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魔法の鏡はわたって行く

 鏡の悲痛な後悔の叫びを聞き、最は再びオールをゆっくりと漕ぎ始める。

 空は再び晴れ渡り、渡ってきた川にきらきらと反射してまぶしいほどであった。


「本当に遅いのかな」

「だって遅いではありませんか! お妃様はっ、もう……」

「まあまあ落ち着いて。到着しましたよ。気を付けて降りてね。あ、あれが白雪姫か」


 到着した先にいたのは白い肌に黒い髪、頬に赤がさした可憐な少女。

 ただし、その姿は鏡の知の知らぬものであった。

 

「……そんな!? おかしいです! 何故白雪姫があんなにも幼いのですか!?」

「なんでだろうね。それにしてもお妃様、あんなに小さな白雪姫を美しいって思ってたの? まだふくふくで可愛いって段階でしょ」

 

 鏡はしばらく沈黙しながら、可愛らしい白雪姫を見つめていた。自分がどこにやってきたのかを察したのである。

 幼児の白雪姫。そのときの妃はまだ……

 

「俺にはそんなにおしゃべりなんだから、言えるときに言っとかないと後悔するんじゃない?」

「……渡し守様、貴方はとても素晴らしく優しいお方です。きっと貴方の住む『物語』も、とても美しく優しいのですね。どうかご家族と、これからもお元気で」


 桟橋に小舟を固定し、板を陸にかけた最に向かって早口でそう告げると、鏡はいそいそと陸に上がった。重厚な造りをしているとは思えぬほど軽やかなステップで、一目散に王城の中へかけていった。大切な、世界一美しい持ち主に再び会うために。

 鏡の姿が見えなくなるまで見送る。この後どうなるかは鏡次第。だけどきっと大丈夫だろう。あのおしゃべりで優しい鏡なら、きっと妃を良い方向へ変えていけると、最は確信していた。


 「さてと、うまくいったかな?」

 

 船に積んでいたカバンの中から古びた本を手に取り、紙を傷つけないようゆっくりとページをめくる。目的のページまでたどり着くのに時間がかかったが、満足そうにその見開き1ページにも満たない短すぎる物語を確認した。


「昔々あるところに、美しい王女がいました。王女は厳しくも優しい継母の教えのもと、楽しく勉強して継母のように賢く美しい、そして少々お転婆ながら立派な女王となりましたとさ……」


『白雪姫』であった物語を読みながら、最は上機嫌に小舟から降り、地面に寝転がる。

 

「良いことをすると清々しいよ。物語を『退屈』にするだけでみんなが幸せ。これだから渡し守はやめられない」

 

 童話『白雪姫』における『妃』は、白雪姫の『試練』だった。嫉妬する継母(試練)がいなければ、毒リンゴ(試練)を乗り越えなければ、白雪姫は『白雪姫』の物語となり得ない。そこにあるのは「ただの王女」の物語だ。「魔法の鏡」「7人の小人」「毒リンゴ」「ガラスの棺」……白雪姫を『白雪姫』とたらしめる要素はもういない。「姫に嫉妬する継母」がいなければ存在できないのだから


「自分から行動を起こさないんだから仕方がないよね。主人公が行動を起こさないでここまで語り継がれる物語になる方が奇跡だよ。昔のお姫様は楽でいいなぁ、(頓挫した物語)も何百年か前だったら…………(完成)になれてたのかなぁ。嗚呼ずるい」


 表情の抜け落ちた顔で、無気力に最はつぶやいた。

 

 白雪姫が羨ましい。

 彼女は何もしていない。清く正しく美しく眠る。

 それだけで舞台は動いてくれる。

 「敵」も「解決手段」もすべて向こうからやってくる。

 皆に認められている。語り継がれている。

 この世界のすべてが彼女の為にあるならば……




 とある平和な国の王城は、毎日がにぎやかだった。

 

「お妃様! 今日も変わらず美しいですよ!」

「お黙り鏡! 今は王女の授業中ですよ!」

「そんなこと言いながら内心とっても喜んでいるのはわかっております! この鏡は誤魔化せませぬよ!」

「本当にこの鏡は……! いつからこんな無駄口を叩くようになったのかしら……! まぁ悪くはないけれど……」

「おや、お妃様何かおっしゃいましたか?」

「いいえ! 何も言っておりません!」

「あはは! お義母様お顔が真っ赤! まるでリンゴみたい!」




――リンゴの(試練)なんて抜いてしまえ!

ここまで読んでくださりありがとうございます。


童話に関する小説を書きたいと思い、『白雪姫』を改めて振り返ってみて「お妃様と魔法の鏡がすごく仲良しでわいわいしている」世界線が見てみたいと思って書いてみたら、何故かアンチテーゼ気味なお話になっていました…!


毒リンゴやガラスの棺等、白雪姫を構成する独自の「要素」を登場させるには、お妃様の行動あってのことなんだなと、改めて勉強になりました。

原作の白雪姫も、現代版もパロディ作品もみんな素敵なお話です!


「魔法の鏡編」はいったん終了ですが、また違う物を小舟に乗せていく話をどんどん書いていこうと思っております!

主人公が今後どうやって童話と向き合っていくか、私も楽しみにしています。


それでは別の作品でまたお会いできることを楽しみにしております。

よろしければ感想欄で、みなさんの解釈やこういう白雪姫も面白そう!という妄想を語っていってください!


お付き合いくださりまして、ありがとうございました!

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