表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/28

1561年(永禄4年) 一色家の陰

 今川大規模侵攻を経て、尾張の地をとりまく状況は様変わりしていた。


 南の三河に対して林新五郎殿が交渉をになっており、兵へは無く和議にて固めようとしていた。そして、兵の向き先は北の美濃へと向けられていた。


 信長様正室お濃の方様のご実家。しかし義父である斎藤道三は、嫡子の高政とのお家騒動にて討死された。

 その斎藤高政は、一色家の家名を襲名し、義龍と名を変えて美濃を治めていた。


 信長様からすれば、義父の仇が義兄である。そして、ここでお濃の方様を実家に返さないのは二つの意味があった。


 一つ、斎藤家より美濃の地を簒奪した一色家は、親子であっても別家とみなし一色家とは縁戚関係ではない、という事。

 一つ、織田家が保護している新五郎(のちの斎藤長龍)が斎藤家の正当な後継として、織田家が後見となり、斎藤家が治めていた美濃を得る大義名分とするべく、斎藤家との縁戚関係の継続を示す。


 そんな経緯があり、美濃の一色家は明確に敵対関係とみなしていた。


 そしてそれは、尾張国内の安定化と南の三河に対する備えが軽くなった事により、対美濃へ兵を割ける様になった矢先の出来事だった。


 いつもの様に、馬廻りとしての案内のお勤め中の事であった。


新左衛門しんざえもんは嫁を貰ったってのに、お前はどうするんだ長秀?手柄ならお前も上げてるだろうに」


 今日、勤めを同じくいている河尻与四郎かわじりよしろう殿が、空いた時間に話しかけてきた。


「どうかな。織田家に入っては日も浅くて、昔馴染みとうのも無く、馬廻り《どうりょう》以外、目立った付き合いもない。それに、の家の事もあるから、縁組を持ち掛ける方は困るでしょうに」


 与四郎よしろう殿は俺が馬廻りとなって以来、元から面倒見の良いたちなようで、時折世間話をするようにはなっていた。

「あぁ、元をたどれば織田家の主筋、か。確かに、縁談申し込みする方は気後れするか。なんだ?家の事情なぞ気にしない、惚れた娘の一人も居らんのか?」


「それこその御家柄を考えると、どこぞの町娘という訳にも行かず、ってとこですかね」


「煮え切らん男だの~。そう言えば、わしの従姉が嫁ぎ先から帰ってきたのだが、娘連れでおったはず。どうだ?」


「どうだ、って何ですか!?そんな軽々に。たった今、縁組持ち掛けるのは気が引けるって言ったばかりで?!」


 与四郎よしろう殿はにんまりと笑う。


「世の中、後家好みというのもあるらしいしな。親でも子でも、どちらでも好みを申せ。ちなみに親の方は儂の三つ上だ、ひゃっひゃっひゃっ」


 この時、与四郎よしろう殿は35歳。その三つ上となると、母でもおかしくない歳だ。


「な、なにを……」


 言い返そうとした所で、駆け込んでくる足音があった。


「何事か?!!」


 駆けこんできた者は、これはまた足元の汚れが激しく、遠方からやってきた事が分かった。


「御館様へ伝令でござる。急ぎ取次ぎ願いたい!!」


「わかり申した。お館様、火急にござります」


 焦る伝令を引き連れ執務室へ通すと、それまで側小姓と話していた信長様が話を止め、伝令へと視線を移した。


「火急とは何事か」


「は!美濃の一色義龍の子が14にして元服、龍興たつおきと名乗ったとのことです。そして、当の義龍はひと月もの間姿を見た者はおらず、城で働く奉公人共の間でも重病との噂が立っている、との事でござりまする」


 直ぐ様、信長様が声を上げる。


「兵を集めよ!!今、義龍は恐らく動けぬ。わっぱの元服も自らの不調に備えてのことであろう。今川との戦の最中、背後をつかなんだのも病であれば説明がつく。この隙、つかせてもらうぞ」


 そこから、小姓と馬廻りが慌ただしく戦支度を始めた。


 :

 :

 :



 織田家には、というか信長様配下には、他家にはない制度があった。それは、馬廻り衆と小姓組から選抜した精鋭集団「母衣衆」である。

 戦で集まる兵のほとんどは、普段は城勤めでもない民衆から集める。しかし、この母衣衆は戦の為の精鋭集団であり、ただの兵とは比べるまでもない精強さを持つ。


「兵はどれほど集まったか」


「はい、急な寡兵でしたので二千程かと」


「それほど集まれは十分、此度の目的は美濃攻略の橋頭保確保、である」


 その報告を聞いていると、見覚えがある具足姿が目に入る。


「呼ばれてないけど参上!!前田又坐衛門(またざえもん)ここにあり!!」


 善照寺ぜんしょうじ砦以来の衝撃だった。


人物紹介

お濃の方:信長の正室で斎藤道三の娘。帰蝶とも。母親は明智家の出の小見の方で、光秀とは従兄妹とされている。子供が多い信長だったが、お濃の方との子は居ない。

一色義龍:美濃を治めた斎藤道三の子で斎藤高政。実の父が、道三が政争により追放した土岐頼芸とする説がある。道三を討ち美濃の支配権を奪うが、33歳で病没。信長に美濃絶対獲らせないマン。

斎藤新五郎:斎藤道三の末子で義龍の弟。長龍とも利治とも伝わる。母がお濃の方と同じ小見の方の縁で、義龍反乱の中、斎藤家の後継として信長が庇護していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