結局豊臣秀頼と違うんかい?!!
え?今信長って言った?
俺の驚きをよそに、毛利さんが報告を始める。
「守護の義統殿は、大和守を討つ大儀になる、とのことで屋敷に火をつけ郎党併せて徹底交戦され申した。最後は殿に息子たちを頼む、と申されておりました」
父親の名前は義統というのか。
たしか、守護って日本史で習ったか?守護と地頭。って事は、父さんかなり偉い人?
「そうであるか。守護殿には大きな借りが出来たな。では、そちが嫡男の岩竜丸か?」
「いえ、庶子とのことです。当時、岩竜丸殿は屋敷を出ていたようで、那古野に着くのはもううしばらくかかりましょう」
え、嫡男じゃないって事は、兄弟がいるって事?確かに、声もそんな事言ってたような。
「そう、であるか。しかし、どちらの子もこの弾正忠家に寄越したという事に報いねばなるまいな」
そう話している中、後ろから足音が迫ってきた。
「申し上げます。ただいま先触れが参り、斯波家の岩竜丸殿が到着する、との事です」
「そう、で、あるか。息災なようだな、嫡男は」
急に、信長が俺を見る目に熱が無くなったようだ。兄さんが生きてて良かった、ってならないの?
「十郎、そちはこの者、どのように扱えば良いか。意見を申せ」
あ、もうこれは興味が無くなって自分で考えるのも面倒になって部下に丸投げするパターンだ。
『あ、はいはい。どうしたらいいと思う?』
『じゃぁ、それで。よろしくね~』
って会話がサラリーマン時代どれだけあった事か。
「はっ!!斯波家は岩竜丸殿が継ぎ、尾張守護となられ、当家で庇護する事で、大和守、伊勢守両家よりも尾張を統べる大儀となりましょう。こちらの男児は、当家縁の家へ養子に出すのがよろしかろうと存じます。義統殿の最後の願いを儂は託され申した。無下にはできませぬ」
それを聞いた信長は、さも良い考えが浮かんだように膝で手を打った。
「そうか。であれば、十郎、そちの子とすれば良い。そちに子は無かったであろう?うむ、丁度良いではないか」
え?養子ってそんなノリで決まるの?
「そ、それは何というか、儂のような家には武衞家程の高貴な血統は、勿体のうございます」
と断る毛利さんだけど、そこまで偉い人なのか?でも断られるのも複雑な気持ち。
「なにを言うか。それではそちは義統殿の頼みを反故にする、というつもりか?」
信長様、半笑いで詰めて楽しそうだけど、マジでこれってパワハラだよな。扱いに困る子供の面倒を押し付け合ってるのが。
パワハラで児童虐待か。やべぇよ信長。
「……うむ、わかり申した。わが家に来て頂きましょうぞ」
「ふむ、自らの子に『頂こう』と言うものではない。遠慮のし過ぎぞ?ハッハッハッ」
信長様は楽しそうだけど、イジられた毛利さんと、一言も話してない俺はどうすれば良いのか、解らない。
「で、そちの名は?いや、毛利の子になるのに元の名は不要か。歳は幾つだ?」
え?急に歳聞かれた?
「はい、えぇっと、13!か14か12か、その辺りかと……」
俺って実際何歳なのかわからない。成長の感じでこんな所かな?でしかないので、あやふやな返事になる。その返事を聞いた信長は声を上げて大笑いする。
「己の歳も分からぬか!!これは何とも可笑しな者じゃ!しかし、もうそのような歳なら今更幼名というのもおかしかろう。十郎、何か良い名は無いか?」
突然振られる毛利さん、だけど、なにやら考えていたみたいだ。
「末永くこの織田弾正忠家にお仕えするとの意味を込めまして、殿と御父君の名、『信長』と『信秀』から『長』と『秀』を頂戴し、『長秀』というのはどうでしょうか」
「はっはっはっ、許す!!では、これより毛利長秀と名乗るがよい」
「ははぁ」
平伏す毛利さん、高笑いする信長さん、ほったらかされて呆然としてる俺。
俺、どうやら毛利長秀になったみたいです。
一体、『豊臣秀頼に生まれ変わる』って話はどうなった?
人物紹介
伊勢守:織田 伊勢守 信安。織田伊勢守家当主で尾張北半分の守護代。信長の弾正忠家とは不仲。
信秀:織田 三郎 信秀。信長パパ。主である大和守家の家老筋だった弾正忠家を、主家とタメ張れるくらいに大きくした。子供が30人近くいる。