000,南の瓦礫の街(没)
草原にエルフがひとり、南に向かって歩いている。
空を飛んでいた鳥が目の前を滑空して行った。
エルフの右耳に付いている耳飾りが喋った。
「鳥が低い所を飛んでいるねー」
それに対してエルフ、スオウは
「曇っているし、雨が降るかもね。降り出す前に南の街につけるかな。」
「微妙なんじゃない」
ポツポツとスオウと耳飾りは話している。
傍から見ればエルフが歩きながら、目に見えないなにかと話しているようにしか見えない。
遠くに南の街が見えてきた。
「良かった、これなら濡れなさそう」
「耳飾りなのに、濡れるの嫌いだよね。」
「うーん、うまくは言えないけどさ。チョットだけどカラダが削れている様な、溶けている様な、腐っているような、、、そういう変な感じ」
「それ、痛くはないの、、、」
「ん、珍しく引いてる!死体を見た時ですら、ちょっと眉をひそめただけで、その人の所持物を取っているのに!」
「その言い方は失礼じゃないか、使えそうな物を取ったあとは、遺品になりそうなものも取って、グールにならないように、ちゃんと埋葬してるし。その人には少し申し訳ないが、生きる為には必要だからね。」
「フーン、で、痛くはないかダヨニ、不快感があるだけで痛くもなんともないよ。なんだ少年?心配してくれたのかい?」
(ダヨニ、?)
「そうなのか、心配はしたぞ。」
「なんで照れないのかねぇ。あれ、門兵居なくない?」
門まで来たが、警備をしている門兵が一人もいない。南の街には二つ門があるがひとつは、貴族や王族なんかの偉い立場の人、もうひとつはそれ以外の商人や、旅人、なんかが通る門だ。どちらにも必ず門兵は居るはずだが。
「誰も居ないのカニー?」
(カニ、?)
「そうかもしれないな、中に入るか。」
人が居るはずの場所には誰もいなかった。
「コレハー、」
「伝染病でも広がったのかな。一応布を巻くか。生きている人がいるのを期待しない方がいいな。」
荷物から布を取りだし、口元に巻いて門をくぐった。
「ウワー、建物ボロボロー、」
「死体がそこらじゅうに転がったりはしていないか、家も覗いて見るか。」
すぐ近くにあった家のほとんど意味を成していない扉を叩いてみたが返事も物音もなかったので入ってみることにした。特に変な匂いはせず、床には薄くホコリが被っていて、しばらく人がいなかったことが伺えた。他の家にも入ってみたが同じように床にホコリが被っていた。
「誰も居ないねー」
「街の中心部に行ってみるか。いるかもしれない。」
「なにかが爆発したのかなー、跡があるね、それに建物が少し焼けていルる、」
「でも焼けていない場所もある、あまり火が回ってないうちに雨が降ったのかな、もっと中心部に行くか、」
「うっわー、これは酷い」
そこにはきらびやか、とまでは言わないが綺麗な街並があったであろうが、見るにも無惨な廃墟があった。
「ひとつでも、無事な家があったら色々あっただろうし、一晩過ごせたのに、門の辺りまで戻るか。」
馬車が七つ横並びになっても通れるような広い道を歩いて行くが、石畳が剥がれたりしている場所が多く、少し歩きづらかった。
「良かった。雨が降る前に戻れた、にしても湿気ってるな、」
他に比べてだいぶ綺麗な建物の中を見ているうちに雨が降り出した。
「今日は干し肉とレーションを食べるのか?」
「そうだね、食べ物なんてなかったし。」
「にしてもここ、生きていた街から人だけ消えたような、、、やな感じー」