0093
ミュウさんに手続きを頼むと、今回の狩りで俺のランクは6になったらしい。だから早過ぎないか? ギルド的に大丈夫なのか? 余計な揉め事はゴメンだぞ。
「こちらが新しい登録証になります」
「ここでランクアップは終わりだな」
「そこから上は面倒臭いからね」
「私も面倒な事をやって今のランクですからね」
「ランクが上がると面倒なのよね」
「あの、皆さん。面倒事のように仰るのは……」
「事実だろう、ミュウ? 何か間違ってるかい?」
「………」
「ダナさん。受付嬢が答え辛い質問は止めて下さい」
「答え辛い事が答えだろうに。アルドがランクを上げるかどうかは本人次第さ」
「それは、そうです。ギルドとしてはランクを上げてほしいのですが……」
「お断りします」
「まあ、そうでしょうね」
「ところでヴェル。そろそろアタシ達が居なくても、やっていけるだろう?」
「それは、まあ……。どこかへ行かれるので?」
「旅をしようと相談しててね。近い内に村を出るよ」
「そうですか。寂しくなりますね」
「後、見送りなんかは要らないよ。アンタ達はしっかり仕事しな」
「生きていれば、また会えるでしょう。寿命が過ぎていたら……済みませんね」
「そういえば不老長寿になったのよね。すっかり忘れちゃってたわ」
「普段は意識する事もないからなぁ……」
ダナはギルドの人達との別れを惜し……んではないな。本人は不老長寿だからこんなものか。少しの間、知り合いだった人達……という認識なんだろう。
不老長寿と寿命のある人達。けっして交わる事は無いんだな、と改めて理解出来る光景だ。ダナやシュラが不老長寿の男を求めたのも、そういう部分が大きいのかもしれない。
何と言うか、根本的な部分が違うんだ。始まりの部分が違うから、その先がどうなっても交わらない。限りなく近付く事はあっても、交わる事は決して無い。多分そんな感じだ。
こういった部分は、これからも感じていくんだろう。前に思った”不老長寿の生き方”というのを、これからきっと学んでいく事になる。
固い話はもう止めよう、面倒だし答えも出ない。
俺達は宿の部屋に戻って、ゆっくり休む事にした。2匹は喜んで俺に突撃し甘えまくっているし、俺は旅に出る為の酒作りをやらされている。
ワインの【熟成】にブランデーやウイスキー作り。更にシードルとミード作りもやった。もう、夕方だ。
いつの間に夕方になったのか記憶が無い。とりあえず食堂に下りよう。
いつもの注文をして大銅貨6枚を支払う。カウンター席で水を飲んでいると女将さんがやって来た。
「ダナさん。聞いたんだけど、旅に出るんだって? 寂しくなるよ」
「ギルドから伝わったのかい? ギルマスも辞めて、今は自由なんだ。だから旅でもしようかと相談しててね」
「私達は死なない限り、寿命はありませんからね」
「アタシからすれば、100年程滞在してたって感じなんだよ。終の棲家という訳でもないしねぇ」
「私達のような不老長寿だと、終の棲家という考え自体がありませんから」
「そうなんだ。色々な所が、私等とは違うんだね」
女将さんは納得したような出来ないような、そんな顔をしていた。どんな顔をされても俺達には何も出来ない。ゆっくり夕食を味わって食べた。
部屋に戻り、2匹を浄化して一緒に遊んで居ると、ダナから相談をされた。
「何だかんだと100年ぐらい居るから、みんな寂しがってくれてる。でも見送りとか困るから、明日旅に出る事にしないかい?」
「そうですね。私達からすれば、たかが100年ですが、他の者からすれば違いますしね」
「私が村長になってから80年くらいね」
「メルも長いな」
「気付いたら80年経っていた。そんなところかしら」
「不老長寿も似たようなものですよ」
「まずはこの国の主要な都市を浄化しようか」
「主要な所だけで良いのかい?」
「まずは邪気の多い所から浄化していくんだよ。それとダンジョン」
「「「ダンジョン?」」」
「ダンジョンって邪気を集めてるんだけど、知らない?」
「「「知らない」」」
「そうか……。ダンジョンは邪神と空神と創造神で作り上げた物なんだ。下界の邪気を集めて、中の物や魔物に溜め込む。それを戦利品として与えてるんだよ」
「何でそんな事を神様がしてるのさ」
「下界の邪気を下界の者に浄化させる為だよ。要するに物で釣って浄化させてるんだ」
「……利用されてるって事かしら?」
