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個性豊かな入学式

俺とミアが足を踏み入れたのは、巨大な講堂だった。


「うわぁ!綺麗!Σ('◉⌓◉’) 」


天井には、まるで天の川をそのまま切り取ってきたかのような光が瞬き、大理石の柱を照らしている。

あまりの大きさに、3階建てのビルがそのまま入ってしまいそうだ。少なくとも高さは数十メートル以上ある。その桁違いの規模感に、世界遺産を見たような、そんなとてつも無い感情が心に浮かんだ。


壁には髭面のお爺さんやとんがり帽子を被ったお婆さんが額縁に飾られていた。恐らくは歴代の偉大な魔術師たちの肖像画なんだろう。夢物語かもしれないが、俺もいつかあんなところに飾られてみたい。


すでに席のほとんどは埋まっており、明らかに上等な生地で作られた制服に身を包んだ少年少女たちが、背筋を伸ばして着席していた。だが、様子がおかしい。明らかにこちらに注意を向けている。視線が俺たちに向いているのだ。



「……圭、なんか、みんな見てる(T . T)」


「見るな。俺たちは置物だ。意思のない、ただの置物になれ...」



俺は小声でミアに囁く。


無理もない。



何処にでもいる平民の格好をしたミア。穏やかな顔に対して、その背中に鎮座する凶悪な棍棒。

その隣を歩く、場違いにもほどがあるフリルまみれの男(俺)。真っ先に思いつくのは、成金貴族のパーティ会場と入学式を間違えたことだ。


俺たちは明らかに場違いすぎる。


貴族の子弟たちの好奇と侮蔑が入り混じった視線が、針のように肌を刺す。




前世で経験したどの学会よりも、心臓が苦しい。いや、爆竹でロケットを飛ばせると発表した時の方が苦しかったかもしれない。まあ、どっちにしろ史上最高レベルの緊張だった。




恐る恐る指定された席に腰を下ろすと、周囲の緊張がさらに高まったのが分かった。


皆、固い表情で前を向き、指先一つ動かさない。


そんな中、ミアだけが全く空気を読まず、椅子に浅く腰掛けて足をぶらぶらと揺らしていた。

時折、小さくあくびまでしている。

彼女にとって、この荘厳な空間も、大衆食堂と大差ないらしい。


やがて、講堂の鐘が重々しく鳴り響き、時間になったことを告げる。

壇上に、先ほど門で会った初老の教授が立った。彼は咳払いを一つすると、威厳のある声で口を開いた。


「新入生の諸君、入学おめでとう。私は、本校で教頭を務めるアルバス・グレイである。歴史と栄誉あるこの王立魔術大学は、諸君を心から歓迎する———」


始まった。長くて、退屈で、中身のない挨拶だ。


要約すると「このめっちゃすごい学校にようこそ」という感じだ。


俺は前世の記憶と共に意識を飛ばしかけたが、なんとか耐える。


しかし、その退屈な時間は、長くは続かなかった。




「——では次に、諸君の指導にあたる、個性豊かな教授陣を紹介しよう!」




教頭のその言葉を皮切りに、壇上の袖から、四人の男女がゆっくりと姿を現した。


その瞬間、俺は自分の目を疑った。



(……なんだ、こいつら?)



彼らは、およそ教育者とは思えぬ、あまりにも異様な雰囲気を放っていた。


最初に一歩前に出たのは、情熱的な赤いローブを纏った、長髪の男だった。彼は天を仰ぎ、シェイクスピア俳優のように大げさな身振りで語り始めた。



「おお、若き魂たちよ!!! 我が名はクニ・ブンケ!!! 君たちの入学は、この世界に刻まれるべき、壮大なる叙事詩の序章に他ならない! !さあ、私と共に、魔法という名の『物語』を紡いでいこうではないか!!!」



(……ダメだ、話が通じないタイプだ)



次に進み出たのは、マス・ルートと名乗る、眼鏡をかけた氷のように冷たい表情の男だった。彼は無駄な動き一つなく、ただ淡々と告げた。


「歓迎する。諸君という新たな変数が、この学び舎の方程式にどのような解をもたらすか、期待している。非論理的な行動は評価しない。...以上だ」



(……こいつ、俺と少し似ているが、もっとヤバい奴だ)



三番目に現れたのは、サイエ・スティーと名乗る、白衣のようなローブを着た女性だった。彼女は、講堂にいる生徒全員を、まるで値踏みするかのようにゆっくりと見渡し、そして、薄い笑みを浮かべて言った。


「新入生の皆さん。……いいえ、『新しい実験素材』の皆さん。ようこそ。皆さんの成長……いえ、その『変化の過程』を観察できることを、心から楽しみにしています。......くれぐれも、私の研究の邪魔にならないように」


講堂の空気が、明らかに凍りついた。

数人の女生徒が小さく悲鳴を上げる。

俺の背筋にも、冷たい汗が流れた。



そして、最後に。

妖艶な笑みを浮かべた美女、ソーシャ・モンスーンが、扇子で口元を隠しながら、甘い声で囁いた。


「ごきげんよう、未来の宝石の原石の皆様。この学び舎は、皆様が互いに磨き合い、そして——蹴落とし合う、最高の舞台ですわ。存分に、足掻いてくださいませね?」


その言葉に、貴族の子弟たちの何人かが、好戦的な笑みを浮かべたのが見えた。



終わった。



俺は、静かに天を仰いだ。美しい天の川が目に入る。


この学校、まともな奴が、一人もいない。


俺が新たな絶望に打ちひしがれていると、隣で退屈そうにしていたミアが、初めて興味深そうな顔で壇上を見つめていた。



「圭、あの人たち、面白いね!( ͡° ͜ʖ ͡°)」



彼女の口元には、獰猛な笑みが浮かんでいる。


どうやら、ようやく掴んだ俺たちの波乱万丈の学園生活は、最高の(そして最悪の)幕開けを迎えたようだった。

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