16 推進エンジン
特筆することもなくただ黙々と歩き続けた俺と掛道は、二十二分で俺に家に着いた。一戸建ての普通の家だ。親兄弟は仕事と学校でまだ帰っていない。
ところで人はなぜ一緒に歩く人数が増えれば増えるほど歩くのが遅くなるのだろう。今回の俺達もそうだ。まるで一言も言葉を交わさずに、実質一人で歩いていたようなものなのに、普段より二分も時間がかかった。こまめに腕時計で時間を確認する癖がついているからか、この二分が気になる。普段より歩くのが遅かったのか? むぅ。
なんてことを玄関の前で考え込む時間ももったいない。とりあえず当初の目的を果たすために俺の部屋からスケボーを取ってこねえと。
玄関の鍵をあけ、中に入る。ただいまと呟く。無人の家に大声も出しづらく、少し小声になった。
「先輩、なんかさみしい家ですね」
かなり失礼なことを言いながら、掛道も玄関に入ってきた。外で待ってて欲しかったのに。まあその旨は伝えておりませんが。ところで二十二分の沈黙の後に唐突に話しかけられるコミュ力マジリスペクト。
靴を脱ぎ階段を上がる。段数は十六段。どうでもいい。
「家、誰もいないんですか?」
この女まだついて来ていやがった。待ってろと言ってない俺には責められないがな。
俺の部屋に着く。座標は玄関の真上だ。どうでもいい。
ドアを開けて中に入る。掛道も中に入ってきて、俺の机の上のスケボーを見つける。
「あ・・・よかった・・・・」
心底ほっとしたような表情になりスケボーに手を伸ばす。
「あれ? ・・・・先輩、私のスケボーの周りに工具が置いておるんですけど。ペンチに錐に・・・・一体何をしていたんです?」
ニコ☆、と怒りの星がキラキラと輝く笑顔で聞いてくる。そういや昨日、LANケーブルを自作してたなー。
「いいからもってけ。・・・・別にこっそり小型推進エンジン搭載とかしてないから」
セリフの最後は目を逸らしながら付け足す。
「推進エンジン!? そんなもの付けたんですか!?」
付けてないって言ったのに誤解されちゃったよ。予定通りだが。
「だからツケテナイってー。勘違いしないデヨネー」
「ならなんでそんなに白々しいんですか! 目をそらさないでください!」
推進エンジン、どんだけ信じてんだ。俺の度重なる思わせぶりなセリフが、掛道の俺に対する謎度合いを高めた結果なのだろう。そのうち神格化するんじゃないか? 宗教やろっかな。俺教。
「っ! 来た!」
掛道の呟きで俺も気づいた。
────再び、世界の時間が止まった。
今回の話は千文字オーバーしました。私にとっては長文です。我ながら情けないですごめんなさい。