「そう。欲望を綺麗に利用されてる。神託で”下界を綺麗にしろ”と言ったって聞く訳が無い。そんな事は神様も知ってる」
「「「それで……」」」
「ダンジョンの中に集めて溜め込んで、欲しければ浄化しろ。そういう形にしたんだよ神様達は」
「上手く出来てるわね」
「本当ですね。欲望を綺麗に利用されてます」
「まぁ、やったのは神様達だからねぇ」
「だから、ダンジョンに行くんだ。ダンジョンの中を浄化すれば、集まっている邪気を浄化する事になる」
「「「成る程」」」
「この国にダンジョンは2つあるね。1つは王都に、もう1つは北の侯爵領に」
「北の侯爵領はライブルの実家がある所ですよ」
「どっちの方が近いんだ?」
「北の侯爵領に行く途中に王都があるよ」
「まずは王都を目指して旅をしましょう」
「浄化しながら進むから、ゆっくりになるけどね」
「その方が良いですよ。私達なら焦る必要もありません」
「そうだね、不老長寿には不老長寿の生き方がある」
「ゆっくり生きられるなら、ゆっくり生きれば良い。そういう事ね」
「そうさ、だから今日もゆっくり優しくしてもらおうかね」
「「賛成!」」
既にダリアとカエデは寝ている。その所為なのか3人がソワソワしてたんだよ。まぁ、我慢した方かな? ソワソワしながらも会話は続けてたからなぁ……。
この村で過ごすのは、これが最後だ。だから最後の夜に新しい技を解禁しようか。俺は【房中術】を使いながら、非常に軽く【念術】の【極幸】を使った。
【極幸】は一時的に心の幸福を極めてしまう技だ。悪用厳禁の技の中でもかなり上位の技であり、本気で使うと廃人になる程の危険な技だ。だから軽くしか使わない。
ちなみに、慈悲を与える廃人系の技は他にも幾つかある。同系統の技なら【至天】という技もあり、これは一時的に心の悦楽を極める技となる。
どちらも”一時的”と言いつつも、本気でやると永続してしまう危険な技だ。本来は慈悲を持って、相手を殺す前に使用する。【念術】にはこういう技が結構あるんだよ。
キマってしまっている3人を含めて、部屋の中を言い訳出来ないレベルにまで浄化した。さて、俺も寝よう。おやすみなさい。
<異世界47日目>
おはようございます。今日は旅を始める日です。空の様子を見ると、今日も良い天気の様だ。部屋を見ると、神聖さが洒落にならないレベルだ。
それでも汚れを取る為に浄化していると、2匹が起きた。
「おはよう。ダリア、カエデ」
「ニャオ!」 「ガォ!」
2匹は今日も元気一杯だ。早速俺の足に全身を擦り付けている。じゃれ付いているのか、匂いつけをしているのか分からないが、楽しそうで何よりです。
そんな2匹と遊んでいたら、3人も起きて来た。
「「「チュッ! おはよう。アルド、ダリア、カエデ」」」
「おはよう、3人とも」 「ニャア」 「ガルゥ」
「「「昨日は、幸せでした///」」」
「あ、あぁ。3人が良かったなら、それで良いよ」
3人はとても嬉しそうなだけだ。特に昨日の【極幸】の影響は見られない……と思う。今日は全ての準備を整えて、荷物を全部持って食堂へ行く。
3人は部屋を見た後に俺をジト目で見てくるが、それを無視して部屋を出る。食堂に居た女将さんに大銅貨6枚を支払い朝食を頼む。女将さんは直ぐに理解したらしい。
「寂しくなるね……」
「そんな雰囲気は駄目さ。笑って送り出してほしいね」
「うん。ダナさんがそう言うなら、そうしようかね!」
「女将さん。戻ってくるかもしれないので、宿泊代はそのまま預けておきます」
「………分かった。大事に預かっておくよ」
俺達は朝食を食べ終わった後に村を出るのだが、入り口まで女将さんや旦那さんとメルの玄孫やジャロムさんが見送りに来た。登録証を門番に見せて、出発する準備が終わる。
言葉は交わさず見送るのがマナーらしい。何でも、未練がましい態度だと、旅人に良くない事が起こると言われているそうだ。
多くの人の無言の感情を背中に受けながら、俺達はルーデル村を旅立った。
▽▽▽▽▽
0093終了時点
大白金貨1枚
白金貨2枚
金貨30枚
大銀貨35枚
銀貨17枚
大銅貨7枚
銅貨5枚
ヒヒイロカネの矛
アダマンタイトの小烏丸
剣熊の爪のサバイバルナイフ
風鹿の角の十手
二角の角の戦斧
二角の革の帽子
剣熊と銅亀の革鎧
剣熊の骨の半篭手
剣熊の革の指貫グローブ
剣熊の革の剣帯
剣熊の骨の脛当
強打猪の革のジャケット
強打猪の革のズボン
剣熊と銅亀のブーツ