01S.北方魔人の民
☆「ファミル(眷属)」とは、配下の者達の「最上位呼称」で有る。
「惑星アデル」の自転軸の北と南は、何処かの星と同じように、寒冷地と成りました。やや北方依りの地は「ノルディア」と、呼ばれました。そこは、海流の影響等が有りそれ程、寒い土地では、有りませんでした。またそこは高緯度の為、日差しが弱くて、そこに住む人達は、比較的体色が薄い者が、多く住みました。
また「惑星アデル」には、太陽も月も星も有りました。そして何処かの星と同じように、太陽は東から昇り、西に沈みました。
その土地に住む人達を、その地名から「ノルダー(北方魔人)」と、呼ばれました。この民は「惑星アデル」の中では「マゴン族」の本流で有る「エバン族」と共に、この「新サキュレス物語」の世界では、とても重要な部族の1つと、成りました。
「ノルダーの文明度」は、低いのですが、それでもこの星の中では、高い方の部類に、入りました。そしてそこには、奴隷制度が有りました。この部族では、奴隷のことを「スレイパー」と、呼びました。また女奴隷は、性奴隷も兼ねたものと成り、それも同じ名称で、呼ばれました。
また、この部族の特徴としては、女奴隷は初潮を迎えると、両胸に薬物の入った注射を打たれ、強制的に胸の膨らみを、大きくさせられました。その薬物の効果は絶大で有り、一度打たれると胸の膨らみが、萎むことが有りませんでした。しかし打たれた当初は、激痛を感じるらしく、暫くは痛みに苦しむことに、成りました。そして苦痛が収まると、踵の高い、ハイヒールのようなものを、履かせました。それは、逃亡をし辛くさせる為の靴でした。
ノルダーの世界では、巨乳とハイヒールは「性奴隷の象徴」でした。また、この世界のスレイパー達は男女共、肉体労働の義務が多かったので、それをするときだけ女奴隷は、作業のし易い靴に、履き替えました。ノルダーの支配者階級は、富が多い者程、スレイパーを、たくさん所有しました。
ノルダーの別名を「奴隷魔人」と、言いました。彼らは元々、有能な支配者に従うことで、本来の力を発揮する魔人類でした。その為「無能な支配者」に従っても、ただの奴隷のままでした。今のノルダーの支配者階級達は、殆どが無能な者ばかりでした。
ノルダー達は、自分等のことを「淫魔」の末裔で有ると、信じて居ました。彼等の間でも淫魔は、とても重要な地位を、占めました。そして、正規の主君の元で、戦うときは「戦闘系サキュレス」と、呼ばれるものに覚醒して、主君と共に戦うことを、誇りとしました。
それは、自分等の姿が、それに似て居たので、彼等の俗称として、そう呼びました。しかし本来は「ノルディス」と、呼ばれる存在でした。それは別名を「ノルダーの魔女」と、言いました。どちらかと言えば「ダルタニア」の森に住んで居る「バフォメトンの魔女」に、近い存在でした。
「ノルディス」は、高い攻撃魔法を、駆使することが出来る「戦闘系魔人」でした。また彼等は、音楽好きで、民族楽器のような「小型の横笛」を、絶えず所持しました。そして辛い労働が、終わると、皆で横笛を吹いて、楽しみました。彼等には、古来より横笛用の「複雑な音階」が、伝わって居ました。それをマスター出来るように、日々練習に励んで居るのが「ノルダーの日常」でした。しかし彼等は、その「音階の真意」を、知りませんでした。
また、もう1つ彼等に、伝わって居る、重要なものとして「主従契約の儀」と、言うものが有りました。それはお互いのことを「主人と従者で有る」と言う、誓いをする儀式のことを、言いました。それは、本来の主君との「主従契約」を、結ぶ為の「封印の解除」を、意味しました。それをすることにより、ノルダー本来の姿で有る「ノルディス」と成り、高い攻撃魔法を駆使して、横笛本来の強力な「攻撃音階」も、行使することが、出来るように成りました。
しかし今では、誤った観念の元での「言い伝え」が、広がってしまい本来の機能を、失いました。その主従関係は、同じノルダー同士の関係では、効果が無く、彼等の奴隷制度では「本懐の意味」を、持ちませんでした。
彼等の歴史上では、長い間「ノルディス」の出現が、無くなってしまいました。しかし彼等は、奴隷の身分の者達までも、誰もが「自分達は〝サキュレス(淫魔)″で有る」と言う、強い自尊心を持ち、生きました。今は、その出現が有りませんが、これより後の時代に成ると、ノルダーの「スレイパー階級」の娘の中から1人だけ、奴隷制度から逃亡する者が、現れました。
彼女は逃走後に、暮らして居た住居の近くで、稀な肉食獣に襲われてしまい、瀕死の重症を、負いました。そこを「低い前傾姿勢から、カマキリのような太刀筋で、相手を瞬殺する」者に、助けられました。そして彼女は死ぬ間際となり、生き残る為の最後の手段として、彼との「主従契約の儀」を、結ぶことを選びました。
そして彼女は、彼との主従契約を結びました。すると、何と言うことでしょうか。その出現が長い間、無かったと言う、戦闘系サキュレスこと「ノルディス」に、彼女は変わることが出来たのです。しかしその物語は、後のお話しとします。
或るノルダーの「支配者階級の男」が、居ました。彼の母親は、高齢者でした。彼に取っては、とても厳しくて怖い母親でした。しかし彼は、その母親から愛情を、たくさん貰って、育てられました。最近痴呆が進んだ、彼の母親が口癖のように、彼に言った言葉が、有りました。この母親は昔、高名な巫女でした。
それは「もうじき我々は、神様に連れられて、違う世界に、住むことに成るだろう。」と、言いました。また、この老婆は「神様が、皆に伝えなさいと、言って居る。」とも、言いました。その内容とは「良いか皆の者、心して聞け。我々ノルダーの民は、もうじき神の近くの場所に、住まわせられることに、成るだろう。それが如何様な意味を、持つのか、私には分からないが、このノルディアの土地ごと〝神の積木″の中に、向かい入れると、仰った。皆、心して聞くのじゃ。もうじき民族の大移動が、始まるのじゃ。」
しかし支配者階級の息子は「自分の母親が言って居る意味」を、理解出来ませんでした。彼は、それは「母親の妄言で有る」と、思いました。しかしその母親が亡くなり、暫くすると、それが現実のものと、成りました。
彼等の周囲が、物凄い地震に襲われました。すると崩壊した建造物の下敷きと成り、たくさんの人達が、亡くなりました。それから周囲が、白く発光する現象が、起きました。すると全てが、吸い込まれるような、感覚に陥りました。そして全ての生物が気を失うと、目覚めるとその地に、居ました。
その地には、太陽も月も星も無い世界でした。太陽が無かったので、陽は昇りませんでした。しかし不思議なことに、昼と夜が有りました。そして変動後のノルディアの地は、残されました。気候も変わりませんでした。しかしここは、生まれ育った星では、有りませんでした。支配者階級の男は、初めて自分の母親が言った、言葉の意味を、理解しました。
そして支配者階級の男は、知りました。「自分達は、神の近くに、住まわせられたのだ」と、言うことを。