プロローグ -藍色の空で-
これはとある国の上、はるか上空で一人の男と女が巡り合ったお話だ。
だが………
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燃え崩れていく建物の中、ひんやりとした鉄の感触は失われ、世界はただ爛れていった。
そんな中、ある一人の女は裸足のおぼつかない足でどこかに向かっていた。
よく見ると元はきれいな白い服だったであろうものは血や煤で汚れ、
煤を被り、桜鼠色になった長い髪に炎を灯していた。
そして目的の――体は2つに分かれ、その上半身からは赤き血が流れ出し、燃える下半身が塵芥の煤になるのを見ることしかできず。守りたかったものすら守れず、すでにその目は光を失い、蒼を見上げることもできなかった男のもとに立ち止まった。そして自らの膝の上にのせ、彼女は語りかける。
「………ずっと、ずっーと待ってたの、痛いことも苦しいことも……全部、
全部耐えてきたの…いつかすべて終わるんじゃないかって。でもそのたびにあなたは傷ついて、ぼろぼろになって…………もう、私、だめみたい、耐えられないの。私じゃどうにもできないない!あなたがあんなに期待してくれてたのに、応援してくれてたのに。私は………、私は!………。」
小さな声、けれど思いが込められたその声は祈りの箱の中でよく響いた。
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—―それは定められた運命などではなくむしろ世界の流れに背くようなものであり、
滅びし一族の末裔である異端なる創造の瞳を除き、世界はそれを許さないだろう。
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―――運命とは残酷だ。
たとえ何をしたって人の身では作られた未来を変える事は出来ない。
どれだけの力を持ったとしてもほぼすべての生物には限界がある。
かくいう彼女も所詮はただの人間だ。
火に焼かれれば灰となり、地に叩きつけられれば血肉となり、いとも簡単に人は、生物は死んでしまう。
だだ、何事にも例外はいる、
マクヌアラキ山の火眼百足は常に火をまとい、マグマの熱にも耐えるといい、
シドレーヌ湿地のラジンコは空から落ちても何事もなかったかのように無傷だったという。
またカトレーヌという村には人から寿命を奪うことで不老不死となった悪魔の末裔が、
龍皇国リュナキアの北の氷山には眠ることで生きながらえ、人を貪ったという鬼が、
亜国タルテナの森には森を、大地を枯らした、永遠の眠りにつきし黒き羊が、
騎士大国ガナルバンクには己の◆以外の他すべてを捨てた、影に嫌われた■が、
この世界には存在するという。
ただ一つほかの生物と違う人間が持つ特異性を挙げるのならば、
人はいとも簡単に変わって……………………
……………いや、堕ちてしまうことだろう。
人間が持つほか生物にはない思考や感受性はときに牙をむく、
そしていかに並外れた精神を持っていたとしても、人間である以上限界はあるということだ。
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——それは決して一人の勇気ある男ががお姫様を助け出して結ばれる。
そんな感動的な物語ではなく、
1人の男が使命さえ果たせず死に、姫もろとも死んでしまう
そんな夢と希望の果てに埋もれたありふれた悲劇の物語だ。
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■■■■■はどんどん冷たくなっていく彼に泣きながら、自らではなしえなかったことを炎でかき消されてしまうような声で謝り続けた。
それから少し経ち、炎がすべてを包むとき、■■■■■は語りかけた。
「……いつだってあなたは駆けつけてくれた。私が泣きそうになったとき、もう諦めようかと思ったとき。」
「…………………」
「ねぇ…どうしてあなたは私を助けに来てくれるの?」
「………………」
「だってあなたは私のこと、知らないはずなのに……」
「……………」
無意識のうちに聞かないようにしていた疑問。それを聞いてしまった・失言をしてしまったという焦りで不安になっていたが、すぐにその不安は消えていった。
そして自身以外の生者のいない部屋で■■■■■は孤独に叫ぶ。
「……なんであなたはそうやって………。」
「…………」
溢れ出る思いをぶつけようとするが世界は違反者に、異分子に、
世界に背く者に死者との時間など与えないといわんばかりに
⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️に炎が襲う。
⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️は自分が炎に強いと思っていた。
だから生まれて初めて炎を熱いと痛いと感じたことに驚愕していた。
「これが………あなたが感じている痛みなのね。」
「………」
「っつぅ……ねぇ、最後に言いたいことがあるの。」
「…」
ついに黒い箱は制御を失い墜落し始めていた。
その中で灼熱に耐え、最後の力を振り絞った。
「大好きだよ⬛️⬛️」
「 」
そのとき彼女がどんな心境だったのか。
それはもうわからない。
それでも彼女はあのとき、あの瞬間。笑顔だった。
白光が⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️の辺りを照らす、それが⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️の最後だった。
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——ただそんな彼女に一つ救いがあるとするならばそれは……
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