表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/28

1556年(弘治2年)稲生の戦い 兄弟不仲の果て

「うげぇ、マジで戦だ、殺し合いだ~」


 余りのストレスに、何度も吐いていた。


 当然、人を殺したことなんてない。前世でも今世でも。死んだことはあるけど、気が付いたら死んでたしな。でも、有利なのはそれくらいか。死ぬ気でやったら何とかなるか、と気合を入れようとしている横で、新介は興奮冷めやらぬ、散歩前の柴犬みたいに感情が抑えられてなかった。


「長秀~、やっときたの~。我らの初陣じゃ!戦じゃ!首とるぞ!!」


 しっぽがあったらぶんぶん振りすぎてちぎれる位の勢いだ。


「新介!焦り過ぎだといってるだろうが。お主たちは、永く信長様に仕える事を考えよ。早死には許さんぞ。長く永く生きて、できるだけ多くの首を獲るんだ」


 親父殿の言葉の最後以外は腑に落ちるけど、やっぱり親父殿も戦闘民族か。


 周りの兵を見渡すと、信長様の回りや一部の家来衆以外の大半は、普段農民や町民といった普段は戦以外を糧に暮らしている人達だが、戦にでた経験は俺と比べると数倍も上だろう。


 俺と新介は、一族郎党と一緒に馬上の親父殿に付き従って進むことになった。



 戦が始まった。


 相手は倍の兵だが、それが半数に分かれて布陣していた。信長勢は、まずはその一方である柴田勢に攻めかかる。その人波の中で、親父殿が進む先へついて走る。


 ひたすら走る。


 遅れて取り残されたら、敵に囲まれて一たまりもないだろう。


 とにかく今は、馬上の親父殿を目印に、ひたすらついていくだけだった。


「ひぃぁ」


 と親父殿の馬に跳ね飛ばされて、敵兵が尻もちをつく。恐怖で満たされた目の相手に、俺は手にした槍を向けた。槍はそのまま相手の肩口へと突き刺さった。


「ぎゃ」


 短い悲鳴を聞く中、槍を引き抜き馬の後へ戻ろうと走る。

 死なせなかっただろうか。殺せなかったのだろうか。どちらで考えるのかも解らなくなる程に、周りには死が溢れていた。


 親父殿が馬上から槍で突くと、俺もその相手に槍を突き立てて相手に止めを差す。そして体を槍から押しのけて親父殿の槍を自由にする。こうやって、次第に効率よく敵を殺せるようになっていく自分がいた。


 数で有利な柴田勢相手に、信長勢は一時は押されていたものの盛り返したようで、柴田勢は引き上げていった。

 多勢相手に無傷な訳もない信長勢だけど、動ける者は目が座って意気揚々。多分アドレナリンとか出てるのだろう。疲れも感じないかのように、のこる林勢へと向かって進んでいく。その頃は、もう無我夢中で細かな記憶もない。親父殿の横を走り、槍で突き、払い、跳ね飛ばし、倒れた敵へまた突いて。その繰り返し。


 気付けば、林勢も引いていった。


 これで、戦は終わった。


 跡に残るのは、敵味方多数の亡骸と、負傷してうずくまる者。敵にも味方にも、死は平等に訪れていた。


 一息ついた時にやっと解かったが、胴当てや小手の無い所中に切り傷やり傷があり、すねひざは何度もぶつけた後があった。

 ぶつけたり切られた時の痛みを一切感じていなかったことに恐怖し、自分が死傷した多数の相手が頭をよぎり、その場でまた嘔吐した。


 新介は、俺と同様全身ズタボロではあったが、うずくまっている俺とは対照的にまだ目の輝きが残っている。


「なんだぁ長秀。勝ったのにへばっとるんか?勝ったのなら笑え!!」


 そんな新介とうずくまってる俺の背中を、親父殿はよくやった、と叩きながら労う。

 俺と親父殿、新介は細かい傷は負ったが無事だった。しかし、信長様配下の重臣が何名も戦死したようだ。


 なにより、敵大将の信勝は結局前線に出なかったことで敵兵の撤退が早まったようで、信勝の居城だった末森城と、那古野城へ撤退していき、籠城となった。


 信長様は信勝を追って末森城へ攻めるべく進軍し、俺達も信長様について末森城を囲んだ。


 そこで命じられたのは、城下の家々を焼き払え、という任務だった。


 既に戦争になって、しかも負けた側の城下に人はなく、家々と逃げる時に持ち出し損ねた家財があるだけだった。

 そんな家々に、火をつけていく。


 燃える民家を見るのは、何とも良い気分ではない。これには新介も、


「こんな戦は、あんまりしたくないな。城を落とすのに、民も苦しむ」


 燃えた民家が崩れ、末森城下は丸裸になった。信長様も攻め急ぐことをしなかったので、後は時間との勝負になっていると、なんだかわからないうちに引き上げる事になった。


 後で広まった噂では、信長様がお母上から今回ばかりは許してやってほしい、と言われたらしい。


 さすがの信長も、母の願いを無下には出来ず。

 今回の弟の謀反は、手打ちとなったそうな。


 信長様と信勝は、同じ母親から生まれたとの事。実の兄弟でこれなのか。どれだけ俺は兄弟という関係に夢を見てたのだろう。

 新介や親父殿の、戦に対する考えというか、死生観が俺には理解できない。普段どれだけ親しくしていても、分かり合えない部分があるのだろうか。


人物紹介

信長の母:土田御前。信長、信勝の母。信秀の継室(先の正室の後に正室になった)。あと信包(信勝の下の弟)とかお市の方もこの人が母親。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