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巨乳のエミちゃん(1)



     ④

 巨乳のエミちゃん(1)




今は雀荘もいろいろと様変わりして、営業スタイルにも多種多様なものがある。


いずれも〝オッサンの巣窟〟というイメージを一掃して若い客層を取り込むためのビジネス戦術だが、一番代表的なのが〝ギャル雀〟だろう。


要するに若い女の子を揃えて客と打たせるもので、麻雀関連の雑誌等にある雀荘の広告にはギャルメンバーの写真がずらりと並び、雀荘の広告なのかキャバクラの広告なのか判らない。


行ったことがないので、彼女達の麻雀の腕がどの程度のものか計りかねるが、客の目当てが麻雀なのかギャルメンなのかも怪しい訳だから、ルールさえ覚えてほどほどに打てれば事足りるのかもしれない(違っていたら、ゴメンナサイ)。


一般的なメンバーの賃金形態というのは、時給の他にゲーム代が店持ちとなるだけで精算は自腹だから、下手をすると給料がマイナスになる事だってあるが、ギャルメンの場合は精算も店持ちの所が殆どだと聞く。


それで経営が成り立つのかな? と余計な心配もしてしまうが、逆にそれだけの集客力があるという事だろうから、客のタイプは推して知るべしというところか。


最近ではメイド喫茶スタイルの雀荘まで登場しているらしいが、いろんな意味でオイラに踏み込む勇気はない(笑)。



西口店の系列チェーンにも女の子のスタッフは何人かいるが、大抵はフロア周りの仕事がメインで、男性メンバーとはスタンスが違う。


やむを得ず彼女達が本走しなければならない場合は、やはり精算は店持ちとなる。


人によっては、たどたどしい手つきで牌を切る彼女達に対して手心を加える打ち手もいるが、オイラなどは喜んで狙い撃つ。なんせ店の金なのだから、何を遠慮する必要があるものか。


まぁ、こんなオヤジがギャル雀に行けば、塩を撒かれるのかも知れないが。



特にギャル雀でなくとも可愛い女性スタッフがいれば、やはり若い男性客の中には人知れずお目当ての子に会いにせっせと足を運ぶ奴もいるだろう。



考えてみればギャル雀でもない普通の雀荘でスタッフとして働く彼女達の時給など知れたもので、そのままキャバクラにでも行けばすぐに指名が付きそうな子が、何を思って小汚い店でオイラ達にコーヒーを運ぶのか不思議ではある。



種類は何であれギャンブルそのものを毛嫌いするオイラのカミさんのようなタイプはまずいないだろうが、仕事として割り切るのであればパチンコ店の方が遥かに給料は良い。


もちろん麻雀が好きな女子も多いし、タレントもどきの女流プロ雀士がもてはやされる昨今ではあるが、ある意味変わり者と言うか、希少な存在であることには違いない。


  ★  ★  ★




西口店の女性スタッフも例に漏れず「容姿で採ったな」と思われる可愛いのが揃っていた。


中でもエミの隠れファンは多かったが、彼女はどうもメンバーとしての仕事も受けていたようで、本走の方も普段からしっかりこなしていた。


西口店での勤務はオイラが常連として通い出した後からだったが、その前も他の系列店で働いていたらしいから、麻雀の方もそれなりに年季が入っていた。


恐らく年齢は30に届くあたりで他の女の子より年長だと思ったが、小柄で童顔なためそれは感じさせない。さらに体型に似合わぬ巨乳を持ち併せていたから、オタク系の若い男子には尚更人気があった。


エミに限らず若い女の子の麻雀というのは変に癖のないストレートなタイプが多く、調子付かせると意外に手強かったりする。


ただその分ディフェンスが甘く、場が煮詰まってからの〝回し(危険牌を掴んでオりるのではなく、手を変更して上がりにいくこと)〟が効かない。


エミはそのあたりも心得ており、なかなかいっちょ前な麻雀を打っていた。


何より彼女はツモ上がる確率がなかなか高い。


出上がりを期待する麻雀に対して、自力でツモ上がる麻雀はやはり強いのだ。いくら上手く打ち回しても、ツモられてしまえば手が出せない。


上手さと強さがぶつかれば、結局強い奴が勝つのが麻雀だ。


だからと言って、上手さを身に付けることは出来ても強さを習得する合理的な術はないのだから、オイラのような下手の横好きは、チョコマカと立ち回って他人のスキを窺う泥棒麻雀に終始するしかないが、エミはその強さを持っていた。


