三人二脚輸送法
俺の、あまりにも狂った提案は、なぜかその場の全員に受け入れられた。
いや、正確には、ミア以外の全員が、あまりに非現実的な言動に思考を放棄したのだ。
リオとチャルは魂の抜けたような顔で頷き、ロゼリアをはじめとする貴族たちは、もはや俺たちを関わってはいけない禁忌の存在として、遠巻きに見ているだけだった。まるで道路に落ちたカナブンの羽のように。
「...あいつは一体...」
「...コソコソ....」
「なんてこと....」
「ヒエッ...」
「やったー!ペット!ペット!!!!!٩( ᐛ )و」
彼女は、先ほど部隊長としてミアにとどめを刺そうとしていた、一際美しい金髪の女エルフの前に立つと、その腕を、何の躊躇もなく、がしりと掴んだ。
「この子がいいー!!!( ͡° ͜ʖ ͡°)」
その瞬間、意識を取り戻しかけていたエルフの瞳が、カッと見開かれた。
「!!!」
その目に宿るのは、純粋な恐怖と、そしてエリート戦士としての、殺意にも似た屈辱の光。
彼女は、まだ麻痺して動かない身体の中で、全力でミアを睨みつけた。
(おいおい!めっちゃ睨んできてるけど大丈夫なのか!?)
「ふふッ!( ^∀^)」
しかし、ミアは、そんな殺意のこもった視線など、全く気にしていない。
まるで、少し元気のいい子犬にじゃれつかれたかのように、にこにこと笑いかけた。
「よし、決めた!!!今日からあなたの名前は『ポチ』ね!!!٩( ᐛ )و」
ポチ。
その、あまりにも、あまりにも、あんまりな命名に、俺だけでなく、リオとチャル、そして遠巻きに見ていた貴族たちの顔までが、引き攣った。
「ミア....それは流石に...可哀想では...?」
チャオが不安そうにミアに声をかける。
「ん?いいの!私のペットだから!!( *`ω´)」
ミアはプンスカ顔を膨らませて反論する。
「...えー.....」
「さあ、帰るよ!ポチ!!!^_^」
「....!!!」
ミアは、返事のない新しいペットの腕を掴むと、そのままズルズルと、地面を引きずり始めた。
森の枯れ葉や小枝が、気高いエルフの金髪に無慈悲に絡みついていく。
その光景は、あまりにもシュールだった。
ハイになった怪力少女が、伝説の種族であるエルフを「ポチ」と名付け、まるで汚れた雑巾のように引きずり回している。ここまで理解できない光景があっただろうか。
「アハハッ!!ウフフッ!!フフッ!!( ´ ▽ ` )」
「....ズルズル...ガガ...」
森には、ただ、ミアの楽しそうな鼻歌と、エルフが地面を引きずられる音だけが響いていた。
誰も、何も言えない。
ツッコんだら負けだ。
この場の全員が、心の底からそう悟っていた。
(もうダメだ……。常識で立ち向かおうとすること自体が、間違いだったんだ。この流れは、もはや誰にも止められない。ならば……!夫として...!!!)
俺の中で、何かが、完全に振り切れた。
もう、どうなってもいい。この地獄の空気を変えるのだ。
俺は、咳払いを一つすると、この狂った流れに、自らの尊厳と戻りかかっていた誇りを投じる決意を固めた。
「待て、ミア...!」
俺は、できる限り真面目な、学者然とした口調で言った。
「ペットの輸送方法としては、あまりにも非効率的だ。それに、ポチ……いや、『新しい家族』の身体に傷がつくぞ!」
「えー、でもー( ・∇・)」
「ここは、俺が考案した、新たな輸送方法を試そう(?)」
それを聞いたリオが、心底呆れ果てた声で反論する。
「...おい、圭...!それは馬車にでm」
「いいや!それでは効率が悪い!それに俺たちが乗る馬車なんてない!!護衛だからな!!!」
俺は、リオの正論を遮り、ミアが引きずるエルフ...いや、ポチの前に立つと、完璧なプランを、高らかに宣言した。
「いいか。まず、ミア、お前がポチを肩に担げ」
「うん!٩( ᐛ )و」
「そして、俺は、お前が担ぐポチの上に座る!!!!!」
「「「???」」」
俺以外の全員の思考が、綺麗にハモった。
「これぞ三位一体の『三人二脚輸送法』だ!!!!!移動と研究とペットの運搬が同時に行える!!!完璧じゃないか!!!!!!!」
俺は、正気と狂気の狭間で、必死に最高の笑顔を浮かべていた。顔を緩ませ、口角を無理やり引き上げる。乾いた笑い声を喉から搾り出し、言葉の間に謎のリズムを唱える。
なぜだか涙が出ているような気すらしてきた。
リオとチャルが、心底軽蔑した目で俺を見る。
俺の愚かさがついに天元突破したのか、もはやツッコむことを完全に放棄している。
(やめろ...やめてくれ....そんな目で見るな!!)
ロゼリアは、もう限界とばかりに、白目を剥いて気絶した。
俺は、そんな周囲の反応にも気づかないふりをし、意識を逸らすようにミアが担いだポチの背中に、よじ登ろうとしていた。ミアは面白そうにその様子をただ、楽しむばかりだ。
ギャグとして成立しないレベルの最悪の空気に、俺は静かに、そして、決定的に後悔した。




