画面越しの片割れ
第1話 ツインレイの兆し
「ねえ、ツインレイって、聞いたことある?」
午後の光がカーテン越しに射し込む中、大学の友人・美月がぽつりとそう呟いた。
アロマの香りがほのかに漂う部屋。机の上には、繊細な模様のタロットカードと透明なクリスタル。彼女は“占い配信者”として活動していて、顔は出さず、手元だけを映して語るスタイルだという。
「凛って、あんまりこういうの信じないタイプでしょ?」
彼女はカードをシャッフルしながら、くすっと笑った。
「うーん……占いって、正直よくわかんない。でも、美月がやってるなら、ちょっと興味あるかも」
「ふふ、やっぱり。じゃあ、一回だけね。軽い感じで」
美月は手際よくカードを切り、さらりと数枚を並べた。その中の一枚に視線を落とすと、ふっと表情が静まる。
彼女はそのカードに指をそっと添えながら、独り言のように呟いた。
「……出たんだ。久しぶりに」
「え?」
「ツインレイ。……魂の片割れって言われてる存在。強く惹かれ合うけど、出会った後は、簡単じゃない」
「簡単じゃないって?」
「鏡みたいな存在だから。自分でも気づいてなかった弱さとか、見たくない部分を見せられる。でも、それを乗り越えられたとき、魂が本当に成長する」
柔らかな声だったけど、どこか言葉に重みがあった。
私は笑って聞き流したつもりだった。けれどその言葉は、心の奥で、ひっそりと何かを揺らしていた。
――そんな人、本当にいるんだろうか。
「顔立ちが整ってるね」
そう言われることが多かった。
少し背が高くて、メイク映えする顔。中学では目立つ存在で、男子にも女子にも注目された。けれど――それが、すべての始まりだった。
中学一年のある日。クラスの男の子と付き合い始めた。それだけのことで、周囲の空気は変わった。
からかいはすぐ陰口に変わり、気づけば、仲の良かった子たちまでもが私を避けるようになった。そして――彼までも。
「どうして?」
何度問いかけても、答えは返ってこなかった。
その出来事は、深く、静かに、私の中に刺さった。
あの日から、私は“恋をすること”に期待しなくなった。
高校は進学校で、しかも女子校。恋愛から遠ざかった環境は、私にとってむしろ心地よかった。
父は弁護士。私も自然とその道を意識するようになった。「夢」というより、「安心できる未来」だったのかもしれない。
でも、心の奥では、ずっと問い続けていた。
――私は、本当に誰かに、愛される価値があるんだろうか?
大学に入って、少しずつ友達もできた。
サークルの仲間と、短い恋をしたこともある。
けれどいつも、自分の心に少し距離を置いていた。
傷つかないように。期待しないように。
「これくらいの距離感なら、大丈夫」
そうやって、自分を守りながら生きてきた。
だからこそ、美月の言葉には、戸惑いを覚えた。
魂の片割れ。
運命。
そんな、現実味のない言葉たち。
でも――
どこかで願ってしまう自分もいた。
もし、本当にそんな存在がいるのなら。
もし、私にも「特別な誰か」がいるのなら。
その人の前では、取り繕わなくていいんだろうか。
弱さも、過去の傷も、全部さらけ出して
それでも「あなたでいい」と言ってもらえるんだろうか。
もし、そんな奇跡がこの世界にあるのなら――
信じてみたいと思った。