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死刑宣告

俺は、自らがたどり着いた世界の真理に、戦慄と興奮を覚えていた。


この世界は、概念が物質を規定する。ならば、俺の持つ「地球の物理法則」という異質な概念は、この世界の理を書き換える、最強の矛にも盾にもなりうるのではないか…?


俺が、一人静かに思考の海に深く沈んでいった、まさにその時だった。



チカッ、と。



部屋の隅に置かれたランプの光が、不自然に瞬いた。


最初は気のせいかと思った。


だが、次第に部屋の影が、ありえない方向に伸び縮みし始める。


壁の染みが、まるで生き物のように蠢き、空間そのものが、水面のように揺らぎ始めた。


「……なんだ、これは…?」


俺は、目の前で起きている物理法則を無視した現象に、咄嗟に身構えた。


(まさか、俺が悟ったことで真の能力が覚醒!?!?)


穏やかだったミアたちの寝息が、なぜか遠くに聞こえる。


次の瞬間、部屋の隅の空間が、ぐにゃりと歪んだ。


そこから、まばゆいばかりの光が溢れ出し、俺は思わず腕で目を覆う。

光が収まった時、そこには、一人の青年が立っていた。


月の光を編み込んだような金髪に、天使ヴァンとよく似た、しかしどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた美貌。その背中には、幻のように揺らめく光の翼が見えた。


その青年は、俺がいることに今気づいたかのように、ぱちりと一度瞬きをすると、次の瞬間、満面の笑みを浮かべて、パチパチパチ、と盛大な拍手を始めた。


「いやはや、素晴らしい〜〜! 実に素晴らしい! ブラボー! 最高だよ、君!!」


青年は、まるで最高の芝居を観終えた観客のように、心からの喝采を俺に送っている。


「え……あ、あの……?」


俺が困惑していると、青年は楽しそうに言葉を続けた。


「まさか、転生してたった一ヶ月で、この世界の『基本文法』にたどり着くとはね! 想定外もいいところだ! 君は最高の『不穏分子』だよ、篠原圭! 君のおかげで、退屈だった物語は、僕の予想を遥かに超えて面白くなった!!!」


その言葉に、俺は全てを察した。

こいつ、ヴァンと同類だ。天界の、天使。

そして、俺の転生と、その後の人生を、ずっと「物語」として観測していた観客の一人。


青年は、満足げに一つ頷くと、ふっと、その顔から一切の笑みを消した。

先ほどまでの陽気な雰囲気は霧散し、代わりに、絶対零度の、感情の読めない瞳が、俺をまっすぐに見据える。


「君の功績は認めよう。心から感謝している。……だからこそ、だ」


天使は、静かに、そしてあまりにも事務的な口調で、こう続けた。


「物語が最高の盛り上がりを見せた、今、このタイミングで———」


彼は、にこりと、完璧な営業スマイルを浮かべた。


「悪いんだけど、死んでくれないか?」


それは、脅しでも、命令でもなかった。


まるで、「この書類にサインしてくれないか?」とでも頼むかのような、ごく自然で、あまりにも軽い、交渉の言葉だった。


俺は、そのあまりにも理不尽な提案に、声も出せずに立ち尽くす。

静かな部屋には、天使の言葉と、何も知らずに眠る家族たちの寝息だけが、虚しく響いていた。

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