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貴族の情け

俺が、この世界のあまりにも生々しい戦争の理由に妙な納得感を覚えている間にも、地獄の行軍は続いていた。


俺は壊れた機械のように同じ質問を繰り返したことで精神をすり減らし、


ポチはそれに答えたことで尊厳をすり減らしていた。


ミアは空腹で機嫌を損ね始め、リオとチャルは、この一行の未来そのものに絶望していた。


その、あまりにも救いのない行列の中央部。

一台の豪華な馬車の中で、ロゼリアは気絶したようにぐったりと座席に倒れ込んでいた。度重なる常識外れの出来事が、彼女の精神的許容量を完全に超えていたのだ。


しかし、馬車が大きく揺れた衝撃で、彼女は「ん……」と、か細い声と共に意識を取り戻した。


「……ここは……そうですわ、わたくしは…!!!」


彼女は、状況を思い出し、自らのプライドを保つために、しゃんと背筋を伸ばす。そして、気晴らしにでも、と窓の外に目をやった。


そして、見てしまったのだ。


自分の護衛として雇ったはずの、あの狂った一行の、あまりにも無様な姿を。


先頭では、ミアがペット(ポチ)の首に付けた蔦の蔓を、まるで犬の散歩のように、楽しげに引っ張っている。


そのペット(ポチ)は、エリート戦士の面影など微塵もない、虚ろな目で、ただ黙々と地面を見つめて歩いているだけ。


その後ろでは、リーダー格のはずの男(圭)が、何かに満足したように一人頷き、チャルとリオは、世界の終わりのような顔で、とぼとぼと歩いている。


その光景は、ロゼリアの貴族としての美意識を、根本から否定するものだった。

美しい服装でもなければ、華麗な舞でもない。

強い誇りもなければ、尊厳もない。


(な……なんですの、あれは……!)


彼女の脳裏に、先ほどの戦闘でのポチの、孤高で、気高い戦士としての姿が蘇る。


それに比べて、今のこの、尊厳の欠片もない、まるで家畜のような姿は、一体なんなのか。


ロゼリアの中で、失望と、諦めと、そして、彼女自身にも理解できない、ほんのわずかな戦士への敬意のような感情が、ぐちゃぐちゃに混ざり合った。


「……見ていられませんわ!!!馬車を止めなさい!」


彼女は、心の底から絞り出すように呟くと、御者に命じて馬車を止めさせた。

そして、窓から顔を出し、俺たちに向かって、苛立ちを隠そうともせずに叫んだ。


「あなたたち!止まりなさい!!!」


「わたくしの護衛が、そのような無様な姿で列に加わるなど、万死に値しますわ!特に、そこのエルフ!あなた、それでも誇り高き古の種族ですの!?」


「...」


ポチは、もはや何も答えなかった。

答えるとさらに傷が深まるとわかっていたからだ。


ロゼリアは、そんな彼女の姿にさらに苛立ちを募らせると、列の最後尾で空になっていた荷物運搬用の馬車を、扇子でピシャリと指差した。


「そこの!後ろの空いている荷馬車にお乗りなさい!!!!あなたたちの惨めな姿が、わたくしの視界の隅にすら入らないように、一番後ろですわよ!」


それは、助け舟ではなかった。ただの馬車である。

ただ、自らの美意識を汚す、醜いものを視界から排除したいという、彼女なりの、あまりにも屈折した「慈悲」だった。


俺は、その言葉の裏にある、不器用な優しさを即座に理解した。


しかし、ミアは違う。


「わーい!馬車だー!ロゼリア、ありがとー!^_^」


彼女は、ロゼリアの言葉を100%の善意として受け取り、大喜びでポチを引きずって、最後尾の馬車へと駆け出していった。


ロゼリアは、そんなミアの姿に「ふんっ!」と鼻を鳴らすと、乱暴に窓のカーテンを閉め、二度とこちらを見ようとはしなかった。


その耳が、ほんの少しだけ赤く染まっているのを、俺は見逃さなかった。


(……なるほどな。貴族の『慈悲』とは、こういう形を取るのか。……面倒くさ....)


俺は、また一つ、この世界の厄介な常識を学びながら、リオとチャルと共に、ようやく手に入れた束の間の休息(馬車)へと向かうのだった。

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