せを叫ぶ。
⋯⋯例えば、そう。私の隣を歩くロマンチスト様とか。
「やばー! 超積もってる!! ねぇねぇ超積もってるよ!!」
「はいはい。私の周りも積もってます」
「マジ足跡付けたくなるわ! えい!」
「あ、ちょっと莉子転ばないでよ! 家までまだ掛かるんだから!」
両手にはケーキとシャンパン。それに細やかながらクリスマスプレゼントを抱えた私は、上機嫌で走り出した彼女の背中へ向け、呆れ半分な声を掛ける。
「だってクリスマスだよ、ホワイトクリスマス! 超ロマンチックじゃない?」
きゃあきゃあと声を上げながら、莉子は目の前を足踏みしながら走り回る。
「あーあ! これで一緒に歩いてんのが姉じゃなくてイケメン彼氏なら言う事無いのにな~!」
「あーはいはい。それ私の台詞でもありますから。私だってクリスマスくらい荷物を人に押し付けてはしゃぐ妹とじゃなく、イケメン彼氏と歩きたいです」
「それは私のせいじゃないでしょ。じゃんけんで恵莉子が負けたせい」
駅から近い、いつも学校の帰りに二人で寄り道するケーキ屋。
そこで、今日はクリスマス。いつも苦労を掛けっぱなしな母へと感謝を込め、ケーキを買おうと出て来ていた。その帰り道、荷物を掛けてのじゃんけんに私が負けたのだ。
「だーからって普通全部持たす? 超重いんですけど! 特にシャンパン! 腕捥げる!」
「ガンバレ姉よ! 可愛い妹がオウエンシテル」
「喧しいわ」
父は、私達がまだ幼い頃交通事故で亡くなった。それから母は再婚もせず、女手一つで私達を育ててくれた。
そんな、在り来たりな⋯⋯と言えば語弊があるが、今のご時世には聞き慣れてしまう家庭環境、とやらだ。
だからこそ、私は家族を大切にしている。
「姉姉って言うけどね、莉子ちゃん? 私達双子でしょ? 何事も力を合わせた方が素敵な姉妹になれると思うなぁ~」
「あら恵莉子ちゃん? 甘えてばかりでは素敵な姉妹にはなれないわよ? ハイハイ愚痴言わな~い歩く歩く! 勝負は時として非情なのだよ!」
「鬼」
「え? 可愛い?」
「同じ顔だ、同じ顔」
同じ顔。だけどちょっと違う私達。お互い顔を見合わせ笑い合っては、帰路へと着く。
家では母が待っている。これが、私の幸せであり日常だ。
どうかこの幸せがずっと続きますように。
「ん?何か言った?」
「いーえ、何も」
だけどその願いが、あんな形で終わりを迎えるなんて。
⋯⋯誰が想像しただろう?
2017.11.21 加筆修正しました。