拮抗した局面で彼女からリーチがかかると、ツモられる前に何とかしなければと悪あがきを講じるが、結局徒労に終わった…という記憶が少なくない。


「エミちゃーん、リーチ代走お願い!」という声が多いのも、エミに頼めばツモってくれるのではないかという期待の表れだったろう。


無論、リーチをかけた時点で本人のツモ山に上がり牌があるかどうかは決まっているし、彼女が代走したからといってそれが変わるはずもない。



オイラなどは上がり牌を卓に叩きつけて点棒をかっさらう瞬間を味わう為に雀荘に赴く訳だから、そんな美味しい場面で代走を頼んだ事はただの一度もない。



また、よほどの事がない限り局の途中で代走を頼むというのもしたくない。


頼まれる方だって、ワンナウト・ランナー2累なんて場面でいきなりリリーフを任されるのは迷惑というものだろう。


オイラが代走を依頼するのは親番以外の局の始まりからと決まっていて、トイレに立つのもそのタイミングまで我慢する。


これも良し悪しで、席に戻ってから手牌と捨て牌を見て「なんであの牌が河にあるんだ?」と目を疑う事もしょっちゅうだが、代走の場合はあくまでオーソドックスに打つことを心掛けるメンバーもいれば、序盤から一定の方向へ決め打つメンバーなどタイプもいろいろだから、代走を頼んだ以上 文句は言えない。



人によっては割と安易に代走を頼んで「好きにやっていいよ」というタイプもいるが、オイラはあまり自分の麻雀を他人にいじられたくないたちで、ましてやメンバー全入りでスタッフの女の子しか残ってないような時は、苦しくともトイレを我慢してしまうのである。




  ★  ★  ★




「何メモってるんですか?」



打ち終えた帰り際、渋い顔で手帳にペンを走らせるオイラを、横からエミ が覗き込んだ。




「誰にも言うなよ。実は今な、すげー記録を更新中なんだ」



「記録? なんの?」



「もう3週間もノートップなんだよ」



それは、フリーに通い始めて初めて味わう、超大型ウルトラ級のスランプだった。


この頃は3日に1度は西口に顔を出していた時期で、すでに通算40ゲーム近くトップがない。


それだけでもただ事ではないのに、辛うじての2位が数回あるだけで、大半はラスを引かされていたのである。


常連の中にはサイドテーブルにノートを置き、半チャン毎の戦績を事細かに記録している几帳面な奴もいたが、オイラにそんな趣味はない。


しかし面白いように不調が続くので、思い出せる時点からの順位だけをメモるようになって早や2週間余り。小計欄には『1位0%、2位11%、3位41%、4位48%』といった具合に、目を覆いたくなるような数字が並んでいた。



「ホントだ…どうしちゃったんですか?」



「わざと狙っても、こうはいかないと思わねーか?」



「うん…確かに…」



別に上がれない訳ではない。途中までリードしていても、有り得ないような大物手を親被りさせられる。逆転を狙ってくる相手の見え見えのリーチに脇が突っ込み、突っ込んだ本人はその後ツモ上がって復活する…。とにかく終わってみれば3〜4位の指定席に座らされてしまう。


毎度毎度、「さて、ここからどんな展開で自分はラス落ちするのだろう?」と勝負の女神が仕掛けるイタズラに身構えていると、それはそれは見事なシナリオで応えてくれるのだった。


いくら低レートとは言え、それだけ負けが込めば、家族持ちのサラリーマンの小遣い銭などひとたまりもない。


それでも無理に無理を重ねて店に出向き、ほんの2~3ゲーム打っては指定席に収まる自分を確認して早々に立ち去る…というのが日課になりつつあった。


もうここまで来たら、この果てしないトンネルの向こう側を見ずにはいられない。


トンネルを抜けるには、トンネルを進む以外にないのである。



店を出るオイラを送って、エミがエレベーター前までついて来た。



「あのぉ、アタシ、今月いっぱいでこの店終わりなんです」



「へ? 嫁にでも行くのか?」



「あは。一緒に住んでる彼氏の仕事の都合で千葉に引っ越すんですけど、向こうにも系列店があるから」



「そうなんだ。エミはここのチェーン一筋だなぁ」



「なんだかねぇ。ズルズルと」



「彼氏の転勤に付き合うぐらいなら、結婚してもらえよ」



「う~ん…。そっちもズルズルで…」



「ズルズルやってるうちに、そのチチ垂れちまうぞ」



「ああっ! ひっど…」



「お前がいる間にトンネル抜けられっかなぁ?」




「大丈夫。きっと反動でツキまくりますよ」



そんなありきたりな励ましよりも、恥ずかしくて誰にも言ってなかったスランプ中の戦績を打ち明けた事で、オイラはなんだか少し気が楽になっていた。





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