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1560年(永禄3年) 木下藤吉郎という男

 兄が国外追放処分となるのを聞いてから、城内を歩いていた。


(信長様と信勝様といい、兄弟とは一体……。足を引っ張るもの、なのか?)


 気が滅入っているところ、一人の奉公人?が話しかけてきた。


「これはこれは、毛利様。桶狭間でのご活躍で、この度河内守(かわちのかみ)を襲名された、との事で。おめでとうございます」


「あ、あぁ、ありがとう。で、お主は?」


「あぁ、これはご挨拶がまだでしたな。木下藤吉郎きのしたとうきちろうと申します。信長様の草履取りをさせてもらっておりましたが、台所奉行だいどころぶぎょうを拝命いたしまして。いやぁ、戦働きされるお歴々には及びませぬが、儂も手柄を立てて、武士へとなりとうございますな」


 なんだ?この色々と含みのある言い方をするヤツだな。


「信長様は家柄ではなく能力や手柄で取り立ててくれるお方だ。お主がお家の役にたてば、いづれは武士にも取り立ててくれるだろう。お主の働き次第だろうて」


「そうなんですよ。儂なんぞの流れ者を、奉公人として取り立てた上、お役目を与えてくれるようなお方ですから。本当にお使えしがいのあるお方です。ただ……」


 何か言い澱む。


「家柄も、やはり無いより有る方がよろしいようですな。河内守様や新介様を見ていると、そう思い知らされますわい」


 なるほど、この者は俺の血筋をうらやんでいるのだ。生まれてからの恵まれた生活。家が無くなってからも、周りには家の威光で手を貸してくれる者が多数いる、と。


「まこと、噂になっておりますよ?此度こたび、毛利の新介様が大将首を取れたのは十郎様が河内守様をおはぐくみした褒美があってこそ、と。毛利家が躍進しているのは、河内守を引き取った幸運のおかげ、と」


 ふ、笑いがこみ上げてくる。


「ふ、聞いてはおらぬが、俺を育てている事で親父殿に何かしらの褒美があった、のだろう。此度の戦前に、モノの良い具足と槍を伸介と共に譲り受けた。だが、わたしも新介も、手柄は戦で、槍働きをして手にしたものだ、なんら恥じる所はない」


「ほう、左様にお考えですか」


「それにたった今、我が兄上の国外追放の沙汰を聞いてきた所だ。いくら家格があろうと、何事も思うように行く訳ではござらぬよ、はっはっはっ」


「は?河内守様の兄上というと、尾張守護の?!」


 さすがに、これを聞いて藤吉郎は驚いたようだ。家柄にコンプレックスを抱いているようだから、その家柄を持つ者が堕ちてゆく姿を、一体どのように思うのか。


「これで解るであろう?今の世では家格なぞ、家柄なんぞ、使えるかどうかも当人次第よ。では、わたしはこれにて」


 と、驚いて何か考えている藤吉郎を放っておいて行くが、きびすを返して藤吉郎の耳元へとささやいた。


「我が兄上の件、内密に頼みますぞ」


 聞いたばかりで、初対面の者に話してしまうのは、我ながら迂闊だった。

 しかし、何というかつい余計な事でも話してしまう、不思議な雰囲気を持っていた男だった。


 しかし、木下藤吉郎、か。


 って、確か豊臣秀吉の出世前の名前じゃ無かったか?!


 振り返って、後ろ姿を見る。


 小さな、丸まった背の、今は粗雑な身なりの、威厳も何もない奉公人の一人だった。


 これが、後の天下人なのか?


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