表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/82

本当の気狂い

天使の、あまりにも理不尽な提案が、静かな部屋に響き渡る。


俺は、一瞬、自分の耳を疑った。死んでくれ? まるで、明日の天気を尋ねるかのような、そのあまりにも軽い口調に、俺の思考は完全にフリーズしていた。


やがて、俺の口から、かろうじて絞り出された言葉は、一つだけだった。


「…普通に…イヤ」


その、あまりにも素っ気ない、早く寝るように母親に言われた子供のような拒絶の言葉。


それを聞いた天使——セイルの完璧な笑顔に、初めてピシリ、と亀裂が入った。


「……はぁ」


彼は、心底面倒くさそうに、深いため息をついた。


そして、何もない空間から、一枚の光り輝くA4用紙を取り出す。


「ったく、これだから転生素人は困るんだよな…。ヴァンも甘いんだから、こんな妥協案なんか用意して」


セイルはぶつぶつと文句を言いながら、A4用紙に書かれた文字を、まるで投げやりに読み上げた。


「いいかい? 君があまりにも世界の理を乱しすぎたから、本来なら即刻『魂の初期化(デリート)』処分だ。でも、温情措置として、特別に再転生のチャンスをあげよう。次の舞台は『魔法世界初級(魔法あり・バフ限界MAX)』。君の望む、平穏で、仲間や家族に囲まれた、チート級の能力を持った主人公としての人生だ。どうだい?悪い話じゃないだろ?」



その提案を聞いた瞬間、俺の心は、確かに揺れた。




チート能力。


平穏な人生。


仲間と家族。


それは、俺がこの世界に来る前に、心の底から望んでいたもの、そのものだった。


今のこの、犯罪と誤解と貧乏にまみれた、地獄のような毎日から解放される。


もう、学校を燃やすことも、犯罪を平気で犯すこともない。


俺は、思わず、背後を振り返った。


そこには、俺の「家族」たちが、静かな寝息を立てていた。




すぅ、すぅ、と。子供のように安らかな寝顔で眠る、ミア()


時折、唇が「おにく…」と動いている。


こいつがいるから、俺の人生は無茶苦茶だ。


だが、こいつがいなければ、俺はとっくに死んでいた。




奴隷だった頃の険しさが嘘のように、穏やかな表情で眠る、リオ。


俺が奴隷として買ってしまった、だけど、必死に解放した。


俺が、守らなければならない、弟のような存在。





そして、布団を蹴飛ばし、大の字になって、あまりにも悪い寝相で眠る、チャル。


間違えて誘拐してしまったが、それでも俺たちのそばにいてくれた。


彼女の無防備な姿は、俺たちを心から信頼してくれている証だった。




平穏?


仲間?


家族?



それは、今、目の前にあるじゃないか。


不格好で、いびつで、どうしようもなく手のかかる、俺の、かけがえのない日常。


俺は、決心したように、セイルに向き直った。



「……断る。この話は、なしだ」



俺は、はっきりと告げた。




「俺は、ここにいる」




その言葉を聞いた瞬間、セイルは、今まで見たこともないほど、驚いた顔で目を見開いた。


彼は、信じられないものを見る目で、俺と、俺の後ろで眠る三人を交互に見比べた。


やがて、その驚きは、こらえきれないといった様子の、楽しそうな笑いへと変わった。


「ははっ……!」


最初は小さな笑い声だった。だが、それはすぐに、腹を抱えて涙を流すほどの、大爆笑へと変わっていった。


「あはははははは!そうか、そうだよな!君はそういう奴だった!チート能力より、こっちの地獄を選ぶのか!最高だ!最高に、イカれてるよ!!!こんな転生者他に誰もいなかった!!!!」


セイルは、涙を拭いながら、心からの称賛と、そしてほんの少しの呆れを込めて、俺に言った。


「──本当に、『気狂い』なんだな、君は!!!!!」


その言葉を残し、彼の姿は光の粒子となって、静かに消えていった。


後に残されたのは、静寂と、俺の選択と、そして、何も知らずに眠り続ける、俺の愛すべき「気狂い」の家族たちだけだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!!


少しでも「面白い」「続きが見たい」「笑えた」


など思っていただけたなら、ぜひ☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけるとモチベーションになります!!


多分続きが出るのがめっちゃ早くなると思います!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