0006
<異世界3日目>
ピャーーーッ! フョロロロ…… ピャーーーッ! フョロロロ……。
昨日に続き妙な声こと丸鳥の声で起こされる。いつか慣れるんだろうか? などと考えつつ、【浄化】の権能で朝の身支度をする。
昨日の夜にやっていた鋼の武器の作成は成功したが、槍に関しては保留する事にした。何故かといえば槍は石製で、錆びる事が無いからだ。
昨日、ウトウトしながら手入れの事を考えていて気づいた。鉄って錆びるじゃないか!? ……と。
いや、今さらだとは思うが手入れが面倒なんだ。【浄化】の権能を使えば一瞬なんだけど、忘れてて肝心な時に”使えません”では話しにならない。
その為、鉄というか鋼にするのは鉈までにする。短刀と鉈が鋼製なら十二分に戦っていけるだろう。
「女将さん。ちょっといい?」
「お客さん、何か不満な所でもあったかい?」
「いや、不満はないよ。そうじゃなくて鍛冶屋の場所を聞きたいんだよ」
「鍛冶屋かい? それならドワーフのガルドルさんの所だね。でも何しに行くんだい?」
鍛冶屋の主人はドワーフらしい、その事に若干テンションが上がる。ドワーフはテンプレ通り、背が低いのか? 筋骨隆々なのか? 髭モジャなのか? 色んな事を想像してしまう。
だが、女将さんとの話が先だ。
「何って……武器を買いに行くに決まってるじゃないか」
「あー、やっぱりそうかい……。実はね、ガルドルさんは武具屋のウィンさんに卸しているだけで作ってはくれないんだよ」
「えっ? ……そうなの?」
「ガルドルさんは少々人嫌いでね。昔とても嫌な客がいたらしく、今は作ってくれないらしいよ。ウチの包丁もガルドルさんの作ったものだけど、買ったのはウィンさんの所さ」
「なるほど。じゃあ武具屋の場所を教えてほしい」
「??? ……武具屋は傭兵ギルドの目の前だよ?」
「そ……そうだったのか、全く見てなかった……。ありがとう」
「一度村の中を見て回ったらどうだい?」
「考えておくよ」
赤っ恥を掻きながら宿を出て、屋台で食事を購入する。昨日と同じ、朝と昼の分の串焼きとパンを買い大銅貨2枚を支払う。森などにスープは持って行けない。
今はまだ食事に飽きてはいないが、何か考えておくべきかもしれないな。女将さんとの話しじゃないが、村の中を見て回っておいた方が良いだろうか?。
串焼きも肉が違っていたり、タレがかかっていたりと、様々な串焼きがある。パンも色々あるし、ガレットっぽいものもある。なので大丈夫だとは思うんだが……。
最悪は果物とかにも手を出せば良いか……高いけど。とはいえ、日本でも”食べられればなんでもいい”という感じだったので結局気にしなくなるんだろう。
この肉体の影響か元からそうなのか、異世界に居るのに”日本食を食べたい”と思わない。それが普通なのかズレてるのか。そんな事を考えていたら武具屋に着いた。
武具屋の中は広い様な狭い様な、なんとも微妙な感じだった。鎧や盾などは入り口に飾ってあって見栄えはいいのだが、中に入ると雑貨屋よりも雑多としている。
包丁の横に斧や鉈があったり、槍を立てている木の樽にツルハシが突っ込まれている。鎌の横にナイフと弓があったりもしていて、滅茶苦茶過ぎだ。
思わず整理しろよ! と言いたくなるが他人の店だし自重する。
「すみませーん。この鉄の斧と鉄の鉈は幾らですか?」
「いらっしゃい。斧が大銀貨1枚で鉈が銀貨3枚だね」
女将さんには聞かなかったが、店主はなんとエルフだった。
なんでこんな所でいきなりエルフが出てくるんだよ! そうツッコミを入れかけて思い止まる。話しを続けないと不審者にしか見えない。
「斧が高いなぁ……」
「仕方ないさ。ウチも商売だというのもあるけど、鉄製のは多少高くなる。それにドワーフのガルドルが作っているしね」
「やっぱりドワーフが鍛えると良い物になるんですか?」
「まぁ、流石ドワーフと言える物になるね」
「うーん………買います。大銀貨1枚と銀貨3枚ここに置きます」
「ありがとう。どっちも長く使える良い物だから、長く使ってやってよ」
「えぇ、もちろんです。高い買い物ですしね。じゃあ俺はこれで」
「またどうぞー」
購入した斧と鉈をバックパックに詰めながら、ふと考える。エルフと金属ねぇ……。変わっているのか、普通のエルフなのか。この世界の常識が未だにあんまりないので判別がつかない。
購入した斧は伐採用の斧で結構大きいし、鉈も刀身が40センチを超える大型の物だ。【錬金術】や【練成術】を使うと間違いなく金属の量が減るので、このぐらいの大きさの方がいい。
ついでに使わない青銅の短剣を売ったが大銅貨2枚だった。錬金や練成をするのは森に行ってからだ。まずはギルドに行く。
カラン! カラーン!
