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豊臣秀頼に転生!え?思ってたのと違う  作者: 水武九朗


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1565年(永禄8年) 藤吉郎、将の初陣ー鵜沼城攻め

 一夜明けた翌日、藤吉郎殿から呼び出しを受けた。


 出向くと、そこには妙にスッキリとした顔の藤吉郎殿が待っていた。


「昨晩は、よくお眠りになられましたか?」


「いやぁ、あれから考えてみたものの、ワシの持ってるもんが少なすぎてなぁ。できることは限られてるのを思ったら、かえって腹括れて、ぐっすり眠れましたわ。平民の足軽上がりの辛いところですなぁ」


 本人が言うように、朝だというのに目に生気がみなぎっている。するべきことはっきりした、という事だろう。


「そうですか。では、どのようになさいますか?答えを伺いましょうか」


 実際、藤吉郎殿がどのように考えたのか。現に、できる事は限られている。兵も借り物、織田家の中での立場があるわけでもない。それでもできる事が何なのか。


 すると、それまでの和やかな空気から、一転、姿勢を正し鋭い空気を纏った。


「ワシは平民の生まれで、後ろ立てとなる家もなく、これが初めての一軍の指揮で、兵を率いた戦の経験もない。持ってるものは何もない。しからば、ただ頭を下げ、命の保証をするしか出来ん」


「ふっ」


 つい、口から息が漏れてしまった。


「結局、する事は昨日と同じですね」


「そうです。織田家の勢いを背景にして、助命と引き換えに城を明け渡すよう交渉する。たしかに、全く変わりはしないのが、笑えもうした。だが、昨日の今日で意気込みと心持ちが違い申す」


 極限での交渉において、心根こころねの感情の機微で、相手に不信感を抱かせると、即失敗に繋がる時もあるのだ。そういった、『気持ちの作り方』という所が、本番前に伝えられたのは良かったところだ。

 これで、相手の勘気に触れて交渉が失敗したとしても、後悔の種が一つは消えただろう。

 実際、今からできる事なんて、気の持ちよう位の事しかできないのだ。今から急に名声を得る事は出来ないし、高度な交渉術を身に着ける事も出来はしない。

 まして、織田家の他の家臣達が非協力的で、助力を頼めない状況となれば、尚更の事だ。


「そうですね。信長様を相手にしたときと同様、藤吉郎殿はその誠意と首をもって交渉に当たられるのです。大沢殿が如何ほどの人物であれ、信長様に比べれば如何ほどのものか、藤吉郎殿の思いを貫き通しなされ」


「そうですな。信長様ほど手強くはありますまい」


 そう言って、ニヤリと笑いあった。

 実際は、鵜沼うぬま城主の大沢殿の方が、命懸け、お家の命運がかかっている分、予想も出来ない事をして来る事もありうる。


 そんな中、犬山城に集められた兵を率い、鵜沼うぬま城へ向けて進軍が開始された。


 信清反乱の後とあって、集められた兵は織田弾正忠家へ従うというより、統治者が変わろうとも金子きんす次第としか思えない程の士気で、恐らく劣勢となった途端に総崩れとなりかねない程の弱兵であった。


 俺と山口飛騨守やまぐちひだのかみ殿で軍を指揮して鵜沼うぬまの地まで兵を連れてくる事はできた。案の定、鵜沼うぬま城の大沢は城門を堅く閉じ、籠城の構えだ。


 城門前に陣を敷くが、その間も一切城内から攻撃らしきものは無かった。なんなら、城を空にして逃亡しているのかとも思ったが、城内から人の動く足音や微かな話し声などの気配はあったので、まだ城内にいる事はたしかだ。


