宇宙人行動
衛兵長は、俺の魂の叫びを完全に無視し、「この者たちは衰弱している。宿坊まで案内してやれ」とだけ部下に命じると、さっさと持ち場へと戻っていった。
こうして、俺たちは再び、王都の宿の一室にいた。
もちろん、以前泊まったような豪華な特別室ではない。
ゴブリンにもらった金貨一枚で、なんとか三泊できる程度の、質素で清潔な安宿だ。
それでも、あの泥と血の匂いが染み付いた塹壕に比べれば、天国のように感じられた。
俺は、部屋に入るなり、ベッドに倒れ込み、この数日間で経験した、あまりにも濃すぎる出来事を反芻していた。
大量虐殺、奴隷との出会い、大規模な戦闘、勇者パーティ、そして敵からの施し…。
「……もう、何も考えたくない……」
俺が、心身の疲労のあまり、意識を手放しかけた、その時だった。
ガチャン、と扉の鍵が閉まる音がした。
ハッと顔を上げると、そこには、部屋の出口を塞ぐように仁王立ちするミアと、ベッドの反対側から、じっと俺を見つめるリオの姿があった。
その目は、二人とも、尋常ではないほど真剣だった。
「圭!」
先に口火を切ったのは、ミアだった。
彼女は、ベッドの上にずかずかと上がってくると、俺の目の前に顔をぐいと近づけた。
「昨日、ドラゴンのカゴの中で、何をしてたの!?」
「は? 何って……空を見てただけだが…?」
「嘘つかないで!(T ^ T)」
ミアは、ぷんすかと頬を膨らませる。
続いて、リオが、静かに、しかし有無を言わせぬ圧力で口を開いた。
「空を見て、一人でぶつぶつと呟いていた。…『シュエイセイ』がどうとか、『チヂクの傾き』がどうとか。あれは、一体何だ、」
「そうだよ!」とミアが続く。
「初夏であるカクリツはなんとか%以上!!!!とか、わけのわからないことも言ってた! まるで、宇宙人と交信してるみたいだったよ! 圭、もしかして、宇宙人なの!?!?Σ੧(❛□❛✿)」
二人の、あまりにも真剣な、そしてあまりにも馬鹿げた質問に、俺は一瞬、言葉を失った。
そうだ、辛すぎて忘れていた。
あの時、俺は孤独と屈辱から逃れるため、この惑星の天文学的考察に没頭していたのだ。
彼らにとって、それは、ただの「宇宙人行動」にしか見えていなかった。
まずい。どう説明する?
「あまりのストレスに、現実逃避で科学的思考に没頭していました」などと、正直に言えるわけがない。
俺は、額から冷や汗を流しながら、苦し紛れの言い訳を口にした。
「ち、違う! あれは、その……故郷に伝わる、旅の安全を祈るための、一種の『お祈り』だ!」
「お祈り?...本当?( ; ; )」
「そうだ! 星々の配置と、その運行を正確に読み解くことで、未来の安全を確保する、高度な祈祷術だ!(大嘘)」
我ながら、百点満点の出鱈目だった。
俺の、必死の説明を聞いて、ミアは「へぇー、圭の故郷って、変わったお祈りするんだねー( ͡° ͜ʖ ͡°)(棒)」と、あっさり納得したようだった。(いや、納得してくれたのかもしれない)
しかし、リオは違う。
彼は、何も言わなかった。
ただ、じっと俺の顔を見つめ、そして、これまでで一番深い、心底呆れ返ったようなため息をつくと、静かにベッドから降りていった。
その目は、雄弁に、こう語っていた。
(こいつは、狂っているだけでなく、嘘までつくのか…)と。
俺は、ベッドの上で、ただ気まずい空気に耐えることしかできなかった。
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