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1562年(永禄5年) 小牧山移転計画

右衛門尉うえもんのじょうから連絡は来ぬのか」


清州の執務室で、信長様がつぶやくように口に出した。


右衛門尉うえもんのじょうとは、小口こぐち城攻めを任じていた佐久間さくま半羽介はばのすけの事である。


「城攻めを任せて二カ月(ふたつき)は経つ。攻め難いなら援軍の要求なりして来るべきであろうが、この二カ月(ふたつき)、何の報告も無いとは」


苛立いらだちを通り越して、声にあきれが現れている。


「その件に関しては月毎に使いを出しており、様子を確認しております。が、毎度の如く『順調』の一言で追い返されておりまして」

「うむ、清州からではちと距離があるか。一度、陣中見舞いと参ろうか」


その一言が発端で、小口こぐち城攻めへの陣中見舞いが決まった。



陣中見舞いと言いつつ、実体は査察である。

援軍ではないとはいえ、実際は鎧兜を着こみ、近衛で回りを固めて本陣へと出向く。


軽装で赴いた所、迂回してきた敵伏兵とかち合って大将が討たれるなどという間抜けな事は出来ない。


と言う事で、小口こぐち城へは信長様とお付きとして森三左衛門(さんざえもん)殿、そして母衣衆と馬廻りの総勢50程で向かう。


城に近ずくと、攻め手があまりに緩いように思われた。飛び交う矢数がとにかく少ない、というか見えない。敵城門は針山の如く矢で覆われてはいるが、それは昨年信長様が直々に攻めていた時から変わり映えしないようにも見え、二カ月激しく攻め続けた、というようには感じられなかった。


そして歩兵の士気が低い。矢盾の陰で、座っている姿も緊張感に欠けていた。


この状況を目にした信長様が、佐久間本陣の本陣へと乗り込んでいった。


佐久間さくまぁ!!貴様きさま、これは一体どういことか!!」


陣幕の中、上半身裸で体をぬぐっていた半羽介はばのすけ殿は、驚きのあまり立てかけていた刀に手を掛けた。

そして、陣幕に入ってきたのが信長様である事に気付くと、驚きの余り目を見開き叫ぶ。


「と、殿?!なぜこのような所へ」


「どうもこうもうあるか!!どういう事かと聞いておる!!」


信長様の声は大きくよく通る。緊迫した戦場ですら気圧される程に。


「こ、このような姿をお見せして申し訳ない。今衣服を」


と掛けてある衣へ手を伸ばすのにも構わず、信長様は問い詰める。


「そのような些事さじはどうでもよい。小口こぐち城攻めを命じて二カふたつき経つというのに、一向に攻め落とせぬのはどいうことだ!!この間、何をしておったのだ!!」


腰巻のみの髭ずら男が、正座をして怒られている姿が滑稽で、笑いを堪えるが、実際はそれ所ではない。信長様は首でも刎ねそうなほど怒りに満ちていた。


「は、はい。今は農繫期で互いの兵の大半を帰しており、豊後守ぶんごのかみともこの期間は休戦で話が付いております」


豊後守ぶんごのかみとは、小口城主の中島豊後守(ぶんごのかみ)の事である。

これに、信長様はブチ切れる。


「何を勝手に休戦しておるか!!この小口を落とすが目的ではないぞ!犬山の十郎左衛門じゅうりょうざえもんを攻め落とさねばこの戦は、いや美濃の一色との戦が始まりすらもせぬのだ!すこしは考えよ」


そりゃ、城攻めを進めてると思いきや、勝手に休戦にして仕事してなかったらブチ切れるのも仕方無い事だろう。


信長様は、深いため息を吐くとしばらく考え込んでいた。


佐久間さくまの独断とはいえ、結んだ約定を破るわけにも行かぬ。ここから近い小牧山の城を補強して清州から居城を移す。この小口にも、犬山にも近い小牧山からであれば、睨みを利かせるのにもよい。美濃へも清州より近くなる」


これを聞いた、付き従っていた小姓衆は、ギョッとする。恐らく城の補強計画をどうするか、居城の移転と、大量の作業となるのには目に見えている。


「急ぎ、清州へ戻り手配を致す。佐久間さくま、貴様は案山子かかしの如くここで居座って敵を釘付けにしておけ。その位はできるであろう」


そう言って、信長様は陣幕から出てゆく。


残されるのは、腰巻一枚で正座している半羽介はばのすけ殿。


「居城移転は村井民部むらいみんぶへ任せるとして、小牧山の改築は一度五郎左(ごろうざ)に任せてみるのもよいか。三左さんざも家臣団のとりまとめを頼むぞ」


信長様は、清州へ戻る途中にも指示を飛ばすので、母衣衆の中でも小姓組の面々は信長様の言を一言も聞き漏らさぬよう神経をとがらせていた。



清州城へ戻ると直ぐに拠点の小牧山移転の命が城中に伝わった。


そこからは、大急ぎで小牧山築城が行われたのだ。それまでの小牧山城には、尾張一国を治める居城としての規模は無かった。それを、一国の居城とするべく改築を行うのは、容易な事では無かった。


しかし一年後、それの難題を見事なまでに勤め上げたのが丹羽五郎左衛門尉にわごろうさえもんのじょう、俺と同じく『長秀』の名を持つ男であった。



読んで頂きありがとうございます。

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