ギルドに入るとそこには人、人、人。どうやら朝の忙しい時間にかち合ったらしい。面倒なので近くにある椅子に座って待つ。
ジロジロ見てくる奴は居るが喧嘩を売ってくる奴はいない。まぁ、普通の奴はそんな暇な事はしない。
ゆっくり他の傭兵を見物していると、向こうからダナさんが近づいてきた。一体何の用だろうか?。
「おはようアルド。ちょっと聞くんだけど、アンタ【錬金魔法】と【練成魔法】が使えるんだよね?」
「はい、出来ます。この槍も自分で作った物ですよ」
そう言って俺は自分の槍をダナさんに渡す。
「こいつは……まさか石槍とはねぇ……」
人が減ってスペースが空いたからか、ダナさんはその場で槍を振ったり突いたりする。槍を振る音が少しの間響いたが、ダナさんは何か納得した表情で言い出した。
「こいつを5本。それに他にも石や木で武器を作って貰いたい」
「それは傭兵ギルドの仕事として、ですか?」
「もちろんそうさ。ハッキリ言って、こいつは石や木で出来てるとは思えない程には優秀だ。ギルドの予備と新人共への貸し出しで多少持っておきたい」
「仕事なら問題ないです。タダ働きはイヤですからね」
「アハハハハ。誰だってタダ働きはイヤさ。好きな奴なんて居やしないよ」
いえいえダナさん、日本には……ゲフン! ゲフン! あ、危なかった。俺は不老長寿であって不死じゃない。なんか謎のパワーで殺されるところだった。
「なんだい変な顔して。なんだったらアタシの体をボーナスで付けようか?」
「ダナさん、そういう冗談は色々と心に傷を負うので勘弁して下さい」
「アハハハハ、そういう目に遭った事があるならいいさ。新人は騙される事もよくあるからね。アンタもギルドが仲介する仕事だけにしておきなよ」
「話を戻しますが、槍以外は何ですか?」
「取り合えず剣10本は確実さ。後は片手斧が3本とメイスが3本って所だね」
「……という事は、荷車牽いて木を伐って、石を集めに森へ行くか」
「作るのはアンタに任せるよ。とりあえずカウンターに行くよ」
カウンターで仕事として受ける。ミュウさんは何か言いたそうにしていたが、何も言われなかった。
昨日と同じ森に行けばいいだけなんだが、問題は【錬金魔法】と【練成魔法】だ。実は【錬金術】や【練成術】より下手なんだよなぁ。術の方が難しいのに。
それでも良い物は作れるので、たぶん大丈夫だと思う。人前では【魔術】【錬金術】【練成術】は使えない。【浄化】【闘気術】【念術】は問題ない。
【浄化】の権能は比較できないとほぼ分からない。綺麗になったり浄化された事が分かるくらいで、俺がやったという証拠は出せない。
【闘気術】は使える者が結構いるので、よっぽど強い力を使わない限り問題ない。【念術】に至っては、【念動】以外は使われた事を感じ取る事なんて殆ど出来ないだろう。
まずは荷車屋に行く。荷車は大型の物も借りられるらしく、それを借りていけと言われたので借りていく。
大きな荷車は低い屋根無し馬車みたいな物だった。金額は1日銀貨1枚もする高価なものだ。
入り口で門番に挨拶し、森へ向けて出発する。身体強化は使わなくても牽けるので、これも訓練だと思いゆっくり進んでいった。
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0006終了時点
金貨3枚
大銀貨5枚
銀貨5枚
大銅貨11枚
銅貨4枚
鋼の短刀
石の鉈
石の槍
鉄の斧
鉄の鉈