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史上最高のトレード


——金が消え、涙が乾いた後。


部屋には、奇妙な、しかし決して不快ではない...いや、どこか心地よい静寂が訪れていた。


俺は、虚脱感に苛まれながらも、最後の責任を果たさねばと、チャルに向き直った。



「チャル、君はもう自由だ。…俺たちが、君を村まで送り届けることは、金銭的に...もうできない。だが、この街で新しい生活を始めるなら、この残った金で…」



俺がそう言いかけた時、チャルは、はっきりと首を横に振った。その瞳には、もう怯えの色はなく、まっすぐな、強い光が宿っていた。


彼女は、俺たちの前に、ちょこんと正座すると、深く、深く頭を下げた。



「いいえ。…行きません」



凛とした、声だった。



「あなた方は、私の命の恩人です。私という、何の価値もない奴隷のために、全てを投げ打って、自由をくださいました。このご恩は、一生かかっても返しきれません...!」


彼女は顔を上げ、俺の目をじっと見つめた。


「私には、もう帰る場所も、行く当てもありません。ですから、どうか…!どうか、このまま、あなた方のおそばに置いてください!掃除でも、洗濯でも、何でもします!この命、あなた方のために使わせてください!」


それは、奴隷の懇願ではなかった。

自らの意志で、恩人に忠誠を誓う、一人の人間としての、覚悟の言葉だった。


俺は、言葉を失った。



(はぁ!? なんで!? 全財産はたいて自由にしたんだぞ!? なんで自ら戻ってこようとするんだ!? これは、あれか!? 恩義という名の新たな呪縛か!?)



俺が、このあまりに予想外な展開に頭を抱えていると、隣でミアが「やったー!」と歓声を上げた。



「チャルも一緒だ! これでずっと四人だね!( ^∀^)」



彼女は、チャルに思いっきり抱きつき、二人できゃっきゃと笑い始めた。


その光景を、リオが、静かに見ていた。俺は、助けを求めるように、彼に視線を送った。



「リオ…お前からも、何か言ってやってくれ。この子は、自由になるべきなんだ」



すると、リオは、ふっと、本当に微かだが、笑ったように見えた。


彼は、俺の顔をまっすぐに見つめ、そして、初めて、はっきりとした声で言った。


「……圭」


「俺は、お前たちのことを『気狂い』だと思っていた。今も、そう思う....けど」


彼は一度言葉を切ると、楽しそうにじゃれ合うミアとチャルに視線を移した。

その目元は、驚くほど、穏やかだった。


「だが、あんたの言う、あの『旅する気狂い一座』とやらが、こういうものなら…」


リオは、再び俺に向き直った。


「俺も、その一員だ。…あんたたちが、俺の…『家族』だ」





——家族。


その言葉が、俺の心の、一番柔らかい場所に、すとんと落ちた。




俺は、呆然と、リオの顔を見た。


彼は、少しだけ照れくさそうに、しかし、決して目を逸らさなかった。


失ったものは、莫大な金と、成金になるという下らない夢。






手に入れたものは、有り余るほどの厄介事と、貧乏暮らしと、そして———。






俺は、生まれて初めて「家族」だと呼んでくれた少年と、新しい「友達」ができて無邪気に喜ぶ少女たちを見つめた。


(……史上最悪の、トレードだったな)


そう思ったのに、なぜか、口元が、少しだけ緩んでいることに、俺は気づかないふりをした。




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