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8対1

ミアの一撃が、森の静寂を粉々に砕いた。

大量の鳥が木から飛び出し、鳴き声を上げる。


エルフたちは、へし折れた大木と、その中心で無邪気に笑うミアを交互に見比べ、初めてその目に警戒の色を浮かべた。


だが、彼らはプロの暗殺者だった。一瞬の動揺の後、彼らは無言で散開し、完璧な包囲陣を形成する。


「死ねぇ!」

「我らに続け!」

「エルフなんぞ!」


後方で、クラウスや他の貴族たちが、ようやく立ち直って魔法の詠唱を開始した。


しかし、エルフたちはそれよりも遥かに速い。

彼らは鉄の杖から、次々と無詠唱の魔力弾を放ち、貴族たちの詠唱を的確に妨害していく。


シュグッッ!!


「うっ!!」

「ヒエッ...」

「詠唱の間に攻撃なんて...ずr」




その、一方的な蹂躙の中心へと、ミアが突っ込んだ。


「邪魔!!!!!!」


彼女の動きは、もはや人間のそれではない。


「エイッ!!!」


ドゴッッ!


エルフの一人をミアが叩きつけ、エルフの体が一瞬グニャリと曲がった気がする。

そのエルフはものすごい速度で地面に叩きつけられ、荒い煙がその姿を包む。


「ウッ....グァッ!」


「一匹目ッ!!」


ミアは誇らしそうにそう叫び、再びエルフたちの中へ突っ込んでいく。

地面を蹴るたびに大地がへこみ、棍棒を振るうたびに衝撃波が周囲の木々を薙ぎ倒す。


「はあッ!!!」


バキンッッ!


ミアがエルフの防護魔法ごと物理的に殴り込み、金属が弾けるような音が響く。


「う!...ガハッ...!」


「二人目ッ....!」


エルフたちの統率された動きも、ミアという天災の前では無力だった。一人、また一人と、エルフたちが紙切れのように吹き飛ばされていく。


まさに、無双。


ロゼリアは、そのあまりの光景に「……化け物...」と呟き、馬車の隅でただ呆然と立ち尽くしていた。


しかし、数分が経過した頃、俺は戦場の空気が、徐々に変わり始めていることに気づいた。

ミアが立ちはだかる最後のエルフの頭を両手で握りつぶした時だった。


「これで八n....!?……なんで!?倒したはずじゃ...?」


ミアが、苛立った声を上げる。


先ほど吹き飛ばしたはずのエルフが、まるで何事もなかったかのように、いつの間にか立ち上がり、再び陣形に加わっているのだ。


腹が潰れ、致命傷を与えたはずの者でさえ、仲間のエルフがその身体に緑色の光を宿した手をかざすと、傷がみるみるうちに塞がっていく。


「....ずるい...」


ミアの顔から遊びの色が完全に抜け、本当の焦りが顔に浮かぶ。


(再生魔法か…!それも、無詠唱で、即時発動だと!?クソッ!!!)


雲行きが怪しくなってきた。


エルフたちは、ミアと正面から殴り合うことをやめた。


彼らは、ミアの攻撃をあえて受け流し、致命傷を避けながら(ギリギリ死なないダメージを受けながら)、じりじりと、しかし確実に彼女の体力を削り始めたのだ。


「ちょっとー!!ウッ....ちょっと卑怯だよーーー!!」


シュパッ!(エルフの攻撃がミアの手を掠める)


「フンッ!!!」


ボキッ、ドゴォ!(ミアがエルフの右腕を粉砕し吹き飛ばす)」


シュグッ...!(エルフの攻撃がミアの肩に直撃する)


「...グッ....ちょ...エイッ!!!」


ドゴッ!!!グチャ...!!(エルフの腹をミアの拳が貫通)


シュパッッ!(エルフの攻撃がミアの後頭部に掠る。)


....ボキッ!!!(ミアがエルフの耳を掴み、折る)


「はあ...はあ...いつになったら倒れるのー!!!」


一人が囮となってミアの注意を引き、その隙に、別の数人が死角から彼女の身体に、浅いが無数の傷を刻みつけていく。


シュゴッ...!.....(ミアの右足にエルフの攻撃が貫通)


「ウッ!!」


ゴギッ!!!!(エルフの腕を握りつぶす。)


「負けらんないのーー!圭が見てるのに!!!」


ミアの肩に、腕に、足に、次々と小さな傷が増えていく。

彼女の呼吸が、少しずつ荒くなっていくのが分かった。

まずい、不味すぎる...いくらミアでも無限に回復する敵なんて....


「くそっ!援護するぞ!」


俺は、このままではミアがやられると判断し、懐から羊皮紙を取り出した。

俺が三日三晩かけて作り続けていた、俺だけの魔法体系。

まだ未完だか、ある程度は使えるはずだ!


「―――概念定義、開始!『定r.....


俺がそう叫び、防護の壁を発動させようとした、まさにその瞬間。


一体のエルフが、こちらを一瞥もせず、鉄の杖を俺に向けた。


杖の先端から、黒い靄のようなものが放たれる。




それは、俺が魔法を発動するよりも速く、俺の身体に到着していた。


「...え?」




シュパッーーーー





その瞬間、俺は数メートル吹き飛ばれ、構築されかけていた魔法の術式が、パッバリッ、と音を立てて霧散した。


「ウッ..グッ..痛い..目の前が暗い...」


(なっ……!?詠唱の隙どころか、発動する間もなく攻撃された……!どうりで貴族たちも攻撃ができないわけだ...!)


俺が、自らの無力さに絶望している間にも、戦況は悪化していく。


「圭!チャル!伏せろ!!!!」


リオの声が響く。


彼は、俺たちと、怪我や恐怖で怯えて動けない貴族たちの前に、次々と氷の盾や氷の壁を生成し、エルフたちの攻撃から必死に仲間を守っていた。

だが、それも時間稼ぎにしかならない。


やがて、エルフたちの放った無数の魔力の糸が、動きの鈍ったミアの身体を、蜘蛛の巣のように絡め取った。




「はあ...はあ.....う……にゃ…圭ー痛いーー!助k....て」




ミアは、地面に縫い付けられ、もはや抵抗する力も残っていないようだった。


エルフの部隊長らしき女が、ミアの前に静かに立つ。


その手には、月光を浴びて青白く輝く、針のような杖が握られていた。


終わった。


もう無理だ。

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