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1561年(永禄4年) 森部の戦い

 

 清州を出立し進軍を開始する。


 尾張と美濃の国境である木曽川を越え、美濃へ侵攻した。当然ながら、敵地を征くので進みは遅い。


 小休止に戻ってきた斥候からの報告があった。


「墨俣に集結していた一色勢、砦より打って出てきます。その数、およそ5千。日比野と長井の旗が立てられておりました」


「日比野?と言う事は……」


「おつや叔母上の嫁ぎ先、か。手あたり次第に縁組するからぞ。全く、父上にも困ったものだ」


 一色勢の兵を率いる日比野下野守(しもつけのかみ)は、信長様の父、信秀様の妹君、お艶の方様の嫁ぎ先であったが、それをさしたる問題ではないように、すでに亡き父上にうそぶいて見せる。たしかに兄弟と比べれば、数える程しか顔を合わせた事がない身内は、「そんなこともあったかな?」程度の問題なのであろう。


「一色の兵は我らの倍以上でございます。如何なさいますか」


「ふん、大将無き軍は案山子かかしと同じよ。強く当たって、案山子かかしかどうか、見極めるとしようか」


「とすると、この辺りですかな。安八磨郡あはちまのこおり森部もりべ。布陣はここになりましょう」


 森三左衛門もりさんざえもん殿が美濃の土地に詳しいようで、地図を扇子で指し示す。


「兵は伏せさせますか?であれば、この辺りかと……」


「不要、である。案山子かかしでなければ引くだけよ」


「は!」



 そして、森部の地にて布陣した織田勢の中、俺は騎馬集団母衣衆(ほろしゅう)のの中にいた。


「馬はどうだ長秀~、相手に当たる前に落ちるんじゃねぇぞ~」


「見くびるなよ良勝!此度こたびの首は俺が取る!」


「そうだ!そして嫁も貰え!!」


 周りに笑いが起きる。

 戦の前で緊張をほぐすのに、俺をネタにされただけだ。それほどには、母衣衆の回りには名が知れている。そして、その輪の中には、前田又左(またざ)殿はいない。



「敵の日比野ひびのの配下に、足立六兵衛(ろくべえ)という者がおるそうだ。なにやら、素手で人の首をねじ切る程の剛の者との噂だ。この者を倒した者が、此度こたびの戦の勲功第一なるぞ!!」


 佐々内蔵助(くらのすけ)殿が声を上げる。


 素手で首ねじ切るって、もう化け物じゃねぇか。

 そんなのがいたら、俺は距離を置こうかな。


 そして、相対する一色勢も陣を布いているが、なんとういか、いつもの多勢を相手にしてきた威圧感が、圧迫感が感じられない。どうも馬上にいるせいなのか、それとも幾度の戦を経ての、感覚がおかしくなっているのか。


 そして、この平地で正面からぶつかる形の戦は初めてでもあったからか。


 出陣の合図と共に、両軍が進軍を始める。


 弓兵の一斉射のあと、歩兵同士がぶつかりあう。数の差は歴然、なはずだったが。


「あれ、以外と互角に押し合ってる?」


 まだ出番のない我々騎兵は、戦況を眺めていた。


「これほどの差で押し切れんとは、一色は弱兵だのう。ほれ、後衛の兵が遊んでおるわ」


「右手側がバラついておるな。あそこを突けば、中央まで切り崩せそうだな」


「うむ、では騎馬は突撃だ!!右手より敵陣を切り裂く!!遅れるなよ母衣衆!!!」


 そう言うと、信長様が先陣を切って敵陣に向かう。我ら母衣衆も遅れを取らないよう、馬を飛ばして周りを固め、人の群れに騎馬が突入した。


 すると、思った以上に抵抗が弱く、突入した騎馬から敵兵が逃げてゆく。逃げる敵兵の背中を、背から槍で突く。突く。突く。


 敵陣の内側へ我らが斬り込むと、斬り込んだ中に味方の兵が入り込んで行き、敵兵を背後から挟撃していく。


 そうすると、敵兵の抵抗が急に激しくなる。突撃している戦闘の信長様の方向が、敵陣中央から逸れて行く。


「この足立六兵衛(ろくべえ)がおる限り、簡単に本陣は突かせんぞ!!!」


 弱兵ばかりと思っていたが、敵にも強者がいる、と言う事か。

 それに足立とは、開戦前に佐々殿が言っていた武者の事だろうか。


 騎馬突撃は、停止する事は難しい。方向が逸れた我らは、敵陣を横断する方向に進んで行く。敵本陣からは遠ざかって行く。


 敵本陣へ斬り込む事は出来なかったが、敵の総軍を切り崩すには十分であった。


 敵兵は、本陣廻りの統制が取れている兵を除き、散り散りになってゆく。


「ふ、此度こたびも大将首はお預けか。この様子なら、誰ぞ本陣を落とした者がおるやも、か」


「と、殿が大将首を狙いまするな。我ら臣下に任せていただかないと」


「いやなに、一度良勝の気持ちを知りとうてな。ハッハッ」


 敵兵の抵抗が無くなって、騎馬の勢いが緩んだ所で勝ちを確信し、軽口も出てくるというものだ。


 そこに、敵本陣を落とし敵将日比野下野守(しもつけのかみ)と長井甲斐守(かいのかみ)を討ち取ったとの報せがはいってくる。そして、本陣前で突撃を止めた、あの足立何某(なにがし)を、前田又左殿が討ち取った事をしったのだった。


 それを聞いた信長様は、大いに喜んだが、気を取り直して全軍へと号令を下す。


「逃げる敵兵の深追いは不要、ぞ。このまま墨俣すのまたまで進み、敵砦を落とす!!」



 主を失った墨俣すのまた砦が落ちるのに、時間はかからなかった。しかし、この墨俣すのまたが、守るに弱く、その割に美濃の主城となる稲葉山城いなばやまじょうへと続く陸路、水路の上で要所となる地であった。


 この先、この墨俣の地の奪い合いが長きに渡り続く事になるのであった。


人物紹介

つやの方:織田信定の娘で、信秀の妹。これから幾度も政略結婚で嫁ぐことになる信長の叔母。嫁ぎ先がことごとく戦で負けてゆく、不運の星を持つ。

長井甲斐守(かいのかみ):長井衛安。六人衆のうちの一人。六人衆とは、一色義龍配下で内政、外交で義龍をささえた宿老達。

日比野下野守(しもつけのかみ):日比野清実。六人衆のうちの一人。お艶の方の最初の旦那。


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