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1558年(永禄元年)兄弟の揉め事再び

 昨年の信勝の反乱が一時的とはいえ収まっている所だが、尾張は内外に火種を抱えていた。


 尾張国内においては、大和守家を滅ぼし国の半分を手中に収めているが、もう半分を占める織田伊勢守家は健在。そして、手打ちになったとは言え信勝の勢力は依然程表立っての動きはないが、虎視眈々と弾正忠家の家督を狙っている。


 そして国外においては、北の美濃、斎藤家とは弾正忠家と婚姻関係を結んでいたが、内乱で当主の利政が敗北、嫡子の義龍が家督を簒奪した。以降は敵対関係となり、度々小競り合いが起こっている。


 南の三河からは、徳川家を吸収した今川家が北上の機会をうかがっていた。西の伊勢は、長島で本願寺が信者を増やし勢力を拡大しつつある。

 尾張国内の問題が続けば、国外からの侵略がいつ起こってもおかしくない状況であった。


「なるほど。信長様けっこうヤバくね?」


 十郎、親父殿から今の弾正忠家が置かれている状況の説明を受けて、思った感想だ。


「えー、そうか?伊勢守も斎藤も今川も、俺達がぶっ飛ばせば済む話だろ?十郎おじも、俺達も強えーから大丈夫だろ?」


 楽観的な新介が羨ましい。


「ふ、そうだな。我らで、殿の敵を全て倒せば良いだけの話だな」


 俺と新介は元服しているとはいえ、お家の事に関してはまだ関われるほど偉くない。時折、こうやって親父殿から国内外の事を教えてもらっていた。


「そう言えば長秀、この前武衞殿の話を聞いたぞ。なにやら各国の守護が盟約を結ぶ場に出向かれたそうだ。守護として、御父上の後を継がれて立派にされているそうだと」


 あぁ、あの感じ悪かったお兄さんか。元気で頑張ってるみたいなら良かった。


「ただ、そこでなにやら遠江の吉良家と揉め事があったらしい。なにやら席次順で揉めたらしい。周りが取りなすのも聞かず、結局その場はいがみ合って終わった、との事だ」


「あぁ、やっぱり揉めましたか。周りと上手くやるような性格してなさそうだったし。でも、大丈夫なの?周りも偉い人達なんでしょ?」


 親父殿は俺の口調に飽きれた声を上げる。


「まったく、お主はの言いようはよく解らん。まあ、遠江は実質今川が支配しておるし、武衞殿も信長様に庇護されている身だしな。名目上の盟約、という事だろう」


「えぇっと、その盟約に一体何の意味があるの?」


「意味?解らん事を言うなぁ。立場のあるお方には、そうしないといけない何かがあるんだろうさ」


 うーん、実権の無い人達の承認欲求を満たす為だけの、形式だけ儀式みたいなものか。


「そうすると、次の出陣はどこが相手になるのかのー?やっぱり伊勢守か?」


「新介の関心は戦しかないの?」


「うむ、次の戦が伊勢守だろうと、斎藤でも今川でも、また信勝様だったとしても、我らは信長様に従い戦うのみぞ」


 そういうと親父殿は俺と新介の、まだまげも結えない頭を撫でる。


「大分と髪が伸びてきたな。もう少しあらば、月代さかやきを剃らねばな。最近殿が具合を崩しているとの事で、この隙を突かんとする輩がいるかもしれん。二人とも、次の戦までゆめゆめ鍛錬に手を抜かぬようにな」




 その数日後、城仕えから帰った十郎からもたらされたのは、謀反を企てたとして信勝の命をもって罰せられた、との知らせだった。


 意外にもあっけなく、弾正忠家のお家騒動は、これにて一旦の終わりを迎えたのだった。

 たとえ両親を同じくする兄弟であっても、家督騒動とは許されないものなのか。


 しかし、信長様は一度はお許しになっていた。


 前回の信勝も、そしてその前に庶兄である信広様が城の乗っ取りを画策した時も一度はお許しになられた。

 これが戦国、下剋上時代。血統でつながり、血縁で結びつき、それゆえ争うのもまた血縁、と言う事か。


 あぁうつくしきかな兄弟愛。


 あの兄を持っている俺も、他人事ではないのかもしれない。


人物紹介

織田信広:信長の異母兄。母が側室だったから跡取りになれなかったわだかまりがあったのか、一度謀反を起こすが失敗。以後は配下の分を弁えて一族のまとめ役を担った。

斎藤利政:斎藤道三。まむしと呼ばれ油売りから美濃一国を取ったと言われる、信長より凄い下剋上をなした人。正室に男児が無く、下剋上で地位を奪い追放した守護の土岐頼芸ときよりのりから側室も奪い、その側室の息子の義龍に謀反を起こされ討たれる。

吉良:吉良きら 義昭よしあきら。遠江の領主だが、実質は今川家が統治している。先代の吉良義堯きらよしたか時代の婚姻戦略により、緩やかに今川家に地位を乗っ取られた。赤穂浪士に討たれる吉良上野介のご先祖。

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― 新着の感想 ―
河内守でなくて、大和守家ではないでしょうか。
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