市場最悪の犯罪者
リオの魂の抜けたような呟きが、熱風に混じって俺の耳に届く。
そうだ、俺たちが逃げるはずだった路地裏は、今や灼熱の溶岩地帯と化している。
完全に、塞がれた。
「くそっ……!」
一瞬、思考が停止する。
だが、背後から迫る熱波と、住民たちの悲鳴、遠くから聞こえ始めた警鐘の音が、俺の理性を無理やり引き戻した。
「こっちだ!大通りに抜けるぞ!」
俺は、まだ「おおー!」と感動しているミアの手を掴んだ。
「圭?」
「いいから走れ!リオ、お前もだ!」
呆然と立ち尽くすリオの腕も掴み、俺は燃え盛る地獄を背に、唯一火の手が回っていない大通りへと向かって駆け出した。
路地を抜けた瞬間、視界が開ける。
そこは、悪夢のような光景だった。
俺たちが作り出した業火が夜空を焦がし、巨大な火柱となって天に昇っている。
建物が崩れ落ちる轟音と、人々の悲鳴が混じり合い、まるで世界の終わりのような協奏曲を奏でていた。
そして、その地獄を背に、俺たち三人は走った。
まるで、大ヒット映画のクライマックスシーンのように。
炎に照らされた俺たちの影が、パニックに陥った人々でごった返す石畳の上に、長く、歪んで伸びていく。
「火事だーっ!」
「たすけ...t」
「ギルドの倉庫が……!」
「誰か、水を!」
「熱い...誰か...!」
幸いなことに、周囲の市民はあまりの惨状に混乱し、俺たち三人に構っている暇などなかった。
誰もが天を衝く炎を見上げ、あるいは逃げ惑い、あるいはバケツを持って火の方へと走っていく。
その混乱が、皮肉にも俺たちの完璧な隠れ蓑となった。
俺たちは、人々の波をかき分け、悲鳴の渦をすり抜け、ひたすらに、ただひたすらに走り続けた。
どれくらい走っただろうか。
やがて、炎の熱も、人々の喧騒も遠くなった頃、俺たちは人気のない裏路地へと転がり込んだ。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
壁に手をつき、肺が張り裂けそうなほどの息を切らす。
空気を目一杯吸い込み、吐き出す。心臓の鼓動がバクバクと聞こえる。
ミアもリオも、荒い呼吸を繰り返していた。
しばらくの間、三人の間に言葉はなかった。
ただ、遠くで鳴り響く警鐘の音だけが、俺たちが犯した罪の大きさを物語っている。
やがて、落ち着きを取り戻した俺は、汗を拭い、静かに告げた。
「……ふぅ。これで、チューリップの供給量は激減したはずだ。希少価値は、上がる」
「...ふふ……やったね!圭!!( ͡° ͜ʖ ͡°)」
ミアは嬉しそうに飛び跳ねる。
「……」
リオは、何も答えなかった。
ただ、怪物でも見るかのような目で、俺とミアのことを見つめているだけだった。
こうして、俺たちは王都を揺るがす市場最悪の大犯罪者として、その夜を生き延びた。