「それでは、行ってまいる。拙者が戻ってくるまで攻撃は控えて下され」


 そう言って、藤吉郎殿は一人、閉じた城門に向かって進んでゆく。


「ご武運を」


 俺が声を掛けるが、飛騨守ひだのかみ殿は黙って見送っていた。


「拙者は織田信長が家臣、木下藤吉郎である。城主殿と交渉に参った。城門を開けられよ!!」


 名乗りを上げると、鵜沼うぬまの堅く閉じられた城門が、馬一頭がゆったりと通れる程の間だけ開かれる。


 開いた門の間に、藤吉郎殿の乗った馬が歩みを進め、城内へと入っていった。


「本当に行きやがった、あの命知らずが」


 そう飛騨守ひだのかみ殿が呟いたのを、俺は振り向きもせずに聞き流した。




 ~~ 鵜沼うぬま城内 謁見の場 ~~



鵜沼うぬま城主、一色家家臣の大沢次郎左衛門(じろうざえもん)である」


「織田家家臣で、此度の軍を任されております木下藤吉郎です」


 どちらも鎧を身にまとい、この交渉次第で戦となるのは目に見えている状況であった。


「聞かぬ名じゃな。して、今更細かい話は抜きにしましょうか。信長はこの城を、儂をどうしたいのだ」


 藤吉郎の名を知らないのは当然の事だ。それすらも些事かの如く話を進めてゆく。


「信長様がおっしゃるには、降るなら良し。一色に義理立てするなら、攻め落とすのもいとわず、との事じゃった。だが拙者としては、血を流さずに下ってはくれまいか。今の一色の当主はどうしておる?家臣に城を追い出されて、領地の統治もままならんではないか。そのような主、恐らくは、いくら待てども援軍など期待出来ないのは、お主も解っておろうよ。ここは素直に織田の配下となって引き続き美濃を治めては如何か。すんなり降れば、信長様もお主を軽んじることもあるまい」


 藤吉郎は思いの丈を吐き出すように言い放った。そして、その内容に大沢自身も思う所があるようであった。


「確かに、今龍興様からの援軍は期待できないであろう。あのまだお若い当主様には、この美濃を治める器量がないのも理解できぬわけでは無い。しかし、信長に美濃と尾張の二国をも治める程の器量をお持ちか?」


 確かに龍興が一国を治める器に無い事には、大沢にとっても心当たりがあるのだろう。しかし、それが即織田に寝返るというのとは異なる。寝返るという汚名を被るなら、それ相応の見返りが無いと、報われない。


「信長様は、東海三国を治めた今川を退けた。それもたった尾張一国で。これは、信長様の器量が、今川を超えておる証明ではないか、と拙者は見ておる。信長様の器量は美濃尾張には収まらず、もっと大きな、それこそ日本ひのもとを治めるに足る器である、と」


 実際は一度の戦で将の能力が図れるモノではない。しかし、お家の命運を賭けた戦で勝ちを掴む、というのは、能力とは別の、星というか、強い運命を持つ、という一つの証にはなる。


「しかし、信長殿は此度美濃へ攻め入るのは、義父道三様の敵討ちが目的とのもっぱらの噂。儂のように、道三様の家臣であった者が、高政様、龍興様へと鞍替えした者の扱いが如何様いかようになるのか。そこが解からぬからこそ恐ろしい」


 美濃へ攻め入った理由が仇討なら、一色に連なるすべての者の命が目的なのではないか。縁戚以上のつながりがあった、という事は当人にしか解からないが、美濃の一色勢を壊滅させる事が目的とされると、自分の身が危うくなる。寝返ったとて、懐に入った所で背後から切りつけられようものなら、たまったものではない。


「例え信長様がどのように思おうと、大沢殿の御命は拙者が保証いたします。美濃の国衆全てを敵に回しては、美濃を治める事が敵わないのは信長様も重々承知なされておるはず。まずはお主を生かし、美濃衆を取り込む意志を示す事が、美濃を治める近道じゃと」


 それは、藤吉郎のまぎれもない真意であった。そして、底が見えない信長に対する信頼への、一部賭けのようでもあった。このときの藤吉郎には、信長の思いなど知る由はないのだから。


「そう、か。ならば、儂は生かされる、そうじゃな?」


 そう問われても、藤吉郎は即答できなかった。しかし、生命の扱いに関して、軽々に扱う事もできないので、過去の信長様の行いを伝える事とした。


「信長様は弟君に背かれても、一度は許したお方じゃ。降った者を無下にする事はあるまいて」


 藤吉郎はそう信じたかった。

 主従の信頼はあるのだが、時折非情とも取れる行いをする信長様を、藤吉郎はどこまで理解できているのだろうか。

 なので、この返答は藤吉郎の、信長に対する期待でもあった。


「しかし道三様の頃よりお仕えしておるが、儂はお主の名を聞いた覚えが無い。それほどの重臣ではなかろうて。さほどに、儂は織田家にとっては重く扱われておる訳ではない、という事の証左しょうさであろう」


