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第三話 疫病神事件勃発

「先生~。これ以外ほかにすることないんですかぁ~」

 飽き飽きとした声でゆいるは子松に訴えた。入部して早二週間。そろそろ学校にも慣れ、部活にも慣れてきた。だが、部活では相変わらず御先使いのタマをじゃらすことだけ。子松は自発的に動くのが我が部のモットーやら何とか言って指導には当たらなかった。ゆいるは持参のネコじゃらしで毎日タマを遊ばせていた。ゆいるだけでなくとも飽きるだろう。まぁ、それはそれで楽しいのだが・・・。

「ゆいる! 子松に先生なんて付けちゃだめよ! 調子に乗るから!」

 しのぶ子の声が飛んでくる。

「しのぶ子はいいよ。可愛いハムスターでいろいろできるんだからー」

 不服そうにゆいるは言う。しのぶ子の御先使いはハムスター。だがそれも時によってはむじなに変わる。なかなかの実力者のようだ。

 部活の場、文芸部は全員がそろうと別の場所へ向う。奥の本棚の「山の人生」を引き抜こうとすると本棚がスライドして入り口が現れる。その道の先には半地下の部屋がある。そこで部員は毎日、依童の腕を磨くのだ。

「しのぶ「子」! 突っ込みはやめておけ。ゆいる君。ほかにしたいことがあるならやってみたまえ」

「やってみたまえ・・・なんて」

 ぶつぶつゆいるはいいながら考える。ふいに頭の中に言葉が生まれた。それを声に出す。

「タマ! メタモルフォーゼ!」

 言霊がタマに術をかける。

 と。

 

 タマは三味線へ変身した。


「ええ~~~~~~~~!」

 ゆいるは大声を上げた。ショックだ。なにも三味線にならなくてもいいのに・・・。落胆するゆいるをよそに子松がタマを拾い上げる。

「なかなかいい変化だな。よし! ○○兄弟呼んで来い! しのぶ「子」!」

「なんで私なの!」

 そう言ってしのぶ子は突っ込むが子松はじゃらん、と三味線になったタマを引きはじめる。津軽三味線だ。なかなか腕はいい。

「先生やめてくださいーーーー!」

「早く呼んで来い! しのぶ「子」」

「無理でしょーがっ!」

 三人のやり取りの間、丈は田中の御先使いの蛇にぐるぐる巻きにされていた。まるで道成寺の蛇のようだ。

「今日こそ。かわいがってあ・げ・る」

 おねぇ言葉で田中が丈に語りかける。それをかわいそうに思った関口が助けようとして御先使いを出すが蛙である。蛇と蛙のにらみ合いが続く。そこへしかたなく雑誌から顔を上げた松島のマングースが飛び込んできて勝負は引き分けで終わる。この課程を入部してから常に味わってきた丈は観念していた。蛇にまかれながらシェークスピアの本をぼけっと読み続けていた。

「ああ。また丈君を食べ損なったわ」

 田中が不満そうに言う。

「丈君は純粋なんだから。そういう危ない発言はおよしなさいっ!」

 松島が一喝するが効果はない。毎度のことである。


「タマ。解除!」

 悩んだ末、選んだ言葉をゆいるはなんとか発すると三味線のタマがネコに戻った。たっとタマは子松の手からすり抜けるとゆいるの腕の中にとびこんだ。

“ゆいるちゃん。ひどいよー。おなかの毛が抜けちゃったよ~”

 タマが泣き言を言う。

「ごめんねぇ。タマ。よしよし」

 ゆいるは毛の抜けたタマの腹を優しくなででやる。

「せっかくいいところだったのに」

「ゆいるで遊ぶんじゃないの!」

 しのぶ子が物足りなそうな子松を叱り飛ばす。

「お前に言われたかない」

 子松はなぜかしのぶ子にはぞんざいに話す。なぜなのかは不明だがそれだけ心を許しているのかもしれない。もしかして・・・。ゆいるは乙女心を刺激されて想像たくましく考えてしまった。生徒と教師の禁断の愛。

 まさか・・・ね。

 恋愛に疎い自分である。想像しただけでゆいるは却下した。そうであっても自分には関係がない。そっとしておこうとゆいるは思った。

 それにしても三味線になるだなんて。自分の中ではもっと違うものになると感じ取ったのだが・・・。当分ネコじゃらしかしかないようだ。

 私の中の神様は何を思っているのかしら?

 初めて依童をしたときに話したきりだ。今はうんともすんとも言わない。依童をすると確かに降りてきているのは感じる。だが何をしたいのか何をすべきか意思は伝わってこない。ただタマがいるだけ進展はしている。それだけだ。禁断の外典とはなんなのだろうか。残念に思いながらもゆいるはネコじゃらしで再び遊びだした。


梅雨の雨が長引いている。靴箱を抜けてロビーに入ったゆいるはとんでもないものを発見した。バケツ・・・である。ここは吹き抜けの天井で天井はガラス張り。ガラスの一部がかけて雨漏りしているのだ。

 この学校そんなに貧乏なんだ・・・。

 校長の孫息子である丈をちょっぴりゆいるはかわいそうに思った。そういえば自分の懐もそろそろやばい。毎日ネコじゃらしでタマを遊ぶのも飽きてきている。ついつい、ゆいるはネコグッズを集め始めていた。おかげで部室のゆいるのロッカーにはネコグッズがあふれかえっている。

