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1562年(永禄5年) 小口の城攻め

 兵をかき集め、小牧山まで進軍すると、高台となっている城の物見台からは、周辺の様子がよく見える。既に落城したと見られる楽田がくでん城、そして城下から人が離れてゆく小口こぐち城。



「周辺の様子は?どこまでが信清に付いた?」


小口こぐち城、黒田城が呼応して信清勢へついた模様。楽田がくでん城は応戦空おうせんむなしく落城」


 北の美濃からの侵攻に兵を備えているため、それほどの大軍を率いてきた訳ではない為か、僅かばかりの不安は残る。


 先行して小牧山城に入っていた岩室いわむろ長門守ながとのかみと合流したが、それほどの兵の数とはならなかった。


「これより、まずは落とされた楽田がくでん城を取り返す。その次は小口こぐち城ぞ。長門守ながとのかみさきんじて小口こぐち何某なにがし調略ちょうりゃくをかけよ。楽田がくでん城の後は貴様らである、と」


「殿をお待ちしている間に、すでに算段は立てております」


「ふむ、では行けい」


「は!」


「全軍、楽田がくでん城へ進軍、取られた城を取り戻す、ぞ」



 そうして楽田がくでん城へ向け軍を進める。

 さすがに既に落ちた城は防備が無きに等しく、また守りに兵を割いておらず、楽田がくでん城は容易く取り返す事ができたのであった。



 そして、兵を小口こぐち城へと向ける。

 調略に成功していれば、犬山城の信清とさほど兵を消耗せずに戦う事ができるのだが、そうは事が進まなかった。


 長門守ながとのかみ調略ちょうりゃくは失敗しており、小口こぐち城の門は堅く閉ざされていた。


 やぐら鎧兜よろいかぶとを着こんだ武者が、こちらの軍に向かって声を上げてる。


「此度の源三郎ざぶろう殿の死に対する宗家の責任は、許容できるものではない!信清様へ償いを求める!」


 これを聞いても、信長様はなにも動じていないようだった。


「何を申すか、戦での生き死にをわしに責任をとれ、と申すか。筋違いにも程があろう。それで弟を殺した一色にしっぽを振るとは、節操がない従兄弟いとこ殿であるな」


「それでも!お家の為に討死にした者に褒美も無いとは!!そのようなお家の為には働けませぬぞ!!」


「当然戦働きには、生死問わずに褒美をとらす。此度の源三郎おだげんざぶろうとやらの働きは、褒美には至らなかっただけであろう。まっこと、残念ではあるがのう」


 相手が言い澱むのを見ると、ここぞとばかりに号令をかける。


「いくら言葉を尽くそうと、解からぬ者も居る者よ。もう言葉は終わりぞ、城内に矢を射かけよ」


 城門の上と馬上との言葉の応酬が、とうとう矢に変わった。


 城内からの応射が始まる。



 小口こぐち城の城門は南北の2カ所で表門は南側。そしてその両方へ矢を射かけ、城門の開錠を狙うが、そう簡単に行くわけもなかった。


 城攻めが始まり二日が経ち、三日が経ち。最初の勢いによる攻めから、長丁場に合わせたようにかかる矢の量は減っていた。そして、城から飯炊きの煙が上がる時を狙って、嫌がらせの如く矢の量を増やす。


 すでに互いの物見櫓ものみやぐらは矢の針山の如くなっている、


 今の状況に、とうとう信長様は業を煮やして城内への突入策を採った。


「ここで時間を掛けることは、一色に時間をくれてやるのと同義。時間を得るのに搦め手だろうと使うのみ、ぞ」


 城門の周辺に攻撃を集中している中、城門周辺に注意を引き付けておいた上で、離れた場所の空堀を渡り城壁を乗り越え城内へ斬り込み城門を開錠する、というものであった。


 そして、その突入部隊の中に、岩室いわむろ長門守ながとのかみが志願していた。


 小姓の任に着く者としては、いささか軽々なようにも感じたが、当人曰く、事前の調略ちょうりゃくに失敗した責任を感じているとの理由で押し切った。


 そして、夜明け前にこの策が実行される事になる。


 日が昇り切る前の、地平線から太陽が昇る前の薄明りの中、太鼓が、法螺が響き渡り、一斉に敵城門へ矢を、火矢を射かける。


 夜明け前の攻撃に、城内からの応撃がまばらで、統制が取れていないのが見てとれた。


 そこで突入部隊への開始指示が出される。


 夜明け前での城門への攻撃が続く中、突入部隊の全員が城壁を越えで城内に侵入したとの報せはきたが、すぐに成果が現れる訳もないが、信長様の焦燥しょうそうが周りに伝わってくる。


 日が昇り切る頃、正門の応射がまばらになり、城内から今までと異なる怒号と悲鳴が聞こえだした。


 そして、しばらくすると門扉もんぴが動いたのだ。


「矢を止めよ!!城門へ突撃し、門を開けよ!!」


 木盾や竹盾の矢避けの陰に居た兵が弱まった矢の応射の中、槍を抱えて城門へと走り寄る。開錠された門扉に外からも押し開けた。


 城内で取り回しの悪い槍を捨て、刀に持ち替えて開いた城門から城内へ兵がなだれ込んでゆく。


 城内へ入る兵の流れが落ち着くと、城外へ出てくる者がいた。どうやら負傷者を抱えて城外へと逃れていたのだ。


 抱えられていたのは長門守ながとのかみで、頭を横から槍で一突きされており、既に事切れていたのだった。。


 本陣からも城内へ攻め手に兵を出したが、城内の地の利が無いゆえか、兵が城外へ押し返されて再び城門が閉じられてしまった。


 一度は開いた城門だったが、長門守ながとのかみや多くの兵を失い、再び堅く閉じられてしまった。


 攻め落とす機会を失い、永きに渡る膠着状態へとおちいってゆく。

 そして、尾張国内での城攻めを抱えた状態で、美濃の一色と相対す事になる。


読んで頂きありがとうございます。

良ければ高評価、ブックマークを頂ければ、創作の励みになりますので、よろしくお願いします。

※今回は人物紹介は無しで。

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