 痛いところを突かれる。『持っていない』事を攻められると、藤吉郎は両手を上げるしか無い。無いモノを嘆くのではなく、有るモノで勝負するのだ。それを河内守から学んだのだから。


「た、たしかに、拙者は未だ信長様の家臣となって日も浅うござる。しかし、そのような者でも取り立て、このような責任ある職務を頂けるのは、信長様の器量にて、人を、家臣を扱うに長けた証でもあります」


「……そう、だな。すこし考える時間を貰おうか」


 なんとか切り返す事が出来た、と同時に出せる情報は全て出した。後は、受け取った大沢のみぞ知る所であった。そうすると、自然と頭を下げていた。


「大沢殿、何卒なにとぞより流す血の少なき決断をされますよう」


「……ふぅ、それを言われると敵いませぬな。儂も、流れる血が少ないにこした事はない、か」


 考えあぐねていた大沢にとって、藤吉郎の答えが響いたのであろうか、観念したように笑ったのだ。


「では、儂含めこの城にいる者達の事、木下殿にお任せいたす」


 その答えを聞き、藤吉郎は思いもよらなかった様で、驚きのあまり答えに詰まったのだった。


「おや、我らの命、預かっていただけませんか?」


「いやいや、そのような事は。確かに、この木下藤吉郎、大沢殿の御命おいのちと、この鵜沼うぬまの民を、背負わせて頂きます」


「なら良かった。では、頼みましたぞ」



 ~~ 鵜沼うぬま城門前 織田陣営 ~~




「よし、そろそろ頃合いか。おい、兵を集めろ。城に動きが見えたら城に火矢を射かける。用意いたせ」


 飛騨守ひだのかみ殿が兵に指示をだすが、それを俺は止めた。


「何をしようというのか飛騨守ひだのかみ殿?!我らは今回あくまで補佐、木下殿が戻られるまでは動いてはならない、と命を受けているであろう」


 あからさまに不服な顔をする。


「河内守殿も、どうせ成功すると思ってはおりますまい?!であればこそ、ここまで来て何もせずに引き上げる、と言う事はあるまいて。交渉が失敗した後は、どうせ城攻めとなるのだ。今から用意しておいて何の問題があろうか。言われた事だけするのは無能の所業よ」


 藤吉郎が城から戻らなければ、飛騨守ひだのかみ殿が自身で指揮を引き継いで城を攻め落とすつもりか。


「それは越権行為です!木下殿が戻られるまで、陣を維持して待つべきです」


「ふん、綺麗事を。あのような足軽に使わされるのを、お主も不満に思ってたであろうに」


「それとこれとは話が異なる。例え不満があろうとも、私は命じられた補佐に徹します。それが織田家の、信長様の為となりますから」


「それこそ綺麗事だ。お家の為といえど、自らの功にならぬなら、何の為の槍働きぞ」


 そう言い争っている時に、城門が開いた。


 城門から藤吉郎殿が出くると、藤吉郎殿が門から出た後も、城門は閉まる事は無かった。


 藤吉郎殿が馬を駆けて本陣に着くと、険悪な空気となっている俺達二人に、こう告げた。


「調略は成功じゃ。大沢殿は織田への帰順を願い、城を開け放った。これより、小牧山の信長様のもとに大沢殿をお連れする。当然、縄など掛けるなよ。丁重にお送りいたそう」


 笑顔で語る藤吉郎殿に対し、飛騨守ひだのかみ殿はそれが気に入らないのを隠さなかった。

 だが、調略に成功した事で実際に兵を動かす事は無く、飛騨守ひだのかみ殿の専横も無かった、という事になる。


 藤吉郎殿の将としての最初の仕事を成し、命永らえて小牧山へ良き報告ができる、というものだ。


 今後、飛騨守ひだのかみとの遺恨が残りそうで気がかりではあるが、今の所は喜ぶとしておこうか。


読んで頂きありがとうございます。

良ければ高評価、ブックマークを頂ければ、創作の励みになりますので、よろしくお願いします。

※今回の人物紹介は無しです。

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