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奇襲

その後、何度か魔物の竜騎士団による奇襲に遭いながらも、俺たちの乗った馬車は二日かけて、目的地である「西の第三前線基地」へと到着した。


(ようやくドラゴンの奇襲が無くなる...!!これでひとまず落ち着け...るのか?)


そこは、もはや「基地」というより、巨大な野戦病院と要塞が一体化した、泥と血の匂いが染み付いた場所だった。壁は土で汚れ、ところどころ壁が何かの衝撃でひび割れている。至る所に土嚢が積み上げられているので、まるで古墳にようにも見える。


絶えず負傷兵を乗せた担架が運び込まれ、隅の方では、虚空を見つめてぶつぶつと何かを呟き続ける、明らかに精神に変調をきたした兵士たちの姿も見える。


(え?...ガチやん....)


しかし、俺たちの護衛についていた兵士たちは、そんな光景に目をくれるでもなく、慣れた様子で杖を手に取ると、基地の前方に幾重にも掘られた溝、つまり「塹壕」の中へと入っていく。


彼らにとって、ここは日常の職場なのだ。


その時、馬車で同乗してきた女性たちの一人が、ミアの腕を優しく取った。


「さあ、私たちも行きましょうか。お仕事の時間よ」


「お仕事?( ・∇・)」


「ええ、あそこの『病室』で、負傷した兵隊さんたちを癒してあげるの。それが、私たちの『救護任務』だから...」


女性はそう言うと、基地の中でも一際大きな、窓のない頑丈そうな建物――「救護病室」と書かれた看板が掲げられた場所を指差した。その扉は今にも倒れてきそうだが、木片で乱暴に押さえつけてある。


他の女性たちも、先ほどまでの化粧をさらに濃くし、どこか諦めたような、それでいて覚悟を決めたような顔で、ミアをその建物へと連れて行こうとする。


(なるほど…「救護」とは、そういう…......)


俺は、この任務の本当の意味を察し、胸糞の悪さを感じていた。


だが、ミアが数歩、歩いたところで、彼女はぴたりと足を止めた。


「……いや(T ^ T)」


ミアは、まるで何かを警戒する獣のように、低く唸った。


彼女の視線は、目の前の女性たちではなく、その先にある「救護病室」の壊れかけた扉に、じっと注がれている。


その瞳には、今まで見たことのない、本能的な恐怖と嫌悪の色が浮かんでいた。


彼女は、あの建物から放たれる、何か「謎の気配」を感じ取っているのだ。



「どうしたの? 早く行くわよ」



女性が、ミアの腕を強く引いた。



その瞬間、ミアは振り向きざま、その女性の腕に、ガブリと力一杯噛みついた。


「いッッたぁ! な、何すんのよ、このガキ!私は客じゃないって!!」


女性が悲鳴を上げて手を離した隙に、ミアは素早く後方へ飛びのき、俺とリオの前に立つと、牙を剥き出しにして「病室」の方向を威嚇した。


「.....(╹◡╹)」


その姿は、得体の知れない邪悪な捕食者を前にした、野生の獣そのものだった。


俺は、ミアの本能が、この「救護任務」の裏に隠された、単なる夜の奉仕よりも、さらに深く、おぞましい別の何かを感知していることを確信した。





まさにその次の瞬間だった。


空気を切り裂く、無数の甲高い飛翔音。俺が空を見上げると、そこには絶望的な光景が広がっていた。


基地のはるか上空から、数百、いや数千もの魔法の弾幕が、雨のように降り注いでくるところだったのだ。


そのほとんどが、灼熱の炎をまとった火球――炎魔法だ。


だが、それに混じって、どう見ても糞尿としか思えない汚物の塊や、紫や緑の、明らかに危険そうな色の液体が満たされたガラス瓶までが、無差別に降り注いでくる。


(なんだ、この無茶苦茶な攻撃は!? 心理的・生物化学的攻撃まで混ぜてやがる!)


「伏せろーっ!!!!!」


どこからか兵士の怒号が聞こえる。


俺は、ミアの本能が警告していた「気配」の正体を悟った。


あれは、建物の中から放たれる敵意ではなかった。あの「救護病室」そのものが、敵の総攻撃の目標地点だったのだ!!!!


俺はミアの野生の勘に感謝する間もなく、まだ「救護病室」を睨みつけているミアを、力任せに抱え上げた。


「うにゃ!? ( ; ; )なにするの、圭!いいとこだったのn」


「黙ってろ! 死ぬぞ!!!」


俺はミアを小脇に抱えたまま、すぐ近くにあった塹壕へと、頭から滑り込むようにして飛び込んだ。


泥と、血と、汗の匂いが混じった生温かい土の中に、勢いよく身体を叩きつける。


息を切らしながら顔を上げると、そこにはすでに、頭を抱えて身を隠しているリオの姿があった。


その判断の速さは、さすが奴隷として修羅場をくぐり抜けてきただけのことはある。





ドゴォォン! ギャアァァッ!




俺たちが塹壕に飛び込んだ直後、周囲で凄まじい爆発音と断末魔の悲鳴がいくつも上がった。


炎が塹壕の縁を舐め、熱風と、耐え難い悪臭が吹き込んでくる。


数分間続いたか、あるいは数時間にも感じられた魔法の弾幕が、不意に止んだ。


焼け付くような匂いと、負傷者のうめき声だけが、静かになった戦場に響いている。


俺は、泥まみれの塹壕の中で、これが嵐の前の静けさであることを、本能的に嫌というほど理解していた。


そして、その静寂は、地鳴りのような雄叫びによって破られた。




「「「ウオオオオオオオオオオッッ!!!」」」




塹壕の向から、数千、いや数万の喉から絞り出されたかのような、凄まじい雄叫び。


それは、大地そのものを震わせ、俺の鼓膜を激しく揺さぶった。


俺は、恐る恐る塹壕の縁から顔を出し、向こう側―――西の地平線を見た。


そして、心の底から後悔した。


地平線が、動いていた。


緑色の肌をしたゴブリン、豚のような顔のオーク、巨大な体躯のオーガ、四つ足で地を駆ける獣人。

多種多様な魔物の群れが、黒い津波のように、地平線を埋め尽くしながらこちらへと突撃してくるところだった。


「…………ぁ……」



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