「グッモーニン! ゆいる!」

「あ。しのぶ子。おはよう」

 二人はうれしそうに顔を合わせるとぱちんと片手を合わせた。

「どうしたの? ぼーっと突っ立っていたけれど」

「うん。あの。あれ・・・」

 ゆいるはバケツを指差す。

「バケツで雨漏り防いでいる丈君の家ってちょっとかわいそうだなと思って」

「おや? やはりお主やなぎとできているな・・・」

「そういうしのぶ子だって子松先生と仲いいじゃない」

 真っ赤になってゆいるは反撃する。同じくしてしのぶ子は顔を真っ赤にしてそ知らぬ方向を向いた。

「あんな奴、相手じゃないわよ」

「あんな奴とはどんな奴だ?」

 ぬっと子松の顔が二人の間に突っ込んでくる。ぎゃぁとゆいるとしのぶ子は飛びのけた。

「しのぶ「子」君だけでなくゆいる君まで逃げるとは心外だな」

 相変わらず「子」を強調する子松である。

「秘密だもんね。行こう。ゆいる」

 しのぶ子はゆいるの腕を取るとさっさと歩き出した。残った子松はにやにやと一人たって二人の背中を見ていた。


 放課後。当たり前のように部活にゆいるは赴いた。今まで通っていた学校ではすぐに転校になると思って部活には入らなかった。しかし今回は何の力が働いているのかしらないがあれよあれよというまに入部して部活になじんでしまった。

 部活に向うと松島が憂いた表情で雑誌をめくっていた。

「どうしたんですか? 先輩」

「貴子でいいわよ」

「じゃ・・・貴子先輩ということで。それで、どうしたんですか?」

「最近、いいブランド品買えなくてね。どこかいい店しらない?」

 そういえば、とゆいるは思い返す。

「商店街とかお店・・・前から賑わいが消えましたよね。何かあるのかしら?」

 一人、ゆいるはつぶやくと、さすがだ!と子松の声が背後から降ってきた。ぎょっとして松島とゆいるは振り向いた。

 心外だね、とまた同じ言葉を小さく繰り返して言うと子松は言いなおす。

「さすがはゆいる君。慧眼だ。実は疫病神が近づいている!!」

「疫病神~?!」

 いつしか来ていたしのぶ子が疑わしい目で子松を見る。

「これが事実だ!」

 子松は一枚のザラバン紙を突き出した。

 目を凝らして三人は紙切れを見る。

「疫病神情報・・・。こんなのどこで手に入れたんですか?」

 ゆいるは紙とにらめっこしながら子松に問いかける。地図が書いてある。どうやらこのあたりの地図らしい。

「私にはいろいろ情報網があってね。おっと私は生徒と恋仲になる気はないよ。こんなに優秀でもね」

「私だってありません」

「ああ。ゆいる君はやなぎだったか・・・」

「先生!」

 鬼気迫る表情で子松にゆいるは迫る。

「丈君に変なこと吹き込まないでくださいよ!」

「わかった。わかった。この際だから君も依童でこの事件を解決してみなさい。何かつかめるかもしれない」

 子松は紙切れを置くとひょこひょことおどけた調子で去って行った。

「なぁに。あれ。子松の奴、ゆいるに気があるの?」

 少しとんがった声でしのぶ子が言う。

「ほんと。これによればうちの高校の近くでで発生しているみたいね」

 はぁ、とため息をついて松島が言う。

「疫病神が本格的に発生するとどうなるんですか?」

 ゆいるは松島にたずねる。

「お金に困ったり、不幸がきたりするんじゃないかしら?」

「それを私たちで解決するんでしょうか・・・」

 自信なさげにゆいるはつぶやくように言う。

 しのぶ子も考え込む。

「あ」

 ゆいるが声を上げた。

「四葉のクローバーを本に挟んでおくとお金に・・・って、解決策になりませんね・・・」

 上向きだった声が徐々に沈んでいく。

「どうしたの?」

 女三人が悩んでいるところに丈がぬっと首を突っ込んできた。相変わらずぼーっとした顔つきだ。

「や、やなぎ君」

「やなぎぃ~。驚かせないでよ」

 松島は言う代わりに雑誌でパコン、と丈の頭を殴る。

「痛いですよ。先輩。あ。疫病神情報ですね」

「やなぎっ。知ってるの?!」

 しのぶ子が丈の両肩をゆさゆさゆさぶる。

「しのぶ子。そんなにゆさぶったら話せないって」

 ゆいるが止めに入る。

「で、解決策を知っているの?」

 松島が冷静に丈に聞く。

「さぁ、僕は直接かかわったわけじゃないから。じぃさんなら知ってるんじゃないかなぁ?」

「校長先生か・・・」

 しばらくとんとんと机を指でたたいていた松島だったがすっくと立ち上がった。

「いつまでも考えても埒が明かないわ。聞くのは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥だものね。校長室へ行きましょう」

「はいっ」

 頼れる先輩松島と子分二人、とそして丈の四人は校長室へ向った。

 校長室の前で女三人はいったん躊躇する。その脇をするりと通り抜けて丈はいとも簡単にドアを開けた。

「じぃさんちょっといい?」

「学内では校長と呼べ。丈」

「じぃさんこそ名前で呼んでいるじゃないですか。ほら入りなよ」

 丈の後に続いて松島たちが入る。

 そこには茶髪の男子生徒、すでに金髪となっている男子生徒、そしてつややかな黒髪を腰までながしている日本人形のように美しい女子生徒の三人が立っていた。いずれも美男美女だ。

「あれ? 先客? じゃ出直そうか?」

 校長にも相変わらずの独特のテンポで丈が話す。彼の世界はあくまでも変わらないのだ。

「いや。疫病神予報のことで来たのだろう? お前たちにも話がある。そのままでいい」

「何か知っているんですか? 校長先生」

 松島が冷静に尋ねた。




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