賭けのチャンス
あの屈辱の夜から三日がすぎた。
あの絶望的な空気は徐々に無くなり、俺たちは各々暇を潰していた。
ミアとリオは二人でババ抜きをしている。これで48回戦目だ。
「キャハハ!リオ!ジョーカー4枚目〜〜( ͡° ͜ʖ ͡°)」
ミアがニヤニヤしながら勝利を確信する。
「...なんで4枚も....ジョーカー..が..ある?」
リオはミアに常識が通用しないことに困惑しつつ、カードをめくる。
一方、俺は一人、しばらく会うことのできないだろうベッドと家具達に別れを告げていた。
「このベッド、机、棚とも今日でお別れ、か...」
ゴブリンからもらった金貨は今日で尽きる。
学園の入学式まで後2週間もある。さて、一体どうしたものか。
俺は自分の荷物(と、言っても杖や本、空っぽの財布だけだが)をまとめ始めた。
数分後、宿主が機嫌が悪そうに、ドアを蹴飛ばして入ってくる。
どうやら昨日ミアと一緒に一階のエントランスで魔法の練習をしたのが不味かったらしい。
リオは失望と落胆の目でミアと俺を見つめる。
あっという間に宿から叩き出され、また一段と俺たちの社会的立場は低下した。
広場にでも行こうと、ミアの手を掴む。
ミアはびっくりしたように顔を赤らめる。
普段の俺なら、常に荷物持ちで、ミアと並列して歩くことはないが、その荷物が一つ残らず宿主に没収されたのだ。
ミアは照れるように手を握り返す。
「..圭....いいの?..え..へへ...(≧∀≦)」
後ろを歩くリオはようやく俺の人間らしい姿を観測し、安堵の声を漏らす。
「こいつらにも人間の心があったのか...」
俺たちは照れるミアの歩幅に合わせてテクテクと王都の路地裏を歩き進めていく。空はまだ暗く、人通りは少ない。
その時だった。
「おい!...アンタら、ただもんじゃないな?」
奇妙な格好をした、ピエロのような、人形のような、男が目の前に立っていた。
鼻は赤く、目の周りには星のマークが書かれている。
手にはなぜかチューリップを持ち、奇妙な顔でこちらを見つめる。
ミアは手を握るのに集中しすぎて彼の存在に気づいていない。
リオは警戒し、構える。
「なん...ですか?」
俺はまともな一般人を装い、その場を凌ごうとする。
「わ、私...たちはただの平民で!!!ただここを歩いていただけで...なんでもないで、す!!」
しかし、男は若干引いたような顔をしながら、何かに勘づいた。
「あー...おいおい、はぐらかすのか?...その少女の魔力、ただもんじゃない、どっかの貴族なんだろ?それに...ここをこんな朝早く通るってことは...そうゆうことだよな?」
ミアは自分の名前を呼ばれ、ようやく男に気づく、意味のわからない格好に困惑の顔をする。
「...おじさん....誰?( ・∇・)」
「俺は「ピシャード」ここ路地裏の商売人さ...俺が売るのは、ほら(チューリップを掲げる)、これだ、オウコクチューリップ。この希少種を売り捌いて、その利益で稼ぐのさ...!」
どうやら金儲けをするらしい。
この世界ではチューリップは高価なのか?
俺が内心で首を傾げていると、ピシャードは芝居がかった口調で続けた。
「まあ、ただの花だと思うだろ?だが違うのさ!今、この王都の貴族たちの間で、このオウコクチューリップの球根を売買するのが、狂ったみたいに流行ってんだ!」
「...狂ったみたいに...?」
「そうよ!昨日まで金貨一枚だった球根が、今日は金貨二枚!明日は五枚になるかもしれねぇ!これを『投機』って言うんだが、まあ「平民さん」には難しい話か。とにかく、こいつは今、金より価値のある『夢』なのさ!」
男は恍惚とした表情でチューリップを掲げる。
「……馬鹿げてる。それはただの花だ。そんなものに価値があるなんて、どうかしてる」
隣でリオが冷ややかに吐き捨てた。
元奴隷の彼にとって、貴族の金銭遊戯など唾棄すべきものなのだろう。
「分かってねえな、坊や!だからお前はガキなのさ!価値ってのはな、みんなが『ある』と信じれば生まれるもんなんだよ!」
ピシャードはリオを鼻で笑うと、今度はミアに向かって甘い声色を使った。
「なあ、お嬢ちゃん。この花がもし金貨100枚になったらどうする?肉も、綺麗な服も、でっかい家だって買えるんだぜ?」
「ひゃ、100枚!?お肉が……いっぱい……みんなで....お家で暮らせる...( ^ω^ )」
ミアの目が、分かりやすく欲望の色に染まった。現金なやつめ。
(投機……チューリップ……まさか、この世界でも起こっているのか?17世紀オランダの地球で起きた、歴史上最初の経済バブル、『チューリップ狂騒』と酷似している。だとすれば、この価格変動には一定の法則と、いずれ訪れる暴落という結末があるはずだ。面白い……非常に興味深いサンプルだ……!)
俺が一人、脳内で経済学の講義を始めていると、ピシャードがニヤリと俺を見た。
「そこの旦那は、どうやらこのゲームの『本当の面白さ』が分かり始めてる顔だな。だがまあ、アンタらには、このゲームに参加するための元手すらないんだろうがな!」
ぐっ……!
痛いところを突かれた。
俺たちの財布は空っぽだ。
どんなに面白いゲームだろうと、参加権すらない。
ミアもリオも悔しそうに俯く。
その絶望的な沈黙を見計らって、ピシャードは勝ち誇ったように言った。
「だが、俺は優しい。夢見る若者が大好きでね。そんなアンタたちのために、元手ゼロでこのビッグウェーブに乗れる、とっておきのゲームを用意してやったのさ」
男はピエロのようにくるりと一回転すると、俺たちに指を突きつけた。
「アンタたちに、ビッグチャンスをやろう!!」